夢と現

中川葉子

第1話

 目を覚ますと天蓋付きの豪勢なベッドに横たわっていた。夢であることはすぐにわかる。昨日私は自室で親と共に眠ったのだから。

 少し冷静な気分で夢の世界を見渡すと、何もない空間だった。部屋自体は大きいがど真ん中にクイーンサイズの天蓋付きベッド。そして横に小さな丸形テーブル。しかなく。私はとりあえずテーブルの方へ移動した。


「ねぇ、おはよう?」


 小さく悲鳴が上がりそうになるが、声の方向に目をやると、鈍色の髪の紫目の美しい少女が座している。隣には好物なのだろうか? 赤く熟した林檎が置いてある。

 あまりの美しさに撫でようとするが邪険な顔で私の手を振り払い、彼女は静かにテーブルから足を下ろした。足を下ろす。その所作でさえも息を呑む。

 彼女は静かに舞い始めた。私は名の知らぬ彼女の舞を穴が開くほどまばたきの時間すらももったいないと思うほどに見つめる。どういう踊りなのか種類はわからない。おそらく彼女のオリジナルなのだろう。

 舞に集中し心から楽しんでいるからかどれほどの時間が経ったかわからなかった。すると突然彼女は舞をやめテーブルに戻った。鈍色の長い髪をうざったらしそうに横に払いながら紫の眼はじっと私を見ている。そのままの状態で数分が経ち、彼女は右手に林檎を持ち小首を傾げ言った。


「ねぇ、食べる?」


 そういうと一口齧り無邪気に笑った。


 ここで夢が覚める。私は寝床から飛び起き慌てて箱の方に行くと小さく一口かじられた林檎が箱の横にある私が寝ぼけて齧ったのか、彼女が齧ったのか。後者であることを祈りながら確認しようと箱を開くと鈍色の長い髪の紫目の少女が魅惑的に笑っていた。

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夢と現 中川葉子 @tyusensiva

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