第5話 信憑性
(取手みたいなもんはないな……)
ブージにはどうやればこの、明らかに怪しい扉を開けられるかが、てんでわからなかった。
これではまるでお預けくらった犬だ。
「クソがっ!!!」
目の前にあった大魚を逃した憤りから真っ白な通路の壁を、ダンッ!と勢いよく叩いた。
ビーーーー!
けたたましい機械音とともに巨大な扉がこれまた勢いよく開いた。
困惑しながら叩いた場所をライトで照らすと小さな黒いパネルが出現していた。
(マジで流れが来てるぞ!これは!)
なぜ先ほどまではなかったパネルが出現したかなどの原理はわからないままだったが、なんにせよ餌にありつくことができた喜びからブージは扉の中に突撃していく。
中は小綺麗で広々とした実験室とも研究室ともとれるような、大量のデスクや実験器具が散乱する部屋であった。
人の気配などは感じられなかったがデスクの上に無造作に積まれた資料などを動かしても埃一つ落ちない様子を見るとごく最近まで人の手が入っていたことが容易に想像することができた。
何気なく手に取った紙束をパッと見ただけでも、この施設の職員名簿らしきものや、よくわからない薬品の名前らしきタイトルがついたグラフの載った資料など、素人目に見ても何らかの価値はありそうなものばかりであった。
場所を特定しただけでも手柄であるが信じてもらえなければ意味がない、ブージはそう考え一番価値のありそうな資料を一つか二つ持ち帰ることにした。
「?」
ブージは小銃を机に置き、どれが一番信憑性があるかと資料を漁っているうちに、やたら不思議な資料が多いことに気が付いた。
魔法陣のようなものや、見たこともないような言語で書かれた文書ばかりなのだ。
その珍妙な資料の束に妙な興味を惹かれたブージは、さらに資料を他のデスクからも集めていく。
ふと、その不可思議な資料の著者名はほとんどが同じ名前であることに気が付き、そのアルファベットを指でなぞりながら呟いた。
「アレクサンダー……?」
「呼んだかい?」
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