第36話 女学生


どれぐらいの距離を走ったのであろうか?


九九の一の段から九の段まで30回以上数えたと云う事は、

1時間程は走った事になるのだろうか・・・



はて?


ここは何処だ?


道を何度も曲がったせいか迷子になってしまった模様である。


ミスターパーフェクトを自負する俺だが、

たまにはこの様なイレギュラーを楽しむのも良い。



俺は寂れた公園にの脇にマシンを停め公園の中に足を踏み入れた。


誰も見当たらない公園である。


俺は汗でびしょ濡れになった白いシルクのガウンを、

公園に備え付けられた水飲み場で洗い木の枝に干した。


全裸になった俺は股間に持ってきたチラシを貼り付け、

ベンチに横たわり雲の流れをずっと見ていた。


それにしても周りに樹木が多いせいか、やけに風が心地よい。


俺はいつの間にか風のゆりかごの中で眠ってしまった。



はて?


どれぐらい眠っていたのであろうか?


夢と現実の狭間の様な空間で誰かの声だけが聞こえる・・・



「この変態オヤジ酔っぱらって寝てるの?」


「ひょっとして死んでるんじゃないの?」


俺はその言葉に逆行するかのように目をパッと見開いた。



「きゃぁぁぁぁぁ!!」


俺の視界には学校帰りであろうと思われる、

セーラー服を身にまとった二人の女学生の姿が飛び込んできた。



「私に何か用かね?」


「・・・・・プッ! ワタクシにだって!ウケるんだけど!」


「私でなければ私は誰なんだね?

キミは私の背後霊とでも話せる力があるのかね?


そう云うともう一人の女学生は

「気持ち悪いから早く行こうよ!」

ともう一人の女学生の手を引っ張った。


すると手を引っ張られた女学生は


「帰っていいよ!この変態オヤジ少し面白そうだし」


「危ないわよ!この辺はよく痴漢が出るって云うし・・・」


「大丈夫!これがあるから」


そう云ってその女学生は、

得体のしれぬスプレーをカバンから取り出した。



「知らないからね!」


「じゃぁまた明日ね~」



その様なやり取りの後、

一人の女学生は帰って行ってしまった。


一人残った方の女学生は俺が寝ていた横のベンチに座り、

何やらじっと俺の方を見ている。


俺は干しておいた木の方に歩いていき、

掛けてあった白いシルクのガウンを羽織り、


水飲み場で顔を洗い、

またさっきまで寝ていたベンチに戻り腰をおろした。



女学生は俺の横で俺とは視線を合わさず正面の木を見つめながら、


「オジサン・・・」



「何だね?」



「オジサンって変態なの?」



「私が変態に見えるかね?」



「充分見えるけど・・・」



「だったら変態でよい」



「そう・・・だったら変態のオジサンにいい事を教えてあげる。」



「何だね?」



「死ぬの・・・」



「誰がだね?」



「ワタシよ・・・」



「そうかね」



「あれ?驚いてくれないの?」



「それぐらいの事で驚く人がいるのかね?」



「みんな驚くよ!そしてみんな偽善者ぶって止めようとするわ・・・」



「なるほど」



「オジサンは止めないの?」



「止めませんよ。」



「ふ~ん・・・」



それからしばらくの間、

女学生は何も話さず前方の木をずっと眺めていた。



そして俺もその木をずっと眺めていた。



すると突然その女学生は何かを思いついたように、



「オジサン恋人いるの?」



「あぁいるよ」



「えっ!マジ!?どんな人?」



「人間では無い・・・特殊な質感を持ち合わせている」



「特殊な質感?」



「そうだ。」



「それってビニールで出来たダッチワイフとかいう人形のこと?」



「そんな下品な形容はやめたまえ!純愛だ!」



「だってお人形さんなんでしょ?」



「そうとも云うが、そうでもないのだ!」



「話すことだって出来ないじゃん。」



「無口でも心が通じ合っているから問題は無い。」



「なんで純愛だって云い切れるの?」



「お互いがお互いを裏切らないからだ」



「ふ~ん・・・」


そうしてまた女学生はまた前方の木を見つめ沈黙した。





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