第35話 占拠された部屋


この部屋で喫茶店を開店させるなんて、どう考えても不可能である。


これはきっと何かの間違いである。


俺はキッチンの二人に向かって、



「喫茶店の住所が違っていると思うのだが・・・」


と伝えた。


するとケメコから、



「間違ってなんかないわよ!早く配って来なさいよ!

電信棒に張り付けるそこに置いてあるガムテープも、

忘れないで持って行きなさいよ!」


と、、有り得ない言葉が返ってきたのである。


ここは暗証番号の付いたオートロック式の居住用マンションである。


一階に店舗を構えるならまだしもここは24階である。


しかもこの場所で営業許可などおりる筈も無い。


きっと俺の事を崇拝してやまぬ元刑事が、

裏で脅迫まがいの事をして対処したに違いない。



全くなんて奴らだ・・・


何の相談も無く俺の部屋を勝手に占拠しやがって・・・



けしからん!


ここは厳しく一喝してやらないとイカン!



俺は奴らに向かって


「このオタンコな~~す!!ば~ぁ~~か~ばか~ばぁ~~~か!!!」


そう云い放って俺はダッシュでテーブルのチラシと、

ガムテープを持って玄関を出た。



これで奴らも少しは俺の怖さを悟った事であろう。



さて・・・


後はこのチラシをどうするかである。


近所なんかに絶対に配ってはならない。


そんな事をしたら俺目当ての女性客で溢れかえり、

彼女の俺に対するヤキモチが炸裂するであろう。



普段は無口な女ほど怒った時は怖いのである。



白いシルクのガウン一枚を羽織って出て来た俺の、

鍛え抜かれた体のシルエットが、

道行く店舗のガラスドアに映し出される。


そして強い光に照らされ透け透けの、

透明感及び解放感は抜群である。



取り敢えず俺は手に持っているチラシを、

マンションから数十メートル離れた場所に設置された、

選挙用ポスターが貼ってある掲示板の空いている所すべてに、

ギッシリと貼り付けた。



まだチラシはたくさん残っている。


俺は再度マンションの下へと戻り、

ケメコへと乗り継がれたマシーンのカゴにチラシを入れ、

まだ完治とは云えない足の痛みを堪えながら、

繁華街へと続く国道を走りだした。





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