第34話 理不尽な夢


目が覚め時計に目をやると午前10時を少しまわっている。


彼女は眠り姫の様にスヤスヤと眠っている。


香ばしい香りが俺の寝室の中を包んでいる。


俺はガウンを羽織り香りの漏れてくる方向へと足を進めた。



「この豆を使うのならエスプレッソにした方がいいと思うわよ。」


「そうだなぁ~この豆ならドリップじゃなくてエスプレッソだな・・・」


ケメコと俺の事を崇拝してやまぬ刑事は、

何やら専門用語を用いながら珈琲を作っている模様である。



「私にも珈琲を入れてくれたまえ。」


「はぁ?下の自動販売機で買ってきなさいよ!」


「そこにあるではないか!」


「もうウザいわねぇ~だいたいアンタはコーヒー牛乳しか飲めないでしょ!」


「いいから飲ませてくれ」


「まぁいいんじゃねぇ~のか!ほらこれ飲めよ」


ケメコをたしなめるようにして、

俺の事を崇拝してやまぬ刑事は、

俺に出来たての珈琲を差し出した。


俺はそのコーヒーの香りを嗅ぎ、


「ほぉ~これがエロブラッソかね・・

実に香ばしいいい香りであるが、、

しかしカップに洗剤が残っていて、

泡立っているのは気を付けたまえ。」



「あのなぁ~エロブラッソじゃねぇ~し、

泡は洗剤じゃねぇ~し、これから喫茶店をやるんだから、

それぐらいの知識は勉強しておけよなぁ~」



「はぁ?喫茶店?何の話だね?私は初耳なのだが・・・」


「お前、俺たち3人の夢も忘れたのか?」


「何の事だね?」


「小学生の卒業アルバムに喫茶店をやるって、

3人で一緒の事を書いただろ?」


「それがなんで今なんだ?」


「ケメコが今やるって決めたんなら仕方ないだろ~

俺だってさっき職場に辞表を出してきたばかりなんだからよォ~」


「はぁ?お前、、警察辞めたのか?」


「あ~あんなもん誰でも出来るし、

アルバイトみたいなものだったからよぉ~がははは~」



確かにあの頃の俺たちの中では、

ケメコの云う事は絶対という暗黙の決まりがあった。


だからと云って長年働いてきたきた仕事を即座に辞めてしまうとは・・・


「私の今やっている天職はどうなるんだ?」


「お前の天職も転職だわなぁ~がははは~~」


「・・・・・・・」


俺はその理不尽な言動に話す気も失せ珈琲をひとくち口にした。



「おえっ!に、にがいぃ~~~」


「かっこつけてブラックなんて飲むからだよ~がははは~」



するとケメコがキッチンの方からこっちを睨みつけ、


「ちょっと!アンタたち下らない事ばかり云ってないで手伝いなさいよ!」



「はい、はい。ケメコ姫のご指示とあらば・・・」


そう云って俺の事を崇拝してやまぬ元刑事は、

ケメコの方にすすり寄っていった。



全く調子のいい奴である・・・


俺も仕方なくキッチンの方に歩み寄り二人に向かって、



「私は何をすればいいのだ?」


と尋ねた。



その言葉にケメコはリビングの方向を指さし、


「アンタはそのテーブルの上のチラシを御近所さん配って来なさいよ!」


と投げ捨てる様に俺に指示した。



俺はリビングへと戻り、テーブルの上に置かれてあったチラシに目を向けた。




純喫茶  愛来夢 近日オープン


そして俺はそのチラシの書き込みを見て卒倒しそうになったのである。


なんとその喫茶店の地図に記載された住所は、

今まさに俺が住んでいるこの部屋だったのである。




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