第31話 天使と悪魔


「お~~い~ケメコぉ~~~とまれぇ~~~」


俺は両手を広げケメコを止めようとした。



しかしケメコのスピードはいっこうに落ちない。



きっと急ブレーキを踏んで、

俺を驚かせるという幼稚な作戦であろう。



仕方ない騙されたフリをしてやろう。



まったくいつまでも世話の焼ける女である!



「だぁ~りぃ~~ん~いくわよ~ぎゃははは~~」



ケメコは下品に笑いこけながら、

片腕を水平に伸ばして俺に迫ってきた。



(なんだあのポーズは?)



そして直線にして約5m手前で、

ケメコは俺の真正面から少し右に寄り、

その水平に伸ばした腕を俺の首に向かって、

ぶち当ててきたのである!



グギッ!!ごきっ!



「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」



首と腰が一緒に反対側に曲がり、

俺はイナバウアーの態勢で宙に浮き上がり、

そのまま背中から地面に叩きつけられたのである!



「ぎゃははは~ば~~か~~ばっは、は~~い」



そのままケメコは振り返る事もせずに行ってしまった。




「いててててぇ~」


くそ~なんて女だ!


いやアイツは女では無い!


オッペケペイだ!


オッペケペイの毛だ!


アイツはたった今からケメコではなくただの毛だ!


陰毛だ!チリチリだの毛だ!



♪毛・毛・ゲゲゲの毛ぇ~~



あははは~~


もう歌を唄って笑うしかないのである!


立ちあがる事も出来ず青空を見ながら唄っていると、

いきなり頭の上から「オイ!大丈夫か?」と聞き慣れた声が聞こえてきた。



「彼女はどうした?」



「あ~あのダッチワイフなら修理してリビングのソファーに置いてきたぜ!」



「ダッチワイフでは無い!修理とはなんだ!イテテテぇ~」



「変質者がいる!って通報があって来てみたが、やっぱりお前だったな」



「そんな事はどうでもいいから、私をマンションに連れて行ってくれ!」



「あ~連行するには充分な恰好だな!まったくしょうがねぇ~なぁ~」


そう云って俺の事を崇拝してやまぬ刑事は、俺に肩を貸し車まで運んでくれた



まっ黒な高級ドイツ車であった。



「オイ!この車どうしたんだ?」


俺は奴に素朴な疑問を奴に投げつけた。



「次の車が来るまでの代車だぜ!カッコいいだろ?」


「代車?どうせヤバいところから勝手に持って来たんだろ?」


「がははは~」


奴は笑ってごまかしていたが、きっと図星だったに違いない。



「そういえばこれ預かってきたぜ!」


俺は黒猫組の親分から預かったDVDを奴に渡した。


「お~任務終了か?これはなかなかいい拳銃じゃねぇ~か!ありがとよぉ~」


「拳銃じゃねぇ~し!」


その後くだらない会話がしばらく続き、

やっと俺を乗せた車は彼女の待つマンション下に辿り着いた。



「じゃあまたな・・」


奴はそう一言俺に残し、何処かに走って行った。



(イカン!早く彼女を避難させないと、ケメコが帰って来てしまう・・)


そう思いながらマンションのオートロックの暗唱番号を押し、

痛む腰と足を引きずりながら24階までと続く階段を這うようにしてのぼり、やっとの事で俺は部屋の中へと入った。



奴の云った通り彼女は完璧なオペを受け、

ソファーで俺を待っていてくれた。



その姿を見て安心したせいか俺は、

ソファーに倒れこむようにして、

いつのまにか眠りについてしまった・・


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