第22話 守るべきもの



沈みゆく車の中で取り敢えず俺は彼女のシートベルトを外し、

ガラスの開いていた車の窓から強引に彼女を外に出した。


海底から海面方向にまっすぐ伸びるヘッドライトに、

照らされた彼女はまるで人魚姫のように地上へと泳いで行った。



(うっ!苦しい)


彼女に見蕩れている場合ではない!


俺も何とか車を抜け出し、ヘッドライトに照らされた彼女の方向に向かって昇って行った。


息絶え絶えに水の中から顔を出した俺は、月明かりを頼りに彼女の姿を探した。


そして数分後、仰向けになってプカプカと浮かんでいる彼女を見つけた。



1羽の海鳥が彼女の上にとまっている。



(大変だ!意識を失っているかも知れない)


足にすでに感覚がなくなっている俺は、手の力だけで何とか彼女に辿り着いた。



(イカン!)


彼女の体温が異常に冷たい!



俺は仰向けになった彼女の上に体を預け、

彼女を温めるために一生懸命痺れる腰を動かし、

手で水をかき分けながら防波堤に見えるパトカーのサイレンを頼りに、

全ての力を注ぎこみ、やっとの思いで防波堤の下まで辿り着いた。



防波堤の上から警察らしき人物が懐中電灯のようなもので海面を照らしている。



(あそこまで行けば何とかなる・・)


しかしもう腕も動かない・・・


俺は彼女と熱い口づけをかわし心の中で



(少し痛いと思うが許してくれ!)


そして俺は彼女の頭と首の付け根の間にある栓を抜き思い切り抱きしめた。



プシュウ~~プクプクぅ~~



少し余力がついたのを利用して、

俺は最後の力を振り絞り光の円の中へと向かった。



「オイ!居たぞ!これに掴まれ!」



その声と共に一本のロープが下に降りてきた。



(このままでは彼女が危ない!)



そう判断した俺はそのロープに彼女の体を巻き付け

「彼女を頼む!」とロープを投げた奴に向かって大声で叫んだ。


彼女が引き上げられていく姿がかすんで見える。



(よかった・・)


そしてその光景を最後に俺の意識と体力はそこで力尽きたのである。


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