第14話 終わりの始まり


あっという間に退院の日が訪れた。


結局、俺はあの日ケメコに合い鍵を渡してしまった。



あれから約一か月と数日・・・


ケメコは病院には現れなかった。


きっと今頃、俺の部屋は俺の部屋で無くなり、

俺の愛する女は酷い仕打ちを受けて息絶えているかもしれない。


病院の玄関まで松葉杖で歩いていくと、

俺の事を崇拝してやまぬ刑事がパトカーで迎えに来ていた。


俺はパトカーに乗り込み一番気になっていたことを尋ねた。



「機密書類の運び屋の仕事はまだ続けてくれてるのか?」



「ん?新聞配達か?あ~続けているぜ!

まぁ今は俺じゃ無くてケメコがやってるんだけどな!がははは~」



(ケメコが・・!!!!!!!!きょえ~~~)



「オイ!それは本当か?」



「あ~本当だぜ一緒に牛乳も配ってるぜ!」



「牛乳も?私のライバルの小僧はどうなったんだ?」



「さぁ~なぁ~ケメコに食われちまってたりしてなぁ~がははは~」



笑い事では無い!


しかしケメコならやりかねない・・・


「そんなことよりもっと驚くことが起こってるぜ!

帰ったらポストを見てみろよ!」



「ポスト?」



「あ~ポストだ!」


そうこうしているうちに俺を乗せたパトカーがマンションの下に着いた。



「じゃあ~なぁ~お祝いはそのうちしてやるからなぁ~がははは~」


そう云って俺の事を崇拝してやまぬ刑事は、

俺を降ろしサイレンを鳴らしどこかへと消えて行った。



ふとマンションの中に入ると、ポストが俺の目に飛び込んできた。


そして俺はおもむろに自分のポストを開けようとしたその時である!


なんとポストの表札の苗字が俺の苗字からケメコの苗字に変わっている。



しかもケメコの名前の方が上に書いてある。


(これはどういうことだ?)


そういえばさっき奴がニヤリとしながら言っていた「お祝い」と云う言葉・・・



まさか!!!!!!!!!!!



緊急事態である!



俺はまだ少し痛む足の痛みをこらえ、松葉杖で階段を駆け上がった。


そうしてもう一本の合い鍵でマンションのドアを開けようとしたその時、


「ちゃりんちゃり~~ん」



しまった!


焦って鍵を地面に落としてしまった。



俺は死にそうになりながら松葉杖を駆使して、

階段で一階まで降りポストを見るところからやり直した。



そして再度階段に駆け込み、玄関の鍵を開け部屋に入り、

ソファーに寝そべってテレビを見ているケメコに、

何で勝手にポストの名前を変えたのかをなるべく冷静さを装いながら聞いた。


すると俺のもっとも恐れていた言葉が聞こえてきた。



「あら?おかえり 一応結婚しておいたわよ!

苗字は面倒だからアタイの方にしておいたわよ」



(一応だと??)


一応?とは?この場合に適切な表現なのか?


いやそんなことを気にしている場合では無い!


俺は冗談であって欲しいとの願いを込めケメコに尋ねた。



「婚姻届を出して籍も入れたのか?」



「そうよ」



きょきょきょぉえ~~~~~~



俺はあまりの衝撃に足の痛みも忘れ


「これは夢なんだ!」


と自分に何度も思い聞かせ、壁に何度も頭をぶつけ夢から覚めようとした。



「あら?なにやってるの?その壁今日塗り直したばかりだから頭がピンク色になっちゃうわよ!」



「あわわわぁ~」



その言葉を最後に、俺はその日のその後の記憶を失ったのである。








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