第9話 地獄のバカンス


真っ暗な部屋の向こうから、光の中を何やら気味の悪い婆さんが歩いて来る。


俺は十字架に縛られ身動きが取れない・・・



(ここは一体どこなんだ???)


気味の悪い婆さんは俺の前に立ち、おもむろに口を開いた。


「あっちにある螺旋階段を昇るかね?降りるかね?」



(螺旋階段?)


俺は婆さんの視線の方向を見渡すと、

斜め右方向に螺旋状になった階段が見えた。


「どういう意味だね?」


俺は意味がわからず婆さんに尋ねた。


「上に昇れば沢山のおなごと酒にまみれた酒池肉林天国、

下に降りてゆけば下等なケダモノ達がお互いを喰いあう地獄じゃよ」



「なるほど・・じゃぁ婆さん地獄に送ってくれ!

女と酒は腐るほど味わってきたからな!」


俺はこういう窮地に立たされた時こそ、

男の美学と見栄を張るべきだと思い心にもない答えをした。



「珍しい人間もいたものじゃ、ならば思い通り地獄に戻るがよい!」



(思い通り?どういう意味だ・・・・)


真っ白な天井が見える



なにやら消毒臭い


「・・・・・・・・・・」


「おぅ!お目覚めか?それにしてもお前、

どんな生命力してやがるんだ?」


俺の事を崇拝してやまぬ刑事である。



「ここは地獄か?お前も地獄に堕ちたのか?」



「ははは~頭を打ってさらにおかしくなったみたいだな」



(そういう事か!確かにこの世は下等なケダモノの喰いあいかも知れぬ・・)


俺は気味の悪い婆さんが云ってた言葉を漠然と思い出し納得した。



「ところであの一緒に飛んだ爺さんは死んだのか?」


と俺が聞くと


「爺さんはお前の両足の骨折と、破裂した内臓のクッションのおかげでもう退院してるぜ」



(退院?)



「私は何日寝てたんだ?」



「今日で丁度一週間だな!」



しまった!


イカン!マズイ!



俺は機密書類を運ばねば・・


俺は即座に起き上がろうとしたが



「イテテテ!」


身動きが出来ない・・・



俺の完成された体が、コントロールを失っている!


なぜだ???



「オイオイ!少なくとも3カ月は無理だぜ!」



何と云う事だ!


これでは牛乳配達の小僧に、俺の縄張りを無茶苦茶にされてしまう。



「私の極秘危険任務は誰がやってるんだ!」



「あ~新聞配達なら俺がやってるぜ!一応お前の生きがいだからな!



もちろん連戦連勝だぜ!こっちはパトカーだからな!がははは~」



「・・・・・」



「じゃあ俺はそろそろ行くぜ!またな・・」



「あぁ~もう来るなよ!」



いつものように俺達は挨拶をかわし、奴は病室を出て行った。


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