第2話 彼女の事情


牛乳配達の若造との戦いはほぼ引き分けに終わり、

俺は自分の隠れ家へと戻った。


そしてマシーンを縦列駐車させ24階まで一気に階段を駆け上がる。


玄関の前に立ち、鍵をポケットから取り出そうとしたその瞬間である!



「ちゃり~ん」


なんと鍵を足下に落としてしまった。



イカン!



やり直しだ!


この俺に凡ミスは許されない!



俺は即座にその鍵を拾いポケットに入れ、

一気にまた24階の階段を下まで降りた。



さぁイクゼ!


一階に着いた俺は気を引き締め、

また階段を一気に上まで駆け上がった。


そして今度は鍵を落とさない様に慎重に取りだし、

玄関の鍵穴に差し込み中へ入った。



全てが完璧である!



「ハ~イ!ハニー」


俺はいつものようにソファーでくつろいでいる彼女に優しく声をかけた。



もちろん返事は無い



俺の彼女は口ごたえをするどころか、何も言わず俺に忠実なのだ。



風は強いがいい天気である


俺は彼女をバルコニーへと連れ出し大きく深呼吸をした。



その時である!


突然の突風に煽られ、超軽量の彼女が宙に舞い手すりを超え下に落ちた。



「きゃあぁあああ~」


通行人の奇声がマンションの下から聞こえてきた。



大変である!


俺はエレベーターに飛び乗り1階へと急いだ・・・


俺は緊急事態の時にのみ、このエレベーターを利用しているのだ!



すでに人だかりが出来ていた



「ちょっと失敬する!」


俺はそういって転落した彼女のそばに行き彼女を抱きあげた。


(太ももの辺りが裂けているが今なら助かる)


そう判断した俺は彼女を背負い猛ダッシュで走った。



すぐにオペをしないと間に合わない。


俺は街角にポツンとたたずむ文具店に入った。



「オイ!何をしている!緊急オペだ!」


店主はあまりにもの非常事態に言葉を失っている。



「オイ!ガムテープは何処だ!」


俺の気迫におののいた店主は硬直し、

ガムテープの置いてある場所を震える人差し指で指し示した。


「恩にきるぜ!」


そう言い残しガムテープを手に走りだした途端に


「どろぼ~」という店主の声が耳に入ってきたが今は緊急事態だ!


泥棒とオペでは救助の方が優先する。


「泥棒はこの後に捕まえてやるぜ!じゃあな!」


と、言い残しまた走り出し


俺は角にある自転車屋へと辿り着いた。



「オイ!オヤジ!緊急オペの準備だ!酸素を持ってこい!」


俺はそうオヤジに言い残し彼女の太ももの裂け目をガムテープで閉じた。



「オイ!何を突っ立っているんだ!酸素を注入しろ!」


オヤジの顔が引きつっている


ダメだ!オヤジは気が動転している!俺がオペをするしかない!


俺は立てかけてあった空気入れという名の酸素注入器を、

彼女の髪の毛の間に隠れているチュープにセットした。



よし!イクぜ!


俺は腕の上下のポンプ運動を繰り返し、

やっとの思いで瀕死寸前の彼女を救った。


「オイ!オヤジ!いいマシーンが入ったら買ってやるぜ!」


そう言い残し俺は彼女を背負い、

また自分のマンションへと向かった。










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