ケース03 なんか見捨てられ系

第5話



 遠足でクラスメイトと仲良しこよしで山登りとか、嫌な予感がしてたんだ。


 俺はクラスの中では浮いていたし、彼等とはとある理由があって仲が良くなかったから。


 だけど、さすがにここまでの事をされるとは思わなかった。


 山登りの最中、足を滑らせた俺は、そのまま落下していきそうになった。

 けれどそれを、近くにあった手ごろな岩場を掴んで堪えたのだ。


 だが、その現場を見ていたはずのクラスメイトは、俺を手助けするどころか、見て見ぬふりをしてそのまま進んで行こうとしていた。


 俺は当然、制止の言葉をかける。


「ま、待ってくれ」


 すると、クラスの中でリーダー格である大柄の少年のとぼけたような声。


「何か聞こえたか? いや、気のせいだろ」

「待ってくれよ!」


 今度は俺は、先程よりも何倍も大声を張り上げて、己の存在を主張した。


「た、頼む。助けてくれ」


 岩にしがみついている俺の姿を、覗き込んで確かめようとする人間の姿はない。


「きっと、何かの動物の鳴き声か何かですよー。そんなの気にするだけ損です、損」


 次に聞こえてきたのは、いつも声の大きな人間の横にいた金魚の糞のような奴。


「それがたとえ誰か人の声だとして、何で俺達がわざわざ助けてやらなきゃいけないんでしょうね。ゴミはゴミらしく地面に転がっていればいいんですよ」


 続けられたそのセリフに、耳を疑う。

 信じられなかった。

 命の危機なのだ。

 それなのに、人間一人を見捨てようとするだなんて。


 そこまで連中が腐っているとは思わなかった。


「う、嘘だよな」


 十数人程の、俺と同じ年のクラスメイト達は、先ほどの言葉を撤回しようとはせず、ただ邪魔者をうっとおしがる様な無言の空気を満ちさせるのみだった。


 俺は今、崖にぶら下がっている状態だ。

 岩を掴んでいるのは右手だけ。

 

 俺は普段から運動をするような人間じゃなかったから、こんな不安定な姿勢でいれば数分と持たないだろう。

 ここから崖の上まで、自分の体を持ちあげるような体力は残っていない。


 ここで見捨てられたら、俺は確実に死ぬだろう。


「じゃあな、短い付き合いだったけど、お前の事は覚えておいてやるよ」

「ま、待ってくれ。頼む、助けてくれ!」


 俺は必死に頼み込むけど、クラスメイト達の気配は遠ざかって行って、とうとう消えてしまった。


 ちくしょう。


「くそぉぉぉ!」


 やがて手の感覚がなくなって限界が来た俺は、崖の下へとまっさかさまに落ちていった。


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