第1話 部活を作り始めます
放課後の職員室、雑務に向き合う教師に授業の解らない部分を聞きに来た真面目な生徒、はたまた教師からちょっとした仕事を押し付けられた哀れな生徒までいろいろな人でごった返していた。
そんな中、俺はクラスの担任で国語担当の先生に用があって来ていた。
「
話しかけられるのをめんどくさそうに、ノートパソコンから目を離しこちらを向く先生、天パ気味の髪を掻きつつその手に付けている指輪が夕日で少し輝く、もう何日も剃ってないであろう不精ヒゲもついでに撫でながら、声の主が俺と知るや否や、顔を盛大に歪ませる。
「……却下」
意気揚々と話しかけたら、まさかの即座に拒否である、学校生活が始まってから真面目に学業に取り組んできているというのにこの反応はおかしい。
「まだ何も言ってないんですが」
「いや、何も言わなくていい、そしてそのまま来た道を戻れ」
「いやいや、せめて話だけでも聞いてくださいよ」
「大方アレだろ、没収された物を返してくれとかそのあたりだろ」
「そっちについてはまた後日にでも、じゃなくて先生、部活を作りたいんです」
先生は目を見開き、
「本気か、青田」
「もちろん
演説のように胸より高い位置に手を持っていき、力強くを握りしめ、青春の貴重さそして尊さを、後半何を言ってるんだか俺自身解ってないが、勢いでこれでもかと訴える。
それに対して先生にはこれぽっち響いてなく、興味が無さそうに質問してくる。
「ふーん、お前ら変態トリオが青春ねぇ、おっさんからしたら今でも十分いや、一二分に青春を謳歌してると思うんだか……それで本音は?」
「騒ぎすぎてクラスを追い出されたので、遊べる
先程の会話に出た変態トリオとは俺こと
ポカンと呆れた顔したが、すぐに笑いを堪えられずに噴き出す。
「……プックックっ……まぁ、追い出されるわな、毎日のように朝から放課後まで隙あればアニメの話から卑猥な話まで何でもしてんだから」
「だからって酷くないですか、話を止めないからってチョークに黒板消し、挙句の果てには
おかげで高校生になったばかりの新品同様、下ろし立ての制服がチョークの粉で所々白や赤に染まっているし、帆花はガチで殺しに来てた、思い出すだけでブルっとする。
「そもそも、今や日本のオタク文化は世界にすら通用するものであり誇らしいものであるというのに女子ときたら」
「でも、お前らマニアックな話ばっかしてんだろ、フィギュアだっけ? 下着の作り甘いだのどうだの、四六時中そんな話を横でされる身にもなれって……ここだけの話、前からクラスの女子からお願いされてたんだよ、注意してくれって、そろそろしようとは思ってたけどめんどくさくてな」
「なっ――先生は女子の味方をするんですか」
「それは違うな、可愛い生徒の味方だ」
なんて教師だ、今のご時世にそんな男女差別をするなんて、これは教育委員会に訴えなければ――
「お前なんか失礼なこと考えてないか、言っとくけど可愛いの意味が違うからな、俺にとってのかわいいは教師に迷惑を掛けない勤勉で真面目な生徒を指す」
危うく、早とちりで先生を無実の罪で訴える所だった。なら俺も可愛い生徒だ、間違いない、いや下手したら学校一可愛い生徒と言っても過言では――
「よって、お前は世界一憎たらしいクソガキだ」
やっぱり、この教師は何が何でも教育委員会に訴えるべきだ。
「何故? こんなにも真面目に勉学に励み、清く正しく過ごしてるというのに」
「なるほど、さてはお前の頭は鳥頭だな、さっき話しただろ女子生徒から苦情は来てるし、学校創立以来初じゃないか入学して一ヵ月でお前ら専用の没収品箱があるなんて、しかもその中身はエロ本だったりゲーム機だったり。おおよそ学業に関係ないものばかり、もう存在が歩く迷惑と言ってもいいぐらいだ、まったく学校に何しに来てるんだ。」
日頃の俺たちに対しての鬱憤をこれでもかと言わんばかりにこちらにぶつけてくる、何を怒っているのだろう、カルシウムが足りてないんではないだろうか。
「何しに来てるって、もちろん授業を受ける為ですよ……もしかしてカルシウム足りてないんですか? 飲みかけでよければ牛乳ありますよ?」
ストローが刺さった200mlサイズの牛乳を差し出す。
「何故、今持ってるんだ。いや、その前に職員室に持ってくるな!」
偶々持ってただけなんだけど、どうやら先生は牛乳が嫌いらしい、おいしいんだけどなぁー
「あっ……ちゃんと国産100 %ですよ‼」
「怒ってるのはそこでもなければ、飲みかけを人に勧めることでもないんだが、もういい、話を元に戻せ、牛乳少年」
ヤバイ、不名誉なあだ名がまた一つ増えてしまった。……なんだっけ、そうそう女子の非道さを伝えなければ。
「お言葉ですが、俺たち男子がそうゆうことに興味を持つのは仕方ないかと。よく男子は変態なんだからなんて言いますが、今どきの少女コミックから女性向け雑誌だって過激なのに自分の事は棚に上げて責めるんですあいつら」
「お前らがそういう年頃で、持ってるのも判らんでもない。確かに過激とは聞くが、女子は堂々とそんな話しないだろ、お前らの場合それをはっちゃけ過ぎなんだよ、もっと隠す努力をしろ、オープンにしていいものではないだろ」
言われてみれば確かに。でもそれなら、なおさら部室の必要性が高まったと言えるんじゃないか。
「そうですね、わかりました。もっと上手く丁寧に隠せと言うことですね。では、さっそく部室を下さい」
「何もわかってなければ、人の話を聞いてないだろ。誰が今の話を聞いて簡単に部室を渡すか、部室に隠す気満々じゃねーか、そもそもそんなもん学校に持ってくるなって言ってるんだよ……はぁ……長話してから言うのは悪いがそもそも俺に部活をどうこうする
先生もため息をついていたが、こちらだって呆れたため息がでる。だとしたらこの時間は全くの無駄じゃないか、早く話を切り上げ次に行かないと。
「ふぅ……まったく、先生は気が利きませんね、出来ないなら最初に言ってくださいよ、無駄に時間を過ごしたじゃないですか。では失礼します」
やれやれといった感じに両手をぶらぶらと振りながら振り返ろうとすると、先生が眉間に少し皺を寄せながら。
「こいつ、少し待て……生徒手帳もロクに読んでないくせに手帳に書いてあるぞ、
「なるほど、では逆に言うと先生方は生徒会以下の権力しかないと」
「待て、その理屈はおかしい、違う」
すぐさま否定する先生が面白く、わざと挑発するような事を言ってみる。
「じゃあ例えば,どんな事が出来るんですか? 」
「なんでそんな偉そうなんだ……どんなって、もちろんあるんだが特に……ねぇな」
「なら、こちらからしたら役に立たないのと一緒ですよ。少しは生徒の役に立とうと思わないんですか、もしあるなら是非、部活の顧問を」
語気強め何故か先生が悪いそんな雰囲気を作る、上手くいけば部活の顧問をゲットできる。我ながらなんて策士なんだ、なんて考えているといきなり頭からスパンと軽快な音がなる。
「なんで教師である俺がお前の役に立たないといけない前提で話をしてるんだ、お前らが教わりに来てるんだろうがまったく」
手元にあった適当な書類で人の頭をはたきやがったよ、この暴力教師。せっかく起きてそのまま、いや、ありのままで勝負してる自慢の髪型が台無しだ。
「頭を傷付けけられた、これは体罰ですよね。このことを言われたくなければ顧問に――」
「体罰じゃない、お前の頭にハエがいたんだ、それに良かったじゃないか叩いたおかげで寝癖が無くなってイケメンにほんの少し僅かに近づいたぞ……」
「マジですか‼ どうしよう先生に毎日叩いてもらうしかないかなぁ」
「寝癖ぐらい自分で治せ、……まぁ元々の顔が酷いから髪型が良くなったところで、あまり変わらんが」
「何気に酷くないですか一番傷ついたんですけど、今度は心まで叩かれ始めてるでけど、これは一体?……」
「俺だって好きで叩いてるわけじゃない、先生なりに、簡単にへこたれないよう、打たれ強くなって欲しいそんな思いでだなぁ、叩いたんだ」
「ふーん……で本音は」
「ふふっ……ザマァ」
「このクソ教師…………このままじゃ埒が明かないんで、どうです、取引しましょうよ」
「……取引? おまえと? 」
訝しげな表情でアゴに手を当てながら聞き返す、そんな先生に俺は得意げな表情でとっておきの切り札出す、ちなみにこれで応じなかった男子生徒は今までいない。
「ええっ俺の秘蔵の一冊(R-18)を提供しましょう、それでどうです――」
スパン!スパン!俺の頭から軽快な音が二回も鳴った、この人は俺の頭を軽快な音が鳴る打楽器か何かと勘違いしてないか?
「このアホ、先生は大人だ、もし欲しかったら自分で買うし要らん、妻子持ちの俺にそんなもん渡すとか家で裁判が起きるわ、主に俺の罪の重さ決めるやつがな……まったく本当にそればっかの奴だな他に無いのか、口を開けばすぐに下ネタに走って――」
何度も叩いた上に説教し始めるだと……いいだろう、こうなったら反撃だ‼
「倉吉先生、先ほども言いましたが、この年頃の男子の大多数は所持してるもしくは見たことがあると先生も納得してましたよね。まさか先生はご自分の高校生時代にはそんな事一切無かったとおっしゃるんですか? 」
先生が顔を引き攣らせながら応える。
「……牛乳少年、お前、いやな奴だな」
流石先生、まだ嫌味を言う余裕があるとは、でもそんな余裕綽々な態度もここまでだ。
「はて、何がいやなのでしょう、それよりも質問に答えてください、教師ともあろうものが生徒に嘘はつかないでしょうし、もし先生が持ってたと言うなら俺たちと同類ということになります、そんな人の話は聞けませんねぇ」
間違いなく今の俺は凄く嫌らしい顔をしてるだろう、あの倉吉先生に一矢報いることが出来そうなのだから。
「まぁ待て、お前らは持ち過ぎって話でな、……これ以上この場でその話を続けてもお互いを傷つけ合うだけだ、あまりにも不毛だろ」
周りにちらほら何人かはこちらの話に聞き耳立ててるのが分かるし、野次馬根性剥き出しのやつもいれば、こそこそ話してる人もいる、今や職員室の話題の中心になりつつある。
「いえいえ、俺たちは既に変態トリオってあだ名が学校中に知れ渡っているである意味ノーダメージです、……有名なことわざがあるでしょ、腐肉を切らして骨を断つ」
俺は決まったと言わんばかりにガッツポーズ取る。
「何、上手い事言ってるんだ、腐っててボロボロなだけだろ…………降参だ、わかった、顧問だろ良いだろ受け持ってやるよ、承認されたらな、但し場所の指定だけはさせてもらうか、別棟にある三階の突き当りにある空き教室あそこだ」
意外な教室の指定に疑問を持つ、てっきり成績とか押収品を掛け合いにだすと思っていたのだが拍子抜けである。
「その教室に何かあるんですか?」
「あそこにはお宝が眠っていてな、とりあえずお前らは気にせず部活立ち上げに尽力すればいい」
「お宝……OBが残したエロ本?」
「全く以て違う、とにかくだ、部員が最低五名は必要だ、まぁそっちはどうにかなるだろう、一番の問題は生徒会長からの部活設立の承認だな……これを見ろ」
右手に持っているペンで頭を掻きつつ、空いた手で机の上にある書類を突き出しこちらに見せる、月の初めに発行される学校便りと呼ばれるものだ、用紙の上半分は生徒会メンバーの集合写真をデカデカと掲載し、残りの部分は今年度の生徒会による抱負が書かれていた。
恐らくだが集合写真の真ん中にいる女性が生徒会長だろう、一度だけ本人と会話をしたことがあるが、身なりなどに無頓着な俺でも分かるぐらい丁寧に手入れをされた長い黒髪を後ろに束ね留め、校則違反一つ、いやたった一つしかないその姿に驚かされたのを覚えている、会長本人が言っていたのだがこの髪留めは本当は校則違反で駄目らいしい、なぜそんなことを俺に言ったのかは未だに謎なのだが。
そんな思考の海に浸っていると、俺の前にある紙がひらひらと左右に揺れる。
「おーい、何ボーとしてんだ……この真ん中に写っているのが会長なんだが、こいつが厄介でな下手な教師より堅物なんだよ。二年生に上がる今までずっと首席で性格に難もなく教師から人望も厚いおまけにこの辺りでは立派な家柄だ、天は二物を与えずなんて言葉に真っ向から喧嘩を売っていくそんなやつだ」
「なるほど、先生の言うかわいい生徒であると」
「そうはなるが、ここまで優秀だと逆に可愛げがないよな、やっぱり、ある程度面白味がある可愛さが欲しいよなぁー」
「なら、やっぱり俺のほうが、かわい――」
先生がドヤ顔で俺の言葉を遮ってくる。なんだろう凄い、むかつく。
「お前にぴったりなことわざを言ってやろう、お前の場合は可愛さ余って憎さ百倍だ、本来と意味が違うがこの場合はある意味適してるだろう」
「……先生」
「ん? 」
「なんか、むかつきます」
「なら十分だ、…………そんな事よりもう暗くなってきた、そろそろ帰れ。顧問の件は期待しないで待っててやるから」
確かに話に夢中になって忘れていたが、気づけば辺り少し薄暗くなり始めていた。
「そうですね、でも最後に一つだけ……なんで急に顧問の件、協力する気になったんですか? いくらでも断れたでじゃないですか 」
先生が少し驚いた顔してこちら見たが、すぐデスクのノートパソコンを見つめなおす。
「意外だな、お前の事だからラッキーってぐらいにしか思ってないと思ったんだが」
「いや、先生の態度、手の平が千切れるぐらいにあからさまでしたよ」
「まじか」
「まじです」
すると先生が、右手をこちらに向け、人差し指、中指、薬指を順番に立てながら説明を始めた。
「まぁ、簡単に言うなら理由は三つ、お宝目当てが一つ、もう一つが問題児のお前らを一つにまとめておけること」
「なんだ、もっとこう、ちゃんとした理由があるのかと」
「本題と言ってもいい、もう一つの理由は青春だ」
「は? 」
「くく、まぁ分からんだろうな、安心しろ俺もあまりわかっちゃいない」
「なんて言えばいいんだろな、とにかく……なんだろうな、邪魔しちゃいけないそんな感じだ」
「国語の教師とは思えないぐらいのアバウトな説明ですね」
「うるせい」
「まぁ、先生の応援も受けたんで、精一杯頑張りますよ」
「そうか……ところで、部活の名前は決まってるのか?」
「決まってはいたんですけど、気が変わりまして」
「気が変わった? 」
「はい、適当にオタク部とか帰宅部とかにしようと思ったんですけど…………先生の言葉を借りて、青春部です」
「青春部か、何をする部活かわかんねえけど、いいんじゃねぇ」
「簡単ですよ、部に入った人と全力で青春を満喫するただそれだけです」
至って簡単、
「シンプルで難しいな、青春は人それぞれだからな」
「難しい? 」
「ああ難しい、これ以上話し始めると帰れなくなるほどにな……いずれ機会があったら続きを話してやる」
「そんな機会ありますかね? 」
「必ずあるさ、お前が部活を立ち上げられたならな……さっ帰れ帰れ」
しっしっ、あっちに行けと言わんばかりにこちらに手を振ってくる、言われなくたって出ていくが、先生に言われたことが少し引っかかる。
「ありがとうございます、失礼しました」
俺はしっかりとお辞儀をして、職員室を後にした。
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