第4話 知られた尺度

三階ゲストルーム

「来たわね。

さて、何から始めようかしら?」

住人達の娯楽施設、基本的にここで愉しみを見出し好きな事をする。

「アクマさん、何故急にこんな所に。

僕あんまり遊びに興味は..」


「遊びじゃないわよ、潜在意識の開放よ。ここで色々な事をすれば、断片的にでも記憶が戻るかもしれないわ。」

正直本来はフランケンの役割だったが

盛大な風邪を引き、急遽アクマがそれを担った。彼は身体が偉く弱いのだ。

「でも確かに凄いですね。

娯楽の種類が沢山あります」

「そうよ、ジムがあれば図書館もある何か一つは趣味が見つかると思うわ」

フチオは考える。

過去の記憶が巡るであろう動きや行為

その中で先ず絞られた柱は二つ。

「運動か、音楽..」

騒動性か創造性か、先ずどちらかを吟味する必要性がある。


「何をする?」

「そうですね..なら先ずは音楽で。」

「行きましょう。」

音楽施設・通称オンエア

防音完備のこの部屋では楽器の演奏は勿論、音楽編集機器や音楽鑑賞など、様々な音に関する娯楽が愉しめる。

「うん、ギターか..」

首に下げ、腰で弾いてみる。

「なんか違うな、ていうか判らない」

「この音には触れてないのね、他の楽器にしてみる?それとも音楽鑑賞?」

「音楽鑑賞か、やってみよう。」

ヘッドホンを耳にあてがい、片っ端から鼓膜に通す。しかし揺さぶれるものは無く、他の楽器の演奏も試してみたが感じるものは余り無い。

「やっぱり違うのか音楽では無さそう

もっと他の何かを...」

「..どうかした?」

「この音..どこから?」「ああこれ」

しなやかなピアノの旋律が耳を撫で、誘惑する。慣れた奏者が奏でる音だ。

「来て、こっち。」

つられて行くと、見覚えのある線の細い男が鍵盤を弾き、舞っていた。

「あの人..」

「ゴルゴンさんよ、暇さえあればああしてピアノを弾いているわ。」

「ゴルゴン...。」

不思議な感覚があった。

自らで弾いてもピアノの音には馴染みが無かったが、彼の演奏は何故だか聞いた事のあるような気がした。


「どんな人なんですか?」

「..左目、傷付いてるでしょ?

あれ、自分で潰したらしいんだ。」

「え?」

「メデューサって知ってる?

本来ゴルゴンは女の人を媒体に植え付けられるんだけど、一度男を素体にした事があるらしいの。」

「それが..あの人。」「そういう事」

線が細く女性に近い体型の男を使って実験が施された。経過は順調だったがやはり女性より遺伝子が強く、両目に宿るゴルゴンの力が左眼に極端に集中した。

「左眼の力はとても強くて見つめた人が皆動かなくなった。ほら、メデューサの目を見たら石になるって言うじゃない?」

元々繊細だった彼はそれによって気を病み、自らの左眼を裂傷させ破壊した

「その後みたいよ

音楽に目覚めたのは。」

「アクマさん、次行きましょう。」

「え、もういいの?」

弾けた力が心に宿る。ここにはもう覚醒した他の者が存在していた。


「………」

「マミーさんが、走ってる。」

「なんでミイラが運動してんのよ?」

運動神経が優れていた可能性があるとしてスポーツジムに向かったが、実験体として施設に長らく隔離され、単純に体力が無くままならず、運動能力の判断が出来なかった。

「これもダメか、次はもっと深い創造性だ。本を書くとか、物造りとか!」

失敗続きも軌道に乗ってきたところで問題なのは、彼ではなく彼女。

「ごめん、私御飯作らなきゃ」

「え、あ..そうですか。」

「時間はあるから、頑張って。

迷う程難しい場所でもないし」

割とさらりと一人を余儀無くされ、探索を強いられる事となった。

「美術場..何かあるかも」

壁一枚を隔てた静かなエリアで過去の開拓を狙う。

「お邪魔します..」「おっす〜。」

「あれ、えっと確かウィッチさん?」

積まれた画集とキャンパスのみのシンプルな部屋で、ピンク髪黒ローブが一人筆を動かしている。

「一人ですか?」

「城の中6人しかいないからね〜、同じ場所にバンバン人もいないでしょ」

あっけらかんと正論を言う、堂々とした正直者である。

「絵を描くのが好きなんですか?」

「うーんそうだね〜。

ワタシ魔女でも魔法使えなくてさー、その分インスピレーション働くんだよね〜。」

描かれた絵はどこか活きいきとしており、欠陥品である事を気にしている素振りも見られなかった。


「僕、邪魔ですか?」

「うん、邪魔だね〜後ろ立たれると気が散るし。」

「すみません、直ぐに出ますね。」

創作活動の妨げになると気を遣い、テラスへと抜けた。テラスといっても城から出る事は出来ないので別の部屋から窓の外を眺める程度だが。

「夜空か、久し振りに見たな..」

城に入ってから外の景色など拝もうと思った事も忘れていた。

「暗いなぁ夜だから仕方ないか。

でも月が出てる、今日は満月か...」

闇夜を照らす一筋の光、それも太陽の恩恵。結局夜は暗いのだ。

「月の光が..おぅッ...なんカッ、物凄く近く..感じるナッ...!」

光も稀に毒になる。

月を見たフチオに異変が生じる。爪が延び、身体は毛に覆われ、鋭い牙が生え揃う。


「アオォォーンッ!!」

「何..?」


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