26話6Part Fake World Uncover⑥

「とりゃああああああああああああああああああ!!!」


 ジュンッ、ビビビビビビビビビビッ、タプン......


「せえええええええええええええええええええい!!!」


 ジュアアアアアァァ......



 ......千葉港、川崎港、横浜港、そして東京港をようする東京湾。普段ならば漁船が行き交い人が多数いるであろうこの場所から、今日は人がいなくなっていた。


 理由は、今現在、夜間の海上の空をヒュンヒュンと滑らかに飛び回る葵雲が対峙(?)している、



「ダメだ!!全然効かない!!」



 大きな大きな、海獣であった。


 ......蛇のような姿に白磁の腹、銀色のひれひげ、そして薄紫色の大きな瞳を持つ、体長約100mは優に超えている化け物だった。


 全身を覆う碧のうろこの隙間から、褐色の肌がちらちらと覗く様子には、何とも言えない気味の悪さがある。


 その体全体を赤黒い血のような半透明の液体が包み込んで、海獣がうごめく度にたぷり、たぷりと揺れている。


 その巨体に葵雲が得意の魔力弾を撃ち込んでも、1000度超の高温の熱戦で焼き払っても、それらに触れた部分の赤黒い液体がとてつもない悪臭を放ちながら蒸発するだけで、ダメージを与える事はできなかった。


 そのせいか、海獣にも攻撃されているという自覚がないらしく、いまいち反撃してくる気配もなく、ただただその場で蠢いている。



「あーもー!!これじゃあ無駄に魔力散らして吸ってを繰り返してるだけじゃん!!」



 葵雲が吐き出した大きな怒声も、海風と海獣に煽られた水の音にかき消された。


 海獣は東京港付近の海から体の前半部分を水面から出しており、東京湾の藍色の水は、海獣を中心に赤黒く濁っていく。


 その様子はまるで、絵の具を吸った筆を筆洗ひっせんに浸けた時に絵の具が水に拡がっていくような、はたまた海に投げ込まれた何かしらの死骸に群がった、鮫が勢いよく噛み付いた瞬間に溢れ出す血のようだった。


 海の濁った水の辺りには死んだ魚が大量に浮き上がり、停泊している船の海に接している部分は表面が無惨にも溶け、錆びていた。



「むう〜、こうなったら〜......」



 かれこれ30分ほど魔力弾や熱線を撃ち込んでみてはいるものの、一切の手応えがなく、楽しくもないこの状況に、葵雲は眉間に皺を寄せ頬をぷ〜っと膨らませて、不満を顕にそうボヤく。



「ここら辺にいた人達はみんな逃げてっちゃった。そーとー怖かったみたい......」



 海獣を挟んで向こうにある東京の街並みを眺めながら、辺りに散った魔力を吸収し手に目一杯魔力を集め、



「今は魔力割とあるし、大盤振る舞い?ってやつだよ!!さっきよりも火力増し増し!!高位魔力攻撃陣展開っ、高位火力攻撃魔法ヒートレイズ·エクスプロージョン!!」



 5m程の大きな魔法陣を中心に、10数個の魔法陣を展開させる。魔法陣が発する淡い紫色の光に照らされて、海面が鈍く光った。


 ......魔力を一点に濃く集めて"高濃度魔力プラズマ"を生成し、そのプラズマに同じく高濃度の魔力を用いて作られた熱線を多数同時にプラズマに向かって射出する事で、連続で魔力反応を起こして攻撃するこの魔法。


 高位爆炎術式である《エクスプロージョン》やその他高位攻撃魔法と同じ"高位"の攻撃魔法でありながら、他の攻撃魔法とは比べ物にならないほど繊細な技術と魔力を暴発させないようにする魔力自体への慣れが必要となる。


 そして、プラズマに対して当てる熱線の量が多ければ多いほど、そして熱線1つ1つの魔力濃度が濃ければ濃いほど、プラズマと軌道安定の為に同時に展開を推奨される安定用の魔力攻撃陣を介して撃ち出される高温の熱線レーザーの火力が上がる。


 葵雲自身の経験と技術は、魔王軍トップと言っても過言ではないほどのものであるし、元々本人が持っていた魔力と海獣に対する人々の恐怖の感情からできた魔力を吸えば、そこそこ高火力な高温な熱線レーザーによる攻撃が可能である。


 そう瞬時に考えを巡らせた葵雲は一瞬でプラズマを生成し魔法陣の中心にセットし、熱線を当てようとした時だった。



「すとおぉぉぉぉぉぉぉぉっぷ!!!」


「えっ、なに!?いだっ!?」



 葵雲にとって聞き慣れた声が東京湾の海上に響き渡り、その直後に葵雲は自身の体の側面から鈍い大きな衝撃を受けた。それはどうやら声の主らしく、バランスを崩して海面に落ちた葵雲の近くに同じように墜落したらしい。


 その空中での衝突事故(?)によって攻撃陣は崩れ、魔力供給を絶たれたプラズマは10数後に消失する運命を抱えてどこかに飛んでいった。集められていた魔力は辺りに霧散し、再び葵雲のもとにあつまりつつある。



「なっ、なにこれなにこれ痛い痛い痛いちょっとなにしてんの聖火崎!!」



 焼けるような肌の痛みに軽く悶えながら、葵雲はすぐ横に堕ちた聖火崎の方に向かって文句を言う。



「あんたの方こそ何やらかそうとしてたか分かってる!?東京の街と人ごと焼き払う気!?」



 そんな葵雲に向かって聖火崎も負けじと言い返した。



「別にいいじゃん港にもその近くにも人いないんだから!!パーッとやればいいの!!」


「バカ!!人が住んでんのは港近くの街だけじゃないでしょーが!!」


「も゛ー!!」


「あ゛ーにーよー!!」



 体の表面が薄く溶かされ始めているにも関わらず、海から上がることも忘れて子供の喧嘩のような口論によるキャットファイトを開始した2人を、海獣は横目で見ている。


 ......その方向に、何かが向かっている。



「って、プラズマは!?」


「えっ、」


「あっ、」



 その何かは、



 トプン......



「「......」」



 海獣の体を包み込む赤黒い液体に無事、着水した。


 ......高濃度魔力プラズマ......通称高魔力プラズマは、2ヶ月ほど前......葵雲がまだ皆と出会う前の頃に、連続爆破事件を起こすために用いられた"魔力弾道プラズマ"の常に魔力供給をしなければならないバージョンのもので、基本的な作用は大して変わらないのである(ただし、高魔力プラズマの方が火力は高い)。


 元々、あのプラズマの設置は、魔力·神気を持っている生物がいるかどうかの調査のために行われた。プラズマは、魔力も神気も持たない人が当たっても害はなく爆発もしない。


 それなのに"連続爆破事件"と呼ばれたのは、単に葵雲がプラズマを撤去する際に小さな魔力球を当てて爆発させていたからなのである。


 無論、魔力弾道プラズマだから小さな魔力球を当てても、大した規模の爆発にもならず、当たってもせいぜい軽く火傷する程度の傷しか負わないレベルのものになったのだが......


 これが高魔力プラズマに小さな魔力球を当てる、もしくは魔力弾道プラズマに大きな魔力反応を持つものが触れたとなったら、たちまち人が殺せるレベルの爆発に早変わりするのだ。


 そんな高魔力プラズマが魔力供給を絶たれ、魔力をなくして消失するまで残り数秒。


 だが......



「......聖火崎、ヤバいよこれ」


「やらかしたわね」



 海獣は、魔力を持っている。それも、割と大きな魔力反応なので、そこそこの量を。


 今現在は赤黒い液体の層で止まっているが、万が一にも海獣に当たったら......残り数秒が何事もなく、できるだけ早く済むように2人は願っていた。



「......やばいっ、潜って!!」


「わかっごぽごぷごぷ......」



 葵雲は聖火崎に合図を出すと同時に聖火崎の体を水中に引きずり込み、その直後、



 ドッ!!ッオオォォォォー......ンン......



 魔力による大爆発が起き、辺りは一気に火の海となった。




 ───────────────To Be Continued───────────

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る