21話4Part 三界等立と(元)魔王VS子猫④

「よっと......ここなら縄を解いても大丈夫ね。あなた、妙なことしたら尻引っぱたくわよ」


「ふ、ふええ〜」



 勇者、という世界中の人間を表立って指揮する役職に就いている者の発言として限りなく不適切な言葉をさらりとくちにする聖火崎。


 聖火崎の手に、縛られた状態で掴まれていたのが突然放され、地面へと無様に顔面ダイブする天使。明るい猩々緋の髪と、少し開かれた瞼の間から覗く不言色いわぬ色の瞳はまさしく天使のもの。


 色の濃淡でいえば、淡い黄色。瑠凪が雄黄おうゆう色で明るい、鮮やかでパッと見はだいだい色にも見えるぐらい濃い黄色なのに対して、彼女の瞳はほんの少し赤みがかった、クチナシのような黄色。


 その瞳の色をまじまじと観察していた聖火崎は、瞳の色の濃さで強さが決まるのよね......と少し考え込んだ後、縛ったまま天使をひとつの椅子に座らせ、自身も近くの椅子に腰掛けた。



「......で、聖火崎たかさき殿は、何故その天使を出会い頭に縄で縛って、うちに連行してきたのじゃ?」


「天界、下界......今は人間界と、魔界ね。その3つの世界の関係性を詳しく説明してもらおうと思ったのよ。天使達は基本的に、その辺りのことは熟知してるそうだから」


「ひっ......ま、まあ知らないことはないですけど〜」



 マモンの問いに、聖火崎は天使を至極忌々しげに睨みつけながら答えた。生ゴミを見るような目、とでも形容するのが最適だろう。その視線に射抜かれた天使は、頭の上からみょんと生えているアホ毛を揺らしながら怯えている。



「で、僕思ったんだけどさ、天界の話聞きたいなら僕か我厘に聞けばいいじゃん。より新鮮な話が聞きたいなら僕じゃちょっと不安だけど、我厘ならそこら辺のことも知ってるはずだろ?今多分、部屋で寝てる」



 瑠凪の言葉に、聖火崎はどこか虚空を見つめて「あー......」と、どこか心ここに在らずな声を上げた。


 聖火崎が数時間前に指名した、的李、鐘音、帝亜羅、マモン、我厘、そしてその場にいた望桜、瑠凪、或斗の8人のうち、我厘、鐘音、或斗は理由があったらしくこの場所に来ていない。


  そして聖火崎がその8人をここに呼び出した理由は、天界の事を知りたかったからだ。"天使"という、情報源になりうるであろう生物はできるだけ手の内にキープしておきたい、それが聖火崎の考えである。



「大天使の話ばかり聞いてもダメよ。下級の天使にも目を向けないと、日本で選挙が始まったばかりの頃みたくなるわよ」



 その後、税金を一定以上収めた人のみが投票できたという選挙制度を思い浮かべながら、さらりとそう答えた。



「わ、私......大天使ですけど〜......」


「......へ?」



 そして、聖火崎の言葉に対する"あなた何言ってるんですか"的な言い返し方をした天使に、聖火崎の眉がぴくりと動く。



「......いやいやいや、今更見栄を張らなくてもいいのよ?だって、あなたの名前は聖教大聖堂にある大天使一覧表本に載ってな......そういえば、あなた名前何?」



 天使の言葉に対する否定を返そうとして、聖火崎は重大な事実に気がついた。......私、まだこいつの名前知らない......と忌々しげに睨む視線そのままに、唖然としている。



「あ、天仕理沙あまつかりさです......!」


「天使殿、......いや天仕殿、偽名ではわからんだろう」


「あっ......し、失礼しました〜」



 すっと、このくらいなら言えるに決まってると言わんばかりに、目だけでドヤりながら偽名を答えた天使に、マモンはそっと小さく声をかけた。



「ん゛ん゛っ」



 少し湿った空気に刺激された喉の調子を、1つ咳払いをして整える。



「......私は、大天使聖サリエルです。アズラエルさんとラファエルさんの下について、死を司る天使、天界の司令官として働いています」



 そしてその後、数秒の間をおいて天使......こと天仕サリエルは答えた。




───────────────To Be Continued─────────────




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