20話9Part ヴァルハラ滞在最終日の過ごし方⑨

 

「......わ、す、すごい数......!これ、全部お墓?」



 エレベーターの扉が開いた直後、聖火崎とフレアリカの視界には白と新緑と深緑が一気に飛び込んできた。大理石で作られた碁盤上のように広がっている道の間に、大量のお墓がずらりと並んでいる。


 合間合間に広がっている芝生と、大理石でできた道と墓白とのコントラスト比が、黄金比になっていてこの景色が絵画から飛び出してきたかのようだった。......それも広大な紅い空によって、"この世界では日々の中でこれだけの人が亡くなり、多量の血が流れている"という風刺画のようだと聖火崎は思った。


 フレアリカはその数にただただ唖然としたまま、聖火崎の隣で固まっている



「......でもこれ、どうやってお父さん達を見つけるの......?」



 ......そして聖火崎の方に不安げな視線を向けるなり、そう言った。聖火崎はそんなフレアリカの頭を数回軽くぽふ、ぽふと撫でると、力強くこう言った。



「大丈夫よ。この島は"逢仏島ほうぶつじま"っていって、今は亡き想い人に逢える島なの。だから、大丈夫」


「そうなの......?」


「それに、"逢仏島"と同時に"確逢國かくほうぐに"とも言うの。逢いたい人に絶対会えるわ。それに、下界で亡くなった全ての"有情の者"のお墓がある島だから、カレブさんとカフィさんが居ないはずがない」


「......、うんっ......!」


「だから、"こっちにいる"って直感でそう感じた方に行くのよ」


「わかった......!」



 聖火崎の言葉を聞き入れるや否や、すぐに涙ながらに歩き出すフレアリカ。その足は、まっすぐ前左の方向に歩みを進めている。聖火崎はそれにただ黙って着いていった。


 ......人間、悪魔、天使、魔人、鬼人、天人......様々な種族の者の名前が刻まれた、白い大理石でできた墓が立ち並んでいる。時折そちらの方をチラチラと伺いつつ、聖火崎はフレアリカの背中に着いている。


 この間までは、おおよそ4歳児だった。でも望桜達が神戸に戻って聖火崎自身も再び日本での仕事に熱中し始め、20日後に望桜達と再会を果たした時には、既におおよそ12歳ほどにまで成長してしまっていた。


 恐るべき成長速度は、恐らく宇宙樹·ユグドラシルの"果実"を心臓として用いている体だからなのだろう。神気の影響と考えるのが普通だ。......そして、その本来ならありえない"恐るべき成長速度"をフレアリカにもたらす程の神気を、天使達は自身の手の内にしようとしている。



「......お父さん、お母さん......」


「......フレアリカ。お父さんとお母さんに言いたい事、できれば今日で全部伝えて頂戴ね。滅多にこれる場所じゃないから」


「......っ、......」



 聖火崎が色々考えているうちに、フレアリカはとある2つの前の墓に辿り着いた。2つの墓の前には他のものと同じように石英とガラスでできた棺桶があり、その棺桶の中には空色の瞳の男と、セピア色の焦げた髪の女が横たわっている。


 悲惨な有様である遺体は、男の方は瞳が片方外に出されていて首は落とされていた。女の方は全身が黒く焼け焦げており、髪と胴の辺りの一部が白いまま残っているだけだった。


 体は損傷しているという点以外で見れば綺麗であった。......他の棺桶にも、聖火崎が道中で見渡した時に確認したのだが、全て遺体が入っており、蓋は固く閉ざされていた。


 再び聖火崎が考え込んでふとフレアリカの方に意識を向けた時、カレブとカフィ、2人の名前が刻まれた墓を、食い入るように見つめたまま立ち尽くしているフレアリカに、聖火崎は声をかけた。


 ......今のところ回収に躍起になっている様子はないが、いつか天使達が総力を上げてフレアリカに埋まっている"果実"を"枝"と共に回収しに来たなら、聖火崎達はなすすべもなく倒されてしまうだろう。


 こちらがいかに強者揃いであったとしても、相手にはこちらと同じぐらいの手練が数人に、辛い戦闘訓練を乗り越えてきた天使軍の雑兵が数100万人、数1000万人は居るのだ。



「......ひっぐ、う、うえ、うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」


「......っ、」


「うえええ、お父、さんっ......お母さんっ......!うぇ、あああ」


「......」



 そして聖火崎の言葉を受けて数秒間フリーズしたあと、フレアリカの頬に一筋、また一筋と涙が流れ、やがて決壊した。......泣きじゃくるのも無理はない。当たり前だ、8000年間ずっと離れ離れで、再会を果たした時には既に、両親は夫婦仲良く土の下だったのだから。


 そんなフレアリカの悲痛な泣き声を聴きながら、聖火崎は周りの墓を見てまわることにした。


 海風に撫でられた草が、嬉しそうに音を立てているのが幻想的な光景の中、墓に書かれている名前と、その前にある半透明のガラスの中に横たわる人の青白い顔とを交互に見ていっている。



「............!」



 そしてその中の1つの墓の前で、何故か足を止めた。自分でもよく分からない。......聖火崎が足を止めた棺桶の中には、どこか近所の中高生を彷彿とさせる学ランと、魔王軍下級兵士の軍服を足して割った様な服を着ている。


 青白い顔をまじまじと見つめたあと、聖火崎はゆっくりと上にある墓へとし線を上げた。



「......サ、タン......」



 ......なんという事だろう。


 息を呑んだ。ただただ、呑んだ息が中になかなか入っていかないくらいには締め付けられた胸の辺りを押さえたまま、聖火崎は立ち尽くす事しかできなかった。


その墓には"伝説"の名を持つ2人のうちの片方の名が刻まれていた。




 ───────────────To Be Continued──────────────



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