20話8Part ヴァルハラ滞在最終日の過ごし方⑧



「......ここ?」


「ええ、ここにいるわよ。カレブさんとカフィさん」



 赤い空と赤い海に囲まれた孤島。荒れ狂う波は断崖絶壁に激しくぶち当たっているものの、どこか穏やかな印象を2人に与えた。


 海風がびゅうびゅうと吹き付ける中、船着場から島の上まで一直線に続いている白い大理石でできた道を、飛ばされないように手すりを強く握って、1歩1歩確実に踏みしめて歩いている。上までは高さ的にいえばあと500mほど歩かなくてはならない。


 ......ヴァルハラ独立国家から車で12時間で、西方東よりを流れる大きな川·アフィスロードに差し掛かった。そこから1時間ほど走ると、ウィズオート皇国西方、魔獣の住まう危険地帯である大森林·メロウフォレストに到着し、その内部に通行用に作られたシェルターロードに入る。


 そこから鬱蒼と茂る針葉樹の間の柵に囲まれた道を車で走ること2時間、それでようやっと大陸最西端にあるヴィーラント港へと到着した。


 しかしそこで終わりではなく、そこから船に乗り込んで3時間ほど波に揺られ、やっっっと最終目的地である大規模霊園島·ガヴォット島へと行き着いた。


 移動時間合計18時間と、本当ならばもうくたくたになって1歩も歩けなくなるほど疲労困憊する時間だ。夜10時に出発したはずなのに、時計は朝6時を指している。


 神気を"無駄遣いするべきではない"とケチったのがいけなかった。帰りはゲートで帰ろう、と島に到着した際に聖火崎は心に決めたのであった。


 しかし、"1つのケジメ"をつける事を胸に高く掲げ、内心かなり緊張している聖火崎には疲労など痛くも痒くもないし、"両親の顔を約8000年振りに見る"という一大イベントを目前に控えたフレアリカは、長距離の移動で発生する疲労などどこかに行ってしまった。



「はあ、はあ......千代、後どのくらい歩けばいい?」


「まだまだあるっぽいわね、大丈夫?少し休け......あ、」


「お、............っやったああああ!!」



 ......し海風に耐えながら急斜面の山道をゆっくり歩くだけでも、まだ身体的には11歳位であるフレアリカの体力は根こそぎ持っていかれそうになっている。まだ綺麗に整備されているだけマシだが、これが草が生い茂った獣道のようなものだったなら、とうに限界が来ていただろう。


 息を荒らげながら必死で登っているフレアリカの手を引きながら、聖火崎も重い足を一生懸命動かした。少し坂がなだらかになったのが、サハラ砂漠のド真ん中で干からびそうになっているところに、大規模なオアシスが湧くくらいには2人にとって大きな救いであった。


 ......と、坂が緩やかに......やった!と内心飛び跳ねて喜ぶ聖火崎とフレアリカは、視界の隅にある機械を見つけた。それが何かを察するなり、2人は大きくガッツポーズをしながらその機械に向かって一目散に走りだした。



「千代......間違いない!」


「ええ、そうね......!」



 ガラス板で周りをおおってあるおかげで中身が丸見えなその機械。かごと釣合いおもりが上手くバランスをとってあり、巻上機で効率よく駆動する基本的なタイプのその機械の中で、最も印象深い"乗場ドア"が2人のことを早く早くと急かしている。......ように、自分の無意識領域が疲労困憊しきっている2人には感じられた。


 "犬は喜び庭駆け回り"状態の2人は、坂がついに水平になっていよいよラストスパートというところで同時に声を上げた。



「「あれは......エレベーターだ!!」」



 ......そう、人間社会の"上下の移動"の大部分を占める、エレベーターである。


 そして開いている扉から中にわっと駆け込み、エレベーターが駆動し始めた瞬間に床に座り込んで持ってきていたペットボトルの水を一気に仰いだ。




  ◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 ......聖火崎とフレアリカがエレベーターに駆け込んだのと同じ頃、帝亜羅はふかふかのベッドの上で目を覚ました。


 部屋には四六時中響いている晴瑠陽のタイピング音が、相も変わらず鳴っている。

 


「......ん、と......」



 カタカタカタカタ......



「......帝亜羅、おはよ......」


「あ、晴瑠陽くん。おはよう......って、なに、これ?」



 そしてベッド脇に置かれたとてつもなく大きなダンボール箱に、起きて早々覚醒した。"安天市場"の文字がでかでかと書かれている、中身が空っぽのダンボール箱だ。人ひとりが余裕出入りそうなくらいはある。


 それも、身長165cmの帝亜羅どころか、181cmの的李が入ってもまだ余裕がありそうだ。それだけ大きな箱、部屋の中にある事に違和感を覚えるのも不思議はないだろう。



「......あの、これ、なに......?」


「ああ、ウィズオート、皇国の......パソコンを、日本に、持っていこ......と思って......」


「え......この世界に、パソコンがあるの?」


「うん......日本のよりずっと、高性能のやつ......」


「......え、ええええええええ!?」



 帝亜羅は、まるで体に電撃が走ったかのような衝撃を受けた。......え、こ、この文明的にいえば中世くらいっぽそうなこの世界に、パソコンが、それも日本のものよりずっと高性能なパソコンがあるっていうの!?と帝亜羅は内心、というより表立って驚いている。



「USBの解析する、のに......あのパソコン......じゃ、スペック不足......葵雲に、問いただし、たら......旧型だって、騙された......」



 ......いや、騙されたというよりかは晴瑠陽が"葵雲ならきっと新型か準新型を買わせた"と思い込んでいたのが悪いのだが......帝亜羅にはそれをつっこむことはできず、ただただ苦笑いを浮かべることしかできない。



「新型は今時、歳末セールとかで安くなってるけど......それでも10万円とか余裕でするからね......」


「みたいだね......だから、こっちで、旧型のやつを......買って、日本に......ナデシコ運送で......送るの」



 そう言って、晴瑠陽は自身が先程まで操作していた旧型ノートパソコンとウィズオート皇国での旧型パソコン、Dolphinsドルフィンズ46を搭載したそれを箱に詰め始めた。




 ぐるるるる......



「あ、お腹なっちゃった。昨日の夜何も食べなかったからかな、あはは......」


「......あ、とりあえず......ご飯、食べてきた......ら......?」


「あ、そうだね!行ってくる!!」



 なったお腹を赤面しながら睨みつつ、晴瑠陽の言葉にはっとした帝亜羅はとりあえず朝食を摂ることにした。......思えば今日はヴァルハラ独立国家滞在3日目、旅行最終日だ。そんな日に何もせず部屋でごろごろというのも勿体ない。そう考えて部屋を後にした。




 ───────────────To Be Continued─────────────



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