16話2Part 学校にて②

 


「Руководители доно ! Нет, это почти там ......(幹部殿!もうダメです、すぐそこまで来てます......)」


「Моя армия больше не хороша, все кончено ......! (我が軍ももうダメだ、おしまいだ......!)」


「Не паникуйте ! ! Седельные отряды продвигаются вперед и сражаются с авангардными отрядами ! Арьергард один раз останавливает атаку и наносит большой удар ! ! (狼狽えるな!!槍部隊は前進して前衛部隊とともに戦え!後衛は1度攻撃を中止して、大型爆撃術式を一気に叩き込め!!)」



 下界西暦19431年、人間界南方部·シーツリヒター地方の北側に位置する中都会·フィオメーレに築かれた大きな壁を挟んだ2つの軍のうちの片方、魔王軍南方攻略軍内では想像以上の勇者軍の猛攻にまいった悪魔達が大勢、独断で戦場に背を向けて撤退しようとしていた。


 その様子を見兼ねた魔王軍幹部であるファフニール......もといウァプラは、目深に漆黒のフードを被ったまま大声を上げて南方攻略軍を本丸から鼓舞し、その鼓舞と指示のおかげでなんとか拮抗を保っている状態だった。



「Вапура-сама ...... ! Ладно, все войска продвигаются ! ! Управляй отважной армией с авангардом ! !(ウァプラ様......!わかりました、全軍前進!!前衛部隊と共に勇者軍を追い込め!!)」


「「Uoooooh ! ! ! !」」



 ガッ!!!



「Öffne das Westtor! ! Wenn Sie die andere Seite mit Ihren körperlichen Fähigkeiten schieben können, ist dies die Zahl, die Sie schieben ! ! (西の門を開いて!!向こうが身体能力で押し切るなら、こっちは数で押すんだから!!)」



 ギギイィィィ......



「Чи ......(ちっ......)」



 勇者軍の元帥の1人·アヴィスフィア·Q·ティヴォリの大雑把だが的確な指示、それが魔王軍南方攻略軍を徐々に追い詰めている2つの理由の1つであった。


 そしてもう1つは......



「Не поддавайтесь на цифры! ! Используя технику взрыва ...... Гехо, но ...... ! !(数で押されるな!!爆炎術式を使っ......ごほっ、がはっ......!!)」



 ......ウァプラの体のほぼ全体に広がった時雨色の、薔薇の紋様。


 それは何者かによってかけられたリストレイント·コントローラーの作動が既に起きようとしているという証。しかしその作動が起きていないのはウァプラ本人の魔術耐性と、



「Это распространяется очень много ...... Вапура-сама, не могли бы вы дать слово ? (だいぶ広がってますね......ウァプラ様、1つ進言させて頂いてもよろしいでしょうか?)」


「Dantalion......Разрешить. ...... Это довольно близко к пределу ...... Я думаю, что это будет здесь в ближайшее время (ダンタリオン......許可する。......ていうか、もう結構けっこー限界近いから......ここにいるのもそろそろやばいかも)」



 ウァプラの補佐官として南方攻略軍に派遣されている大悪魔·ダンタリオンの発動遅延&防止魔術によって発動寸前で止めてあるからだ。


 しかし発動を無理やり押さえ込んでいる現状が、ウァプラの体をリストレイントコントローラーの任務時間内未執行による自壊が蝕んでいて、もはや本丸から指示を出すことすらきつくなってきている。


 荒く呼吸を繰り返しながら、ダンタリオンの言葉の続きを健気に待った。そしてその口から告げられた言葉に驚きながらも、その内容を実行することにした。



「Лучшее доказательство того, что то, как вы говорите, нарушено. ...... А потом, вы должны быть в первых рядах ? (話し方が崩れてきているのが何よりの証拠ですね。......でしたら、もういっその事最前線に立たれては?)」


「Что ты имеешь в виду ...... ? (どういうこと......?)」


「Там нет смысла позади. Я просто сказал это, потому что беспокоился о твоем теле.(裏の意味などありませんよ。ただ貴方の体が心配だからそう言っただけです)」


「Хм ...... я понимаю. Тогда выходи на первый план! Я не знаю, что случилось потом, и если ты умрешь, это будет более освежающим потом ! ! (ふーん......わかった。それじゃ最前線に出てくる!後がどうなったって知らないし、どーせ死ぬならやっぱいっぱつぱーっとした後の方が清々しいもんね!!)」



 そう言って本丸から出てすたすたと歩いていく上司の背を眺めるダンタリオンには、ただこれからの命運を祈ることしかできなかった。




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 ......思えばあの時、妾はダンタリオンの言うことを聞いて、最前線に出て15分ほどでられた気がする。その時に日本全土を永久凍土が覆っちゃうくらいありえなくて奇跡的な事が起きた事も、リストレイント·コントローラーのせいで記憶も朧気であまり詳しくは覚えてなかったんだ。



「がっ、ぐぅ......!」



 ザクッ、ザク......



「ふーん、やっぱり血は赤いようだね」


「ふぐ......か、は............」



 胸に聖剣リジルを突き立てられて、単純に刺されているからと魔力と神気が反応を起こして、とても痛かったのだけはしっかり覚えてる。赤黒くねっとりとした生暖かい血が軍服に拡がる感覚がどうにも気持ち悪くって。


 ......もう、死んでもいいかな......なんて、生まれて100年弱っていう若さで思っちゃってたんだ。でもそのぐらい痛かったし、苦しかった。視界の端で仲間がどんどんやられていく様子を見て、まだ未熟なのに先陣切って指示なんか出すから......そう自分を責め立てても責めきれない、やるせない気持ちばかりが募ってっちゃってた。



「さて......この深く被ったフードの中は、一体どんな顔をしているのか............お、」


「っ......」


「......はは、子供じゃないか!それも珍しい、飛龍族なんて......」



 妾が目深く被ってたロングコートのフードを聖剣の先でめくって妾の顔を見た途端、鎧の間から微かに覗く蒼色の瞳を爛々と輝かせる様が気持ち悪かった。


 ......""鎧の聖剣勇者"は、元々は家族想いの優しい騎士だったらしい。でも、お金を稼ぐために皇都に出て騎士になってから、信じてた聖教大教会の人達の汚職が重なりに重なって、なら......って縋るようにして信心を向けた皇国政府もまた......


 そんな上っ面だけ綺麗に塗り固めて、汚く薄汚れた本性を隠して皇国政府の内側をずっと見続けた彼は、優しい情が災いしていつしか狂ってしまったとか。妹のことや父母の事も、綺麗に忘れてしまった全くの別人になった彼は、全身を鉛色の鎧で囲って第拾参弦聖邪戦争にて3方に飛びまわり戦っていたんだ。


 そいつのターゲットの1つが妾の率いていた、魔王軍南方攻略軍だったって感じ。......我ながら本当に運がないと思うよ、全くさぁ......



「......っく、がっ!!」



 ザクッ、ジュク、グチャ......



「飛龍族は硬いからね......」


「うぐ、ぎあっ!?」



 ザク、ザクザク......ベチャッ......



「............ふふふ、このくらいしておけばいいだろう」



 ......あの時のことを思い出すだけで、今でも胸が痛いし吐き気もしてくる。本当に、あの時ほど自分の硬さと生まれた種族と、それから死んだお父さんとお母さんから引き継いだ丈夫さを恨んだことは、生まれてから1度もないと思うね。多分これからも経験しないんじゃないかな。



「......か............ぁ......」


「......己の硬さを恨むことだね、哀れな飛龍の子よ............はは、はははっ......あっはははははははは!!!」


「............」



 そう高らかに笑いながらあいつは妾の前から軍を率いて立ち去って行ったんだ。妾の胸に猛烈な喪失感だけ残したまんま。......今思ったら心臓がなかった感覚なんだね、うえー......


 その時は、妾はもう死んだと思ってた。目を開けてるはずなのに視界は黒1色だし、なーんかふわふわした感覚もあったし。......なんか川?の向こうでお父さん達が手を振ってたのはなんなんだろうね?こっち来んなって言ってたよ、妾の事嫌いになったのかな......


 ......でも生きてたんだ。冒頭で言ったでしょ?"日本全土を永久凍土が覆っちゃう"くらいありえなくて奇跡的な事が起きたって。



「......おい、大丈夫か。童や」



 ついさっきまで戦場と化してた荒野に、緊張感の無い、どこか声だけで貫禄を感じさせるような雰囲気を見に纏った少年の声がしたんだ。......あ、もう視界なんてものはあの時の妾には存在してなかったから、"少年"ってのもまあ声で推測した程度であって本当にそうだったかは分からない。



「............ぅ......」


「喋るでない!心臓を完全に外に出された今、それ以上少しでも血液を体外に出してみろ、出血多量で即寂滅じゃ」



 その子が何をしていたのかははっきり言って分からない。音だけで推測するとしたら......多分、妾の体を弄ってた......?



「............」


「まあ、飛龍族でなければこんな傷、普通は即死じゃよ......お主運がいいな。いや、それでもこの有様になってしまっとるんじゃから、一概にそうとは言えんか......ふむ。いいか、よく聴いておくんじゃぞ。今から汝の心臓を元の位置に戻す。汝は飛龍族じゃから完全回復するだろうし、後遺症も残らんじゃろう。」


「......」


「安心しておれ、吾輩はこれでも腕利きの医者なのでな。失敗することは無い。それに何より、どんな患者クランケであろうと吾輩の目の前で死なれると後味が悪い。それは絶対に避けたいからの」



 グチュ、グチャ......



 あー......なんか触られてるー......って感覚が視覚閉ざされてる分ダイレクトに伝わってきて、不躾ながらちょっとうえってきたんだよね。


 ......それでそんな感覚に侵されながら待つこと数分後、胸にあった猛烈な喪失感がずーっと消えて、それと同時に視界も晴れて浮遊感もなくなった。



「......ぅ、ぁれ......?」


「......ほれ、終わったぞ」



 そう言うから、傷口をそ〜っと見てみたら綺麗に治ってたんだ。びっくりだよねぇ、妾もびっくりしたもん。この子凄いな〜って眺めたあと、はっとしてありがとうって言ったんだ。



「......わあ、ありがとう!!」


「うむ。元気になったようで何よりじゃ。ところで汝......さては魔王軍幹部の者じゃな?」


「あ、そうだけど......」


「汝はしばらく身を隠すといい。......よろしければ吾輩が匿ってやろうか?ダンタリオンから汝のことは聞いておる......」


「え、と......どういうこと?」


「......吾輩の名は×××、下界一の大富豪であり××の一角。汝が運命、吾輩が手の内に預ける気は無いか?」



 そんなの言葉に妾は乗って、いろんな出来事があって2ヶ月後に......ね?




 ─────────────To Be Continued─────────────




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