11話2Part 蒼氷と聖糸、善と悪②
「さて、では一気に一刀両断するとします」
ヒュッ、ガッ!!
そして一気に振り下ろした。同時に仮聖堂に、鈍い音が響きわたった。それに振り下ろされた瞬間にようやっと気づいた或斗は、咄嗟に目を瞑り俯いて地面にのみ少し怯えた表情を見せた。
......しかし、鈍い音はしたがいつまでたっても自身の頭には剣が降ってこない。固く閉じていた瞼を開いて、そっと自身の上を見た。そこには......
「......っ、......?」
「......よお、待たせたな」
「っ!望桜さん!!ぐっ......」
「お前は端に移動してろ、小規模防護結界術式 《クライン·シールド》」
「は、う"......」
キィンッ......ザッ、
「......どうやってここに?」
「いやぁ〜、葵朝からめっちゃいい匂いしてたんだわ......お前らはそれを使って、仮に逃げられた時にも位置の特定するためにわざわざ時期を合わせて俺たちを襲わせたんだろうが......」
望桜によって弾き返された一会は、再び祭壇の上に舞い戻った。......鼠は3匹、とイヴ様は言っていたが......まだ2匹しか出てきていない、3匹目は......まさか......そう頭の中で考えて、ある人物を思い浮かべた。一会にとってその人物は非常に相性が悪い。
「......それは逆に、俺らも葵の位置の特定がしやすいって事だ。もーちょい頭使って位置の特定してれば俺らはここに来れなかっただろうし、聖火崎達の暗殺も成功してただろうよ」
「......なるほど、そういう事でしたか」
「......っ、でも、望桜さん単体、では......戦えない、じゃないですか......」
「いやそうだけど!!そうなんだけども......だからこそ5人で助けに来たんだろ」
そう言って誇らしげに自分の胸を叩いてみせる望桜。......いや、自身は戦えないのだから本来は誇るべき場所ではないのだろうが、望桜の中では連れてこれただけでも大義を成したと思っているのだ。......だって、あいつ初めは動こうとしなかったんだもん。
「......あ、」
コツーン、コツーン......ガッ、キィンッ!!ゴト、バラ、バラバラ......
......望桜に続いて入ってきた的李は或斗の体を薄く覆っていた氷を、いとも簡単に刀で斬り崩した。その瞬間に一会の淡い困惑の表情が、明確な焦りの表情に変化した。
その間に的李はなにかに気づいたらしく、自身の靴でコツーン、コツーンと音をたたせながら地面を軽く数回叩いて、その音を耳を澄まして聞いていた。......響く、なるほど......
「......ってて、あ、ありがとう、ございます......」
「......大丈夫かい?」
「おい的李!さっさとあいつ倒して葵の援護に行くぞ!」
「わかっているから黙るのだよ!!」
「......戦闘できない木偶の坊と、ただの鉄刀しか持っていない若造悪魔が増えたところでこちらの勝利はゆるぎません」
そう言って氷剣を構える一会。どうやら一会は、魔力量から的李はただの悪魔だと思っているようだ。......しかしその考えは、そこから約3分の戦闘で改められこととなる。一会の言葉を聞いて的李は立ち上がってそちらの方を向き直り、
「......さてどうだろうね?私はこれでも魔王軍では新参の方だけれど、体術と剣術では負けたことがないのだよ」
と、軽く微笑みながら一会の方に刀を向けた。望桜は頭お花畑野郎だから置いておいて、壁によりかかり、未だ続く事の顛末を見守っていた或斗は、その微笑みに少し恐怖を感じたという。......先程まで一会が葵と或斗に向けていたような嘲る視線を、的李は一会に向けている。
「......っ、そうだとしても私には氷術があります」
「......そうかい、ならそれでいいのだよ。かかってき給え」
そう言いながら的李は一会の方に手をヒラヒラとして見せた。
「......青二才が、調子にのってっ......!」
ッガッ!!キィンッ、ガッ、ピキピキピキ......ギッ......ギチギチ、キィンッ!!
「っ!!」
「よっ、」
ガッ、ぐ、ぐぐ......キィィンッ!!
......尽く、躱される。
一会の剣による必死の猛攻が、まるで脳内スロー再生されているのかと疑ってしまうほどに全て体の表面すれすれで躱している。......少しでも無駄な体力を使うことを懸念してそうしているのだろう、腹立たしい。一会は顔には出さずとも、体内では怒りがふつふつと沸騰している。
一方的李はそんなことは露知らず、先程同様ずっと躱し続けている。気まぐれに刀で受け止めて、わざと少し力を緩めてみては勢いよく押し返したりもする。
「っ、なんであなたも同じところに戻るのですか?」
ガッ、ピキピキピキ......ガッ!!
「......まだ分からないのかい?勇者軍の元帥といえど、頭は悪いのだね」
一会からの問いに、嘲笑と呆れ笑を混じえながら的李は返した。......的李もまた、先程までの或斗と似たような動きを繰り返しているからだ。前に出て切り付けの攻撃を防いでは、それと交互に繰り出される振り下ろす攻撃を元の位置に戻ってから避ける。
その動きはまるで、一会の振り下ろしてくる方の攻撃を、常に同じところに振り下ろされるよう誘導するような動きなのだが、既に頭に血が昇っており、冷静でない一会にはただ前に出ては下がっての動きを繰り返しているようにしか捉えられなかった。
「っ!!馬鹿、に......」
ヒュッ、
「しないで、ください!!」
ガッ!!ピキ、ピキピキピキッ、
「なっ......」
ガラガラッ!......ゴト、カランカラン......
「......そりゃあ同じところを武器で力一杯叩き続けたら、」
コツーン、コツーン......
「下が空洞の建物の床は抜けるに決まっているのだよ」
そう言って仮聖堂の端に位置を移した的李は、自身の真下の地面を靴で叩いてみせた。......床下にめいっぱい響き渡る靴音は、瓦礫と椅子に埋もれた一会に聞こえているのかいないのか。
......一会の力一杯振り下ろした剣が、既にヒビが入っていた地面を綺麗に一刀両断し、仮聖堂の中心部の床が周りに置かれた大量の椅子を巻き込みながら綺麗に抜け落ちた。一会はそれに対処しきれずに真っ逆さまに落ちて、椅子と瓦礫の山に綺麗に埋もれてしまった。......冷静さを欠いていたために、突然の崩落に慌て、唖然としながら落ちることしか出来なかったのだ。
そしてその様子を端に避けながら見つめていた的李は、最後の最後まで一会のことを嘲け笑い続けていた。
「......綺麗に抜け落ちたなぁ......的李、下が空洞だって気づいてたのか?」
「......まあ、廊下の時点で気づいていたし、或斗も初めから床を崩落させるつもりであの位置に攻撃を集めていたのだろう?私たちが来た時には既に床にヒビは入っていたし......」
「......ええ、まあ......一会は、頭に血......が昇り、やすい、ですから......」
「ほええー、やっぱ頭使いながら戦うんだな〜......おし、的李は葵の援護に行ってくれ」
「わかったのだよ......或斗、もう少ししたらあと3人来るから待っておき給え。にしてもなんで床下は空洞なのだろうね」
「さあな、俺たちの知ったこっちゃねえよ」
仮聖堂の奥の扉は、望桜達が入ってきた扉同様開かれている。その扉からは、時折爆音と轟音が微かに入ってきて、それと同時に血と硝煙も香りもする。......恐らく葵とイヴが戦闘しているのだろう。いや、葵は逃げ回っているだけなのかもしれないが。
上のことを踏まえて、望桜と的李は仮聖堂を後にした。
───────────────To Be Continued──────────────
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