✨11話1Part 蒼氷と聖糸、善と悪

 


「2人同時にかかってきてください、まとめて相手してあげましょう」

 

「......或斗、容赦はする必要ないみたい」


「そうだな」



 一会燐廻VS御厨葵&餅月或斗。本来なら悪魔や勇者等いないここ日本で、戦端の火蓋が切られた。



「ではまずこれはどうでしょうか......よっと」



 ヒュッ、ガッ!!ピキピキピキ......



「うわっ、」


「......っ、氷が地味に厄介だな......!」



 一会が槌を振り下ろし地面に亀裂が入ると同時に、槌が触れた部分を中心に周りがどんどん凍っていく。その1部が2人の元にも伸びてきて、葵も或斗もそれを咄嗟に避けた。......通常の氷は透明だ、光の乱反射によって細かく削られたかき氷等は白く見えるが。しかし一会の槌や攻撃から発生する氷はどれも淡く蒼に染っている。......あの氷には触らない方が良いだろう、或斗は頭の中で直感的にそう感じ、葵に声をかけた。



「葵!!あの氷に触れるのはいいが、氷漬けにだけは絶対されるな!!」


「ほえ?あ、わかった!!」


「ふむ......感がいいようですね、なら......」



 ヒュッ、ガッ!!ピキピキピキ......



「うおわっ!!なんでまた......わあっ!!」



 先程は凍ってゆく部分は槌で叩かれた地面の1部から徐々に拡がっていくタイプの攻撃だったのだが、次のは違う。一会から槌、そこから更に同一直線上を前に拡がっていくタイプだ。真っ直ぐ氷が伸びてきて、2人ともさっと避けた。氷はかなりの轟速で拡がるため、常にギリギリだ。



「ちっ、想像以上にめんどくさいな!!」


(さすが凶獣族の頭領の地位をもぎ取れるほどの身体能力......淫魔とは思えないほどの反射神経で、寒さで体が鈍っていても避けてきますね......でもこっちは......)



 一会は、或斗の方を見やった。葵は完璧に避けていたのだが、或斗は着用しているパーカーやスニーカーの端が若干凍ってきている。......こちらは存外簡単に氷漬けにできそうだ。


 そう考えて一会は拈華微笑テレパシー能力である人物に連絡をとった。



『......イヴ様、仮聖堂の扉が開いているので、扉の前を横切っていただけませんか?』


『......んー?いいよ?少し遅くなるけどねぇ〜』


『いえ、むしろそちらの方が都合がいいので、お願いします』



 ......自身の同僚であり上司の、イヴだ。その上司に仮聖堂の一会から見て後ろに位置する扉、その前を横切って欲しいと頼んだ。イヴは拈華微笑でなんとも間の抜けた、やる気のなさそうな声で承認の返事を返してきた。......これで勝利までは近いだろう、そう考えながら2人への猛攻を続けている。


 一方で2人も自身の武器で一会を攻撃し続けるのだが、氷が邪魔で上手く攻撃を当てられないのだ。一会はどうやら人間界北方、ホワイトウェザー地方の出身らしく、彼女の纏っているコートの下が正しくその地域の防寒着だ。そしてその地方は極寒地、当然2人よりも寒さへの耐性がある。



 ピキピキピキ......ガッ!!、ゴッ!!



「っつ、」


「或斗大丈夫っ!?」


「ああ、大丈夫だ......」


「どうしたのですか?あれだけ啖呵を切ってきていたのに、既に左足が凍ってきてますよ?」



 ピキピキピキ......



「うっ、くっ!!」


「或斗!!」


「......私は自身の氷ならある程度まで自由に操れます。1部が凍ってしまったあなたの左足から、じわじわと全身に広がらせることもできるんです」



 一会がそう言うと同時に、或斗の足を氷が侵食していく。じわじわと、と言うよりかはかなり急速に侵食は進み、あっという間に左足の膝下までを凍りつかせてしまった。そして通常の氷ではなく少し特殊なその氷は、氷漬けにされた部分に激痛を走らせる。......これはまずい。



「っ......」


「......私の氷は特殊なもので、私がある程度まで自由に操作ができ、凍らせた部分を締め上げることも、」


「いっ!?」


「大丈夫!?そうだ、その氷砕けばっ!!」


「やめた方がいいですよ?その氷を壊せば彼の左足の膝下までもともに壊れるのですから」


「......っ、そんなの、凍らされたらおしまいじゃん......!」


「そして私の好きなタイミングで解凍することもできます。まあ、完全氷漬けにされたらすぐ解凍しても全身凍傷くらいは負うと思いますが」


「......っつ、」


「......むう、しっかり魔力貯めておけば攻撃できたのに......!」



 ......今更後悔してももう遅い、いくら日本は夜犯罪が増えるといっても、大悪魔である2人が魔法や攻撃術式を展開できるほどの魔力は到底すぐにはたまらないのだ。......そして瑠凪達はともかく、到底下界に帰る気などない望桜達と同居している葵には、魔力を貯める術などない。結果的に中途半端な魔力しか残していないわけだ。


 そう肩は落としつつもまだ諦めていない、そう視線で表しながら一会の方を2人が見上げた時だった。......ふと、後ろを誰かが横切ったのだ。手から伸びる数本の光の筋......糸から、誰なのかはすぐに分かった。......イヴだ。勇者暗殺計画の大本であり黒幕の。



「あれは......!」


「イヴ......?」


「......葵、イヴを追え」


「......へ?」



 緊迫した状況下にも関わらず、葵は耳に入ってきた或斗の言葉に思わず間の抜けた声を出してしまった。......え?今、なんて......



「何をしている、俺なら大丈夫だ」


「でも左足が......」


「貴様馬鹿か、少ししか魔力を保有していない悪魔が神気フル充電してるであろう敵と対峙するのに、一人で来るわけがないだろう」


「......あ、望桜......!」


「ああ、だから大丈夫だ」


「......わかった」



 そう言って短距離走の構えの体制......スタンディングスタートの体制をとる葵。それを好機だというふうに再び槌を構える一会。葵に向かって振り下ろされた槌と葵の間に間一髪で入り込み剣で防ぐ或斗。気温のせいで体が上手く動かず、左足が不自由になってもまだ健常時と同じように動く或斗に一会は視線を合わせ続けた。



 ガッ、



「っ、葵!!」


「うん!ありがと或斗!...... 《奏一瀉千里》!!」



 加速の魔法を唱えて葵はまさしく神速で一会の横をぬけ、扉の向こうへと一気に駆け抜けた。......或斗の方をじっと見つめていた一会はそれに直後に気づき。声を上げた。



「なっ!!」


「......随分と俺の方を熱心に見つめていたようだな。足1本くらいで戦闘不能にはなったりしないぞ?......それに勇者軍の元帥が、敵の1人から完全に視線を外すようなことがあっていいのか、貴様の上司にでも問いただしてみたいな」


「......あなた1人なら、私でも落とせる!!」



 ヒュッ!!ガッ!!



「甘いわ!!」



 ゴッ!!......ザッ、




 一会の渾身の振りを片手で握った剣で軽々と防ぎきった或斗に、一会は今までの無表情を崩した。それ程までに片手で受け止められたことが意外だったのだ。


 ......凍らされている左足は常に激痛が走っており、力を入れて踏ん張ることなんかとてもできるものでは無い。それに今までの攻撃の蓄積で次に侵食され始めた右手も力なく垂らしたまま、左手と右足というアンバランスな姿勢で一会の全体重+その他もろもろの力で勢いをつけおもいきり振り下ろされた槌を受け止めた。



「......イヴ様に頼んであなた達のどちらかをおびき寄せてもらったんです。計画通り1人になったのに、あんまり弱体化してない......?」


「......はあっ、あまり見くびるなよ」


「っ!さっさと固めることとしますか!」



 ヒュッ、ガッ!!、ガッ、ゴッ!!ピキピキピキ......ッガッ!!



「......なんでいちいち同じところに戻るんですか?」


「......っは、この場所の方が何となく都合がいいからなっ!」



 ヒットアンドアウェイ、攻撃を仕掛けては引く。一会の打撃は先程からほぼ同じ位置に当たっているのだ。それもそのはず、或斗は一会に近づいて攻撃を仕掛けては同じところに戻ってから一会の攻撃を躱す、それを繰り返しているのだから。しかし一会にはまだ何故自身の体力を消耗してまでそれを繰り返すのかがわからなかった。


 息を荒らげながら必死で守る或斗の行動に、一会は困惑の色を示した。無表情の鉄仮面が崩れるその瞬間を堕天使は見逃さなかった。



 ヒュッ、



「それ!」



 ガッ!!



 或斗はその一瞬の内に右足で一気に距離を詰め、左手で握っている剣を一会の喉元に突き刺そうとした。



「なっ......」



 キィンッ!!



「......この槌は剣タイプが元なんです」



 しかし一会の槌......から変わった剣によって防がれた。



 ぐ、ぐぐ......



「そして......」



 ピキ、ピキピキ



「......、っ......!!」



 ピキピキピキ......



 自身の左足と右腕から氷が侵食していく。氷が広がるのに伴って、幹部にまるで大量の剣山を刺され、その刺された部分を力一杯押されながら中へと抉り進まれるような激痛が走る。幹部は血液が抜けすぎて腐ってきているのではないかと思うほどに、氷の冷たさと圧迫、そしてその感覚の上から覆い被さる激痛で感覚は殆どなくなってしまっている。


 堕天使はその激痛を歯を食いしばって、自身の中で湧きでてくる叫び声を目の前の敵に聞かれるまいと決死の思いで噛み殺した。その様子を見ていた暗殺者は、嘲と昂りの視線で見つめ、静かに一言告げた。



「......声を押し殺しても無駄ですよ?あなたの体に走る激痛は変わらないし、強者は苦しさを必死に歯を食いしばって耐えている弱者という景色に、そそられるものなんですから」


「っ......、誰が、弱者......だ......ぐ、」



 一会の耐えても無駄だという声を或斗は半分ほどしか聞きとることしかできなかった。もはや胸より上と左手と、右足の先以外が凍りついてしまって、その場で意識を保っているのが必死だったからだ。


 その様子を見兼ねて一会はゆっくりと近づいていき、まだそれに気づいていない或斗の前で、自身の頭上に剣を構えた。



「さて、では一気に一刀両断するとします」



 ヒュッ、ガッ!!




 そして一気に振り下ろした。同時に仮聖堂に、鈍い音が響きわたった。




 ──────────────To Be Continued───────────────




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