10話5Part Der verhasste Heilige⑤
「......ここから先はこの者が案内しますので、着いて行ってくださいね」
「再三言われなくても分かってるよ!」
「......」
一会が空間転移にて瞬間移動してきた拠点、と呼ばれる建物内を葵はあちこち行ったり来たりしていた。......回廊みたい、1代目の時の城に似てる......
そう辺りを見回しながら歩く葵の案内係はずっと無口だ。一会の手振りのある指示には反応するのだが、葵が口を開いて何かを言っても伝わらないらしく、動かない。その案内係に着いていけと指示する後ろから着いてきていた一会もいなくなった為、2人で人っ子1人いない回廊風の廊下を数分間歩いている。
「......」
「......静か......耳聞こえないのかな」
「......」
「......おい」
「わっ!しゃ、喋った......」
「......」
「......おい、こっちだこっち」
「......上?」
謎の声のする方......天井の方を見上げた葵の視界には、......養い主であり下界の13代目魔王である望桜の顔が、丁度屋根にあった蓋を開けて穴から葵の方を覗いている所であった。......なんでここに望桜が!?
「ま、望桜!?」
「おい、大きな声出すなよ騎士団の奴らにバレるだろ......!」
「あ、ごめん......」
「......てかそいつ耳聞こえねえんだろ?さっさと手え出せ、引き上げるから......ずらかるぞ」
「え......」
「ここまで入ってくるのも大変だったんだぞ!見つかったら殺されるし聖水染み込ませた糸の結界痛てぇしよ......」
「うん、てかその結界をどうやって突破したの「アオイ〜!!」
「......ごめ、また引っ込んどくわ」
「......わかった」
誰かが廊下で佇む少年の名前を大きな声で呼びながら走ってきた。ハイネックの白いロングコートを袖を通さずに肩にかけ、金色の固定金具でぴっちり止めている。その下から覗くのは人間界西方·聖教の協会騎士団·プテリュクス騎士団の制服だ。ただ葵にも面識がない人物だったため、騎士団の人間であること以外はわからなかった。......ここで遭遇するとは多分、かなりの高確率でイヴの仲間......聖火崎達の敵。
「......あれ、アオイじゃなかったっすか?」
「いや......あってるよ」
「だよね〜!!あってるなら良かった、今日初めて会うからあってるか不安だったんすよ〜!」
「......プテリュクス騎士団の人なの?」
「そーそー!プテリュクス騎士団セニュアルオフィサー、カエレスイェスとはおいらのことっす!」
そう言って騎士団の人間......カエレスイェスはバッヂの付いた騎士証明板金の、ネックレス型プレートを取り出した。そこには確かに"Senior officer Caelestis"と刻まれており、軍服の左胸の辺りには金の星章が付けられている。......バッヂには本物だと分かるように並大抵の聖職者では込められないであろう量の神気が込められている。確実に偽造ではないだろう、本物だ。
そしてその騎士証明板金をまた制服の下に隠し、誇らしげに自身の胸を叩きながら自己紹介をする騎士に、葵は思わず身震いした。......騎士なのに、バッヂに込められた神気に勝るとも劣らないほどその騎士が神気臭い。これは......流石人間界の国教である聖教本拠地の騎士、仮にも大悪魔である葵が足を後ろへと伸ばして歩きさってしまいたくなるほどの信仰心、牧師並の神信だ。
「......あ、案内係の子が......」
「ありゃま、こいつは失礼したっす!耳が聞こえない案山子が案内していると上から聞いていたのに、引き止めてしまって......」
「あ、いいよ別に」
「仮聖堂にはおいらが案内させてもらうっすね、そこでイヴ殿と一会殿がお見えになるまで、1人で待機しててくださいっす」
「わかった」
靴の音を鳴らしながら薄暗い廊下を歩いていく。1面コンクリート張りの殺風景な廊下は、まだつかないのかと頭の中で考えては、後ろを振り返って歩いてきた道の長さと前に広がる終わりの見えない廊下を視線でいったりきたりしては、前を歩くカエレスイェスに聞こえないように小さくため息をついた。それを数回繰り返しているのだ、数分おきに。
それの回数からいくとかれこれ15分は歩いたはずなのに、一行に終わりが見えないことに流石にイライラしてきたのを葵はぐっと堪え、また黙ったままカエレスイェスの後ろを大人しく着いていった。
「......や〜、かなりの距離あるかせてしまってすみませんっす!つきましたよ〜!」
「ここが......仮聖堂?」
白を基調とした内装の至る所に細かく丁寧な神像が彫刻として彫り込まれている。円形に並べられた椅子には全て金色の翼が装飾されており、"仮"聖堂なのに葵にはこの場所が本殿ではないかと錯覚してしまうほどには、本殿の装飾に酷似した装飾が小さい規模のホールにありったけ施されているのだ。......聖教の総本山である西方からだされた元帥であるヘルメスがイヴ達の仲間に引き入れてあるからだろう。
「ここ"ニホン"にはアドウェルサス·アルカナムもレグルス·セプルクルムも無いっすから〜!」
そう言って懐から取り出した人間界の大陸西方の地図と、日本の地図を取り出してそれを見比べて満面の笑みを浮かべた。西方の大部分を占めるメロウフォレストやカエレスイェスの言ったアドウェルサス·アルカナム、レグルス·セプルクルム等が西方の地図には記されており、日本の地図に記された日本の地形や建物の密集具合とは見比べてみたら似ても似つかない。そもそも国教が聖教では無いのだから聖教の教会や霊園などある訳もない。
......アドウェルサス·アルカナムは聖教の教会本殿だ。ここ仮聖堂と装飾の種類は何ら変わりないが、規模と面積がかなり違う、天地の差がある。そしてレグルス·セプルクルムは巨大な温室の中にある霊園で、牧師や聖職者、プテリュクス騎士団の者の墓が並んでいる。......というのが葵が知っている西方聖教関連の場所の詳細だ。
「それじゃあ、自分もここで失礼するっすね〜」
「ああ、うん。ばいばい」
......先程からやけに簡単に人が離れる。この仮聖堂のある拠点がそれほどまでに"安心"なのか。先程望桜が言っていた"聖水を染み込ませた糸の結界"......糸で張ってあるということはもう既にこの拠点内にはイヴがいるらしい。そして葵が1人で街を歩いている所を一会に連れてこさせた。
......イヴの準備が整った、そうなると聖火崎達勇者を暗殺する手立ても整ったのだろう。
そして葵もその勇者暗殺の協力者として、再び招集されたのかもしれない。葵には1度聖火崎達が勝ったのだが、それは魔力を最大量まで貯めていかなかった葵の戦力不足が原因だ。
しかしイヴ達の準備が整ったのなら、聖火崎達の暗殺の兵として駆り出されるのは恐らく葵、一会、カエレスイェス......そしてイヴが声をかけたもう1人の"7罪"悪魔だろう。そうなると聖火崎達の勝率はとてつもなく下がる。
......まずい、アヴィがまだ来てない......勇者達に唯一味方する元帥であるアヴィスフィアはなぜか日本に来ている聖火崎達の暗殺を防ぐために、ゲートでこっちに来てくれるはずだったのだ。しかしまだ来ていない、おかしい。帝亜羅にアヴィとの交信がバレる前の日にアヴィが日本に来るって言っていたのに、明後日の朝に来ると。
アヴィには聖火崎の家の場所を伝えてあるし、第1約束は守る主義なのがアヴィだ。......何かに巻き込まれているのかもしれない。もしかしたら......そう考えて葵はその不安を忘れるために仮聖堂の内装を観察することにした。
......刹那、後ろから足音が聞こえてくる。ゆっくりと近づいてくるその足音はカエレスイェスの物より重く、一会の物より軽い。......凶獣族の頭領になれるほどの五感の鋭さを持ち合わせている葵だからこそ判別が可能なのだ。この音は......
「全く......やっぱり面倒なことになったか......」
「或斗......!」
......葵の親友である瑠凪の直属の部下·或斗だ。望桜だけじゃなく、或斗まで来てくれた......!!
「俺と貴様の2人ならある程度の騎士ならば倒せるだろう、さっさと帰るぞ」
「......なんで助けに来てくれるの?瑠凪に僕は......」
......葵がイヴの計画で聖火崎達を殺しにかかった時、妨害をした瑠凪の肩口を魔斧で思いきり斬りつけた。そのせいでまだバイト先でいつも通りの作業は出来ていなかったらしいし、何より或斗にとって瑠凪は自身の命を賭してでも守るべき主だ。だからその主を傷つけた自分は恨まれているとばかり葵は思っていたのだ。
しかしこうして助けに来てくれた。その事に葵は若干感銘を受けながらも或斗の背について歩く。
「......確かにあの愚行は許されるようなものではない。が、あれほどの愚行を貴様は主様に働いたにも関わらず、それでも主様は貴様のことを大事な友達だって仰るのだ。どんな理由であれ大事な友達がいなくなったら悲しむだろうしな」
「どうだろう、瑠凪はあれでもドライモンスターだからなぁ......あ、そういえば見張りとか居なかったの?ここにはイヴと一会、プテリュクス騎士団の奴らがいるんだから、見張りが絶対いるはずなのに」
「ああ、それがな......見張りはいたが、少なかったし弱かった。それに糸の結界も......望桜さんは難航したようだが、俺は飛べるからな......直接屋根に降りた」
「上の方まで張られてなかったんだ......」
「ああ。とにかくさっさと出るぞ」
「うん。......?」
そのまま背について歩き続け、ようやっと外への扉の隙間から漏れ出ている光が見えた。そこから外に出て帰ろうとした矢先に、ふと扉の向こうで音がした。人がいる気配もある。......刹那、その気配が背後に移動した......空間転移だ。
「うわっ」
「ちっ......」
フオンッ......
そしてその気配の元である背後の人物は、再び空間転移を行使した。2人も自身と同じように移動させ、とんだ先で2人の前面に、6mほど距離を空けてなにかの上に着地した。
「......鼠が3匹ほど紛れ込んでいると聞き急行したのですが......1匹ですか」
「一会......!それに、ここ......」
「聖堂を模してあるのか」
飛ばされた場所は仮聖堂で、なにか......祭壇の上に仁王立ちしているのは葵をここに連れてきた、そしてイヴやヘルメスと共に異世界であるここ日本で勇者暗殺を目論む、勇者軍元帥·一会燐廻だ。
「やはり裏切り者は裏切り者、鼠と共に氷漬けの刑に処すとします」
ピキッ、ピキピキピキ......
「寒っ、」
「氷使いの槌アルマスか......厄介だな」
一会の右手に握られた槌からは白い煙がたっている。それほどの冷気を、あの槌は発しているのか。仮聖堂の気温は発生する冷気に比例してどんどん下がり、真冬並みだ。
「さて、この絶対零度の中でどのくらい耐えられるのか......お手並み拝見といきましょう」
ピキピキピキ......
「......葵」
「うん......わかってるよ」
そう言って葵は魔斧、或斗は自身の魔力で呼び出した剣を構え、一会を睨みつける。2人ともが武器を構えたが関係ないというふうに流し、2人の方を見返す。
「2人同時にかかってきてください、まとめて相手してあげましょう」
......その視線は紛れもなく2人を嘲る視線であった。中途半端な魔力量のみで、一体どれだけ耐えられるのかと嘲り、倒れるその様をこの目で確認してやろうと一会は言っているのだ。......やってやろうではないか、下界の悪魔がただの人間ごときに馬鹿にされたのに、黙っていられるものか。そう2人の中で怒りが膨らんでいく。......ならばこちらこそ貴様の倒れるさまをこの目で拝んでやろう。
「......或斗、容赦はする必要ないみたい」
「そうだな」
一会燐廻VS御厨葵&餅月或斗。本来なら悪魔や勇者等いないここ日本で、戦端の火蓋が切られたのだった。
───────────────To Be Continued──────────────
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