4話3Part はたらく&まなぶ人間(悪魔)たち③

 或斗に見送られながら車に乗り込んで信号の切り替わりを待っている間、或斗の方を見ながら昨日家で話した事について考えていた。


 ...その時、或斗が何かに躓いた。信号がちょうど変わり発信し始めた車によって視点がかわる中、障害物がなくなって見えるようになった或斗の足元をちらりと見た。



「何も...無い?っ、まさかっ!!」


「鐘音くんどうしたの!?」


 バチバチッ、ドッカーン!!!



 先程まで自分がいたあたり、そして或斗が現在進行形で歩いているであろう場所で大爆発が起きた。


  ...何も無い所で謎の爆発。連続爆破事件。


 あの爆発で昔のことで1つだけ心当たり...というか、関連性のありそうな出来事を思い出した。一見関係無さそうなことだが、魔力弾道砲術を最高練度まで習得したら、魔力の凝縮形態...魔力弾道プラズマを扱えるようになる。


 魔力弾道プラズマは、基本的に中立媒体の生物(魔力と神気の両方を等しく媒体にしてる生物、もしくはそのどちらも有していない生物)に着弾しても、一切害がない。一方で、高い魔力又は神気を持つものに着弾すると...



「あそこ...!或斗さんがいる所じゃ、或斗さんが!」


「帝亜羅落ち着いて!」


「でも...!!」


「凄い爆発...もしかして知り合いでも巻き込まれた?」



  ...高い魔力(又は神気)と反応して大爆発が起こり、壊滅的な被害が出る。



 1代目魔王軍の時、人間界南方に攻め込んだ当時の幹部が一晩で南方人口の約8割を行方不明(僕の見解としては建物も粉々になり、そもそも人かどうかわからなくなったんだと思う)にするという壊滅的な被害をだした方法もそれだ。


 神気は神社や寺、教会に集まりやすく、それらの建物が人間界南方には密集していたからだ。つまりプラズマの性能を熟知しており、最高位魔力弾道術式であるそれらをほいほいと生み出しては地面に投下できる奴、それが南方に攻め込んだ当時の幹部だ。



 そして今回こちら側に置かれていた爆弾が仮にそれだったとしたら...?プラズマは基本的に中立媒体の生物には着弾も爆発も視認できない。だからそもそも魔力も神気も存在しない日本に住む人間には、着弾から爆発までの全てが視認できない。でも魔力媒体の生物である悪魔には当然全て見えている。



「え、えと...あの、あわ」


「うん、多分」


「鐘音くん、待って...」



 車が止まったのを確認して鐘音が勢いよく飛び出していった。帝亜羅が止めようとしたが間に合わなかったようだ。帝亜羅の友達の梓(あずさ)や梓のお母さんもいるが、鐘音に置いていかれたことと知り合いがひょっとしたら巻き込まれて怪我...もしくはそれ以上のことになってるかもという不安が、帝亜羅のパニックを加速させる。それを見兼ねた梓が帝亜羅に声をかけた。



「...行ってきな、待ってるから」


「梓ちゃん...」


「大丈夫!!むしろ早く行きな!!」


「うんっ!!ありがとう!」



 帝亜羅も遅れて駆けて行った。はやくあの爆心地へ、人が倒れているかもしれない、そしたら助けてあげないと。



「鐘音くん!!或斗さんは?はやく救急車を...」


「げほっ、ごほっ、げほごほっ」


「あ、或斗さん!?」


「或斗、犯人の位置はわかる?」


「あの大爆発の中心にいたのに、軽傷...?」


「帝亜羅...後で説明するから」


(帝亜羅や目撃者の記憶は後で消しておかないと...)


「はい、あの辺です」



 或斗が指さした先は建物が連なる中でもひときわ目立つ大きな建物の上。そこを鐘音が見た瞬間に何かがそこで動いた気がした。人型の影の頭元に角が数本、それに翼のようなものも。逆光でしっかりとは見えないがあの形状は...間違いない、悪魔だ。



「或斗、帝亜羅と野次馬のことは任せたよ!」


「承知しました」


「くそっ、間に合うはず...!!」


「っ、鐘音...くんなの?」



 体内の魔力を背中に集めて、一気に放出する。鐘音が翼の展開をすると同時に身体中に紋様が浮び上がり、頭に角が顔を出す。



 完全悪魔体とはいかずとも、人間らしからぬ姿に戻った鐘音は、翼をはためかせて例の場所に飛んで向かった。



「え...え?え?」



 或斗は間に合うといいが...と心配な表情、帝亜羅はえ?え?と困った表情をしている。そんな2人を後目にビルの屋上に降りたった鐘音。辺り一帯からかなり遠くの空までを、千里眼や透視で見回してみても誰もいない。...おかしい。姿を見てからまだ数秒しか経っていないのに、千里眼や透視ですら確認できない?魔法の痕跡もないから幻術やゲートとかではないし、それ以外の何らかの方法で逃げたとするなら...相当強い悪魔ってことになる。厄介極まりないし、まず間違いなく下界絡みの事例であることは確定だろう。



「...逃げられた、か」



 今回の爆発でいたずら並の規模の爆発しか起きていなかった連続爆破事件が、本格的な殺傷事件に変わる可能性がかなり高くなった。そして下界絡みということは、今後僕らが襲われる可能性があるかもしれないってことだ...この国に迷惑をかけて、異世界の秩序を壊すことは何があっても避けなくては。



 色々な考察を繰り返していた鐘音は、とりあえず目撃者から連続爆破事件で大爆発が起きて、その現場に"翼を生やした男子高校生がいた"という記憶を消すためと、或斗に詳しい話を聞くために下に降りることにした。



「どうでしたか?地上からも一応透視で確認はしましたが、怪しい人影はありませんでした」


「そう...逃げられたよ」


「そうですか...」


「え、あの、えっと...」


「あ、記憶消すの忘れてた」


「急いでくださいね」


「え...?え?」



 1人まだパニック状態というか何もわかってないふうな帝亜羅はおいといて、1人記憶消去術式を描き始めた鐘音。或斗は野次馬の人達に影響が出ないよう張っていた結果を解除する。



「Ich bin der große Teufel der sieben Sünden Beelzebub, Verweilen Sie in den Köpfen dieser Menschen und löschen Sie ihre düsteren Erinnerungen, (我は七罪大悪魔ベルゼブブ。 理に則り、かの者達の頭に宿りし陰鬱なる記憶を抹消せよ)」



 鐘音が術式を描き咒文を唱えた途端、その術式が鐘音を中心に展開されていき、一気に広がったかと思うと空に舞い上がり一瞬で消えた。術式により赤みがかっていた街がいつもの景色に戻る。

 


 集まっていた野次馬や目撃者は或斗が張った魔力結界の影響で意識を失い眠っている、或斗曰く強力な結界ではないから数分後には目を覚ますとの事。案の定帝亜羅や車に乗っていた梓と梓の母も眠っている。



「...にしてもほんとに凄い爆発だった、でもよく無事だったね」


「まあ、これでも軍の幹部になれる位ではありますから」


「まあ、そうだね」



 その後、連続爆破事件の中で"いつも通りの小さな爆発が起きて、怪我人が1人でた"ということで被害者でもあり最近の連続爆破事件初の怪我人でもある或斗は、治療がてら近くの病院で話を聞かれ、瑠凪曰く1時間ほどしてから帰ってきた或斗は、酷くげっそりしていたという。




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 あの日の爆破事件のことはとりあえず一件落着、しかしまたどこかで爆破事件が起こるかも...と常日頃気をつけて生活していた望桜達だったが、あれ以降爆破事件はめっきり起こらなくなった。犯人が満足したのか、あるいは...



 ...考察はこの位にして、まずは今受けている数学IIの授業に集中するとしよう。とはいったものの現在あと2分で授業が終わる時刻だ、遅かった。先生も教師用の椅子に座り、生徒たちの取り組み状況を確認しつつ時計をチラチラと見ている。



 キーンコーンカーンコーン


「...終わった」



 そこら中で疲れたややっとだ〜と聞こえてくる教室の自席で、軽く伸びをして深呼吸しつつ窓の外を眺める鐘音。そこに1人の女子生徒が近づいてきた。



「鐘音くん!この間は怖かったね!」



 この間の"連日報道されている内容通りの規模の爆発"をけっこう近い位置で見た、女子高生の帝亜羅だ。



「うん、そうだね」


「にしても或斗さんよく無事だったよね〜、軽傷ですんで良かった!」


「...だね、或斗も心配してくれてありがとうって言ってたよ」


「え?いやいや、私は居ただけで何もしてないよ!!それを言ったら鐘音くんの方が、犯人を捕まえに行ったから...」


「あー、まあ確かに...って、え?」



 ...たしか僕は、この間の爆破事件は"いつも通りの小さな爆発が起きて、今回は怪我人が1人でた"事件と記憶を書き換えた。

  . .

 なのに帝亜羅の記憶だけは"いつも通りの小さな爆発が起きて、今回は怪我人が1人でた"事件ではなく、そこに更にその事件で"鐘音は犯人を捕まえようとした"という記憶が残ってしまっている。...これはまずい、まあまだ"鐘音は悪魔である"という記憶が残ってないだけマシだけど。


 ...ひょっとしたら帝亜羅は魔力にちょっとした耐性があるのかもしれない。まあただの日本の女子高生であることにかわりはないが。



「え?だって鐘音くん犯人を捕まえに行ったでしょ?あ、あとね...最近夜中のパソコン室に人がいるって〜...」


「夜中のパソコン室に人?」



 そう言いながらスマホの画面を見せてくる帝亜羅。表示されているのはTmitterのとあるツミート。


『最近、うちの学校で夜中パソコン室に人がいるっていう噂がたってるんだけど〜、めっちゃ怖い〜!!でもうち会ってみたいんだよねぇ、イケメンだったらどーしよー!!(*/ω\*)キャー!!』


 ...なんだこれ。とはいえ、長くなってしまったが内容的には謎の人物出没事件と関連があるらしく、#うちの学校のパソコン室に人がいる件 (そういうタグが既に出来ていた) で検索をかけてみると、同じような内容のツミートが山ほど上がってきた。



「うん、人が居るらしいの〜...それでね?おばけかな〜とか思ったんだけど、一応校舎内に謎の人がいる?関連の警察情報を見てみたの〜」


「...そしたら?」


「...そしたらね、神戸市どころか、兵庫県各地の学校で"夜中、パソコン室に人がいる"みたいな事件?が起こってるらしいんだ〜」


「"夜中パソコン室に人がいる"事件が兵庫県の各地で?兵庫県って一応面積は8,396㎢だよ?それどのくらいの頻度なの?」


「んーとぉ...ちょっと待ってね、調べるから」


「わかった」



 帝亜羅がスマホの画面と睨めっこし始めてから1分弱。パッと顔を上げた帝亜羅は先程と同じようにスマホの画面を鐘音に見せた。



「...夜中の学校でパソコン室に人影、5日前神戸市内、美方郡内、姫路市内...ちょっと待って、5日前から目撃情報が出てて、1日に何箇所も目撃されてるってこと?」


「そうみたい...でも、おかしいよね...?学校内に不審者自体が、今の警備面がかなり固い学校で、一体どうやって...」


「最近は法律改正があって全国の学校で監視カメラとオートロックが義務付けられて、現にもう全国全ての学校で改装工事が終わったんだよね?」


「うん。だから侵入はほぼ不可能なはずなの。だって、オートロックの暗号キーは1000000桁はあるし、建物は壊されてないみたいだもん」


「ほんとにおばけとか...はないか」


「どうだろう...」



 ただの噂なのか、もしくは本当に...




 ──────────────To Be Continued───────────────




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