第114話 作戦会議。
「ならばそれだからこそ、伏兵がいると考えるべきか。それとも戦術を少しは考え始めたか……。それは誰かが耳打ちしたかもしれんな。とりあえず作戦めいた物を警戒せねばならぬ」
「戦術、ねぇ。それならどっかに隠れて待ち伏せで攻撃してくるって事か。あぁでも、クラインもやってたが俺には効かねえんだよな、それ。もしくはこそこそと泥棒みてぇに隠れて、神殿に盗みに入るチャンスを伺っているか。ってこれも俺には効かねえわ。やっぱ俺天才っ!」
「ふんっ。じゃあ天才自慢のお前を2つに裂いて、守りと攻めに片方ずつ持って行くか。ちょうど減らず口も半分に減ってくれれば尚良いだろう」
ギリンガムの嫌味にへらへら笑うヴィン・マイコン。
「でももしおびき寄せて攻撃するってんなら、遠くから攻撃をしやすい場所を取るだろうよ。何せ魔法のプロの集まりだ。下手すりゃ見えてねえだけで、マッデンの周りには数百の手下がいるのかもな」
「それか偽物って線もあるよなぁ。デブのツラなんぞ見分けれねえし、影武者ってんだっけ? そんなのも王様にはいるらしいし」
「どちらにしろ、神殿の守りは絶やす訳にいかぬと言う事か。緊急時にも騎士団は神殿に少数は必ず残す。傭兵は一部を除き、神殿内部には入れない。これは本部からの命令でもあるから守らせてもらうとして、だ。とするならばとりあえず、戦力としては傭兵は全員攻勢部隊にしよう」
そのギリンガムの言葉はなんとも、傭兵と騎士団の関係を分かりやすく解説してくれていた。
「そして私と騎士団の精鋭、もしくはヴィン・マイコンのどちらかが舞台を率いてマッデンを討伐に向かうのが得策。討伐に参加しなかったあとの人間は死ぬ気で神殿を守って、時間稼ぎ。幸いな事にまだ、神殿に進軍は始まってはいない。騎士団は少数だが町の巡回に回しているので、進軍が始まればすぐに分かる。良いな?」
その言葉にヴィン・マイコンがうなずく。
すると……。
「それで……よぉ。俺はずっと気になってたんだがな。お前らの国にジーガってのがあるだろ? なんでアレが使われてないんだよ、この聖地。今があのヤバい兵器を使うべき、絶体絶命の場面だろうが」
そう素直に疑問の言葉を口にするジキムート。
確かにその通りであった。
その強さを身をもって感じたジキムートだ、あの兵器を味方に連れたいのは当然とも言える。
だが……その言葉に何か、部屋の空気が変わってしまった。
「あぁ……それか~。確かに確かに、結構な問題だよなぁ。へへっ、俺もそう思うぜ、マジで。なぁ、応えてくれよ、ギリンガム」
「……。ちっ」
舌打ちする騎士団長殿。ギリンガムがフルプレートの下からヴィン・マイコンを睨む。
「あん? なんだ、どうしたよ。なんかあるんならさっさと話してくれっ」
ジキムートが結論を急かす。
するとヴィン・マイコンが笑いながら答え出した。
「あ~、まぁ。政治的なお話だよな。下等な傭兵のお前に分かるかはどうか……。軍部は今、王族からたもとを割ってる。それはあのお嬢ちゃんの股ぐらに飛び込んじまったからだよ。で、だ。無理くりに首輪ほどいちまった訳だがそのせいで、ジーガやらの主力の配備が滞っちまったんだっ。なんせあれは元々国王様直轄地でしか造られてねえからよ」
国民軍を創設した王族だが、実際は自分達が作った軍すらも恐れている。
蜂起されては困るのだ。
当然蜂起させないために、自分達が軍部への手綱を握るのを忘れない。
この国の場合はどうやら、兵器の独占が一つの手だったようである。
肝いりの主力兵器。それを王族が部品から製造まで一手に独占して、手綱を締めている訳だ。
「あぁ……なるほど。若い女にほだされ浮気したら、家から追い出されちまったと。つまり今はこいつら野宿の野良犬軍人って事かよっ。しけてんな~」
「ふんっ……この〝フリッティング・ドンキ(ひらひら舞うロバ)〟共がっ」
にやにやしているジキムートに悪態をつくギリンガム。
相当バツが悪そうだ。
「アレがあればまぁなんとか、やりくりできそうなんだがな。ホントに一機だけでも良い、都合つかないのか?」
「ないな。無理だ傭兵共。諦めろ」
(嘘の臭い。)
恐らくはどこかに隠しているのだろう。
だが軍人が無いと言ったら、無いのだ。
暴動を起こしたとしても返答は変わらない。すると……。
「へへっ、だけど甘いね~、甘い甘い。ジキムートちゃん甘々だよ~。ジーガは配備されてたんだぜ? もともとは、よ。だけども配備されたその日にあっさりと壊されちまった。アイツら水の民も馬鹿じゃねえ。ジーガも操者もまとめて、率先して狙ってくるからなっ。3日で5機があっさりとスクラップっ! その状況を見たお偉いさん……ミリンランだったかね? あれがブチ切れて、青ざめたこいつら軍部が供給を止めちまったんだ。しゃあねえはな、ホームレス軍人だもんな~」
「……」
ヴィン・マイコンの嫌みに眉根をヒクつかせる野良軍人。
今の彼らは資材的にも金銭的にもジリ貧であった。
「ちっ、マジかよ。あ~あぁ、しゃあねえな。そうなると俺らだけで臨むわけだ、そのジーガすらも寄せ付けないクソ共に。困ったねそりゃ」
「数も判然とせんしな。住民全員が敵なのかそれとも、マッデンに従った者だけなのか。神殿防備も難しい所なのだ。せめてマッデンに反する者達が見つけ出せればまだ、神殿に籠れば勝機はあるかも知れんが……」
反抗戦力があれば情報や地の利、その他補給などが得られる可能性があった。
だが住民全員が敵ならば、包囲された場合は地獄である。
「お前んとこのバスティオンのルート使っても、反抗戦力は見られなかったんだよな? さすがに水の使徒が神様のたもとを分かつってのは難しい、か。なんせ神託受けれるのが1人ってのがなぁ……」
ヴィン・マイコンがぼさぼさの頭をかく。
神託の有無はやはり大きい。
心では嫌がっていても、神託には逆らえないのだから。
「ところで、よ。この勝負の決着はマッデンの首か、神殿が奴らの手に落ちるかって事だよな? そんな早い者勝ちな感じならいっそ、全員が一気に攻め込んじゃダメなのかよ?」
「全員が……だと?」
ジキムートの意見にギリンガムが熟考する。
「どうせアイツらと俺ら、お互いの目的地への距離の差はねえんだ。一か八かならこの3人、そんで騎士団の精鋭かき集めて……後おまけで傭兵全部くれてやれっ! それで一気にかかってみるってのはどうだよ?」
……。
「へえ……面白えな。奴ら素人がパニック起こすのが目に見えらぁ。ふひひっ」
「大博打だな、だ……」
「団長っ! 団……グアッ!?」
「通信……なんだっ、どうしたアロンゾ!?」
バゴンっ! ドォオッ!
「……っ!?」
全員が顔をしかめた。
爆発音は珍しくはない……。
先ほどから頻繁に、何かを傭兵宿舎に撃ってきている。
だがその音、それは神殿の方から聞こえたのだっ!
「……どうやら敵が、神殿ぐあぁっ!?……。な……内ぶ……ぇ」
断末魔の声が何か……魔道具だろうか?
ギリンガムが持つそれから響くっ!
全員が無言で蒼白になり、すぐさま立ち上がったっ!
「内部っつったか?」
「冗談だろっ!?」
窓から身を乗り出して、外の神殿を見やるギリンガムとヴィン・マイコンっ!
ジキムートは……攻撃が怖いので、後ろに控えていた。
「やべえ……。神殿から煙が上がってんぞっ! ありゃ内部からって事か、おいっっ!?」
「内部……だと? ふふっ。ハハハ。負けた……か。あぁ……なんだ、これは。一体どうやって奴らは……」
ギリンガムがぼそぼそと……力なく言葉を発し、仮面を何度も掻こうとする。
頭が混乱しているのだろう。
しかしっ!
「行くぞ……。そうだ行くんだ立てよギリンガムっ! 行くんだよっ!」
「……っ!? おっおうっ!」
ギリンガムのスネを蹴り上げた直後にヴィン・マイコンが走るっ!
負けたかどうかは、自分の目で確かめないといけない。
それは歴戦からの教訓だ。
全力で走り出す2人っ!
バタンっ!
「おっ、おいおい……俺は。俺はこれからどうすんだっ!?」
「お前が傭兵かき集めてマッデンを討ちとれっ! 安心しろ、数は多分上だっ!」
「騎士団も回すっ。安心しろ傭兵っ!」
ギリンガムとヴィン・マイコンは驚異の速さで疾走し、傭兵達をハネ除け消えていくっ!残されたジキムート。
「あっあっ……。安心要素が、どこにもねえんだ……が?」
棒立ちになるジキムート。
ポツンと2人に置いていかれて、戸惑う事しかできない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます