第110話 政治と傭兵と決戦と……。
「もっと考えろ、ギリンガム。もし……もしもだ、クラインとお嬢ちゃんがつながっていたら? そうすればどうなる? 予定調和の重税をかけられっぞ。〝ブルーブラッド(蒼白の生き血)″ですら、持ち出すのは難しくなんだよ」
その傭兵長の言葉にギリンガムが考えこんだ。
「ぬぅ……クライン、か? ヴィエッタとクラインの予定調和……予定調和、な。つまりは何か? 封鎖という運びだとでも?」
「そうだよそう。全部に関税びっしりかけちまえば良いっ! なんせクラインとお前んとこで水の聖地への道は塞がれちまってんだからな」
この世界には空輸と言う物はほぼほぼない。
隣接する国が持ち込み禁止を唱えれば、どんなに優れた商品でも簡単にそこで包囲網をかけられてしまう。
それは人の通行も同じ。そうなると折角独立した水の民達は、交易の自由が奪われてしまうのだ。どうしても外貨を得たければ、悪い条件を飲むしかなくなる。
「示し合わせて2対1。袋叩きって事かよ?」
「あぁそう言うこった」
「なるほど、な。確かに我らバスティオンで独占する事さえ諦めれば、利益を分配してそして……リスクさえも分割できるようになるか。気に食わんが、良い外交戦術だ。成功すれば……だが」
「そうな、リスクだよ。水の都へ対抗する軍備も簡単になるんだ。なにせ水の都が一つの国として成立ってんなら、孤立したも同然。だって周りは敵ばっかじゃんよ。自分達水の民をいけ好かないと、今でも思ってる国家クライン。そんでもって今まで一人でやって来れてたバスティオン両方に挟まれるんだぜ?」
「……そこまで強く軍事的な物を結べるだろうか? 腐っても我らは敵だ。割って入り込まれれば……」
「いやいや、水の民は外交の素人同然だぜっ。それがおいそれと、ビッチの嬢ちゃんと賢王相手にまともにやれっか? もう聖域は昔みたいに完璧じゃねえ。それは証明されてる」
樹木の神ユングラードに仕える民が今、フランネル王の完全統治下にある。
聖域は完ぺきに隔離され、特別な要件がないと樹木の〝ソレスティアル・ドゥーエン(予言者)″ですらも、中には入れないようになっていた。
「じゃあそれなら……あのクライン軍の群れは初めからこちらに攻める気はなかったという事なのか? 私達は木クレの人形に怯えて居た、と」
「そうなるが、な。だがどうだかよっ。俺は少なくとも奴らからバッチリと攻撃を受けたぜ?」
ヴィン・マイコンは自分を親指で指す。
「おいおい。お前が言っといてなんでお前が否定するモン出すんだよ。なんともきな臭いプランだよなぁ、それ。で、どうするんだよ。第2プランとやらに移行するのか大将?」
ジュリジュリ……と音を立てながら声を上げるジキムート。
汚い跡2本、時々汁。
それが地面にへばりつく。
「……どうだろうか? そうなるとヴィエッタ・ニヴラドは第一プラン……。ここで水の民から至宝を奪い取る。という策を全て放り投げ諦めた訳ではなくなるな。その仮説ならばあくまで第2はしょせん代案、及び懐刀止まりのハズ」
「そうだな。で、お前。負け犬ちゃんに期待はしないが〝エイクリアス・ソリダリティー(水の誓約旗)″はどうしたよ?」
「ローラが能力でマッデンから奪ったが、ノーティスに奪われ返されてたぜ? 今は持ち出してはいけないとかなんとかノーティスが言ってたが」
「それは……全く持っておかしいぞ傭兵。次のプランと言ったが、我らが至宝を得る事が第一。そしてノーティスが言う第1プラン失敗の後の、聖地独立交渉。これが私の認識だが、そうではない事になるな。持ち出してはいけない……とは?」
「さあな」
全員が不可思議な疑問に包まれる。
「更におかしな事があるぜギリンガム。ならなんでクラインは選挙なんてもんを実施させたんだよ? それなら初めからディヌアリアの国家独立を宣言すれば良い。ただそれだけで良かったんだぜ」
イスラム国が国ではない事由はこれである。
他の国家から国家だとみなされなければ、国家にならない。
子供の喧嘩みたいな理由だが事実だ。
それをかんがみ自治権さえ確立さえできて、その上で他国家が認めると国になれると言えた。
「確かに、な。だが、ドンドンと作戦がさがっていったのかも知れんぞ? 最初は選挙で聖地を黙らせる予定だったが、無理だった。それ故にクラインもダヌディナ様の聖地にそれ相応の対応を迫られ……」
……。
「ふむ……もしやノーティスはクラインの間者か?」
「……」
ノーティスがヴィエッタの利益を語るのではなく、クラインの要求を語っているなら……話はつながる気がした。
プランとはクラインの為のプランなのかもしれない。
「だが仮にそれでもいくつか疑問が残る。クラインが欲する物が全く見えねえな。ここまで大掛かりなもん始めるきっかけがあるハズさ」
ヴィン・マイコンとギリンガムが考え込む。
するとジキムートが口を開いた。
「簡単じゃねえか。そう、〝エイクリアス・ソリダリティー(水の誓約旗)″にしろ俺らにしろ、アイツら水の民にしろ……そして神の獣もクラインも。そしてヴィエッタ。全ては神に通じてる。水の神……ダヌディナ。それ以外に目的は何もねえ」
唯一無二の一柱。
水の女神であり人類の宝。
何事にも変えること無き、君主。
「……確かに。どんなに金を捨ててもどんなに犠牲を払っても。槍が降ろうがマグマが流れようが神に会えるなら……まぁ、全てが惜しくはない、と。なるほどなるほど~。絶対的な前提条件を忘れてたぜ。これは揺るぎねえわ。お前なかなか頭良いな。ほーれほれ」
「おぃっ、やめろ。チッ、くそっ!」
舌打ちするジキムート。
当然だ。
その棒にすがって歩いている男。
よろよろと歩くので目一杯の野郎が少しでも撫でられればどうなるか……。
ドタ……。
「あぁ……クソっ!? クソゴミがっ!」
当然転ぶ。
泥まみれの汚い体が魚拓のように道に跡を残すジキムート。
「クソまみれのゴミに言われたかねえよ。へへーーへっ」
そのクソを触った手を服で拭きながら笑うヴィン・マイコン。
だがその時顔色が……。
「でもお前、良く生き残れたなよ……な。魔法はからっきしの無能で下水に揉まれたんだろ? なんとなーく怪しさを感じてるんだが?」
「確かに……な」
ギョタムートを見ながら、ヴィン・マイコンとギリンガムが覗き込む。
「あぁ……それは多分だが、お前のおかげだぜ」
「俺? なんだよそうか、金寄こせや」
ヴィン・マイコンが指を広げ突き出す。
「お前が俺にくれただろ。あのパンだよパン。アレがおそらく、水の中で息を続かせてくれたんだ。なんせ水を吸ったら息ができたんだからなっ」
「お前、あのパンまだ持ってたのかよっ!? よくもあんな上手いモン食わずに取っておけたもんだな。お前……もしかして何か? 熟女好きな方か? 腐ってくのを見るのが好きなたわけかよっ」
腕を突き出し金を要求したたまま、ヴィン・マイコンが馬鹿にした目で見てくる。
恐らくそのパンはかっぴかぴになっていただろう事は想像に容易だ。
「はぁ? ふっざけんなっ。このおっさんと一緒にすんなっ!?」
「どういう……要件だ傭兵。それは」
「あぁ分かる分かるっ! ギリンガムぴったりだわっ!」
ジキムートを睨んでいるギリンガムを、背後から指差し笑い始めるヴィン・マイコン。
「バカを抜かすな傭兵共がっ!」
「へへっ。まぁ怒んなって。そんであのパンもう溶けちまったからよ、だから今度また頼むぜ、白パン」
「馬鹿抜かせっ! それで、奴らはど……」
ガシャーーンっ!
「おっとぉ!?」
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