第51話 傭兵のリーダー達
(可哀そうに。どんなおっさんが来るか知らないが、そいつは今から大変だ。3時間、な。こんだけ待たせたんだ、とりあえずどうやってか落としどころをつけないと、収まりが付かないぜ。)
収まりがつかないと、どうなるかと言えば……。
いきなり決闘が始まるかもしくは、話の途中に斬りつけられる。
それか士気が著しく低下し、群れの体裁をとれなくなるかだ。
「解決策と言えば……。女を用意をするとかか?」
昔、とある傭兵長が遅れてきたときは、まるでサンバのカーニバルのような衣服を着た、乳を出した女が3人ほど入ってきた。
まぁその後はよろしくやるわけだが、それでなんとか事なきを得ている。
(ほんと、どうすんだか。)
ジキムートが考えていると。
ガチャっ!
「やあやあ諸君。お疲れ様。すまないねアハハっ」
そう言ってさっそうと入ってきたのは、女。
女だ。
一瞬、男だと思った人間も多いかったろうが、女だ。
褐色の肌をし、健康そうな肉体。
そして、何より美しい顔。
度肝の抜かれ具合は、ノーティスとそう変わらない位の、かなりの美人顔。
唯一違うと言えば、ノーティスより少し幼め、か。
顔はとても端正でそして、中性的だ。
年はまだ、17か18と言った頃。
恰好は秘書の様な青い姿で、スリットのかなり深い、タイトスカートのような物を履いている。
鎧はノーマルで動きやすくて、逃げやすいだろう程度。
自信にあふれたレッドアイをし、眼鏡――。
そう、この世界ではとてもとても珍しい、眼鏡をかけていた。
知的に見えるが、どこか気さくで話しかけやすそうな雰囲気。
髪はピンクに近い、キメの細かい赤。
それを目の上でぱっつりと切り、片目に寄せており、スポティッシュな女性。
美少女がさわやかに笑いながら、入って来た。
「おぉ……」
なんとも魅力的な雰囲気に、場内の男たちが総立ちだっ!
「お前より男前じゃないか? あの女」
「ふふっ……」
ノーティスは鼻で笑う。
確かに入って来た褐色の彼女は、ノーティスより男前と言えた。
そして褐色の彼女は、会議室の一番前に立ち……。
「いやいやぁ……。僕も忙しくてね。じゃあ、ちゃちゃっと済ませようか。それではこれから、仕事の説明に入るっ!」
「ちょっと待てやコラァっ!」
五月蠅い巻き舌を残し、ちょび髭の生えた傭兵と、その知り合いらしき一群が立ち上がるっ!
「なんだい?」
「てめぇ、こんなに人を待たせておいて、詫びの一つもないんかっ、おぉっ!?」
「るっせぇ」
ジキムートが片耳をふさぐ。
ノーティスはヤレヤレと言った顔である。
「ふむ、謝ったはずだが? 入ってきた時に」
「そう言うんじゃねえよっ。きちんとヤレってんだよ、きちんとよぉっ!」
「すまない。では、話を続ける」
ハキっと、すまないと言う言葉を言ったらすぐに、眼鏡を上げて前を見るその女。
「おいおいおいっ、ふざけてんなてめぇっ!」
「いや、ふざけてなどいないよ」
訳が分からないと言った顔をする、女傭兵。
「俺らはまだ、怒りを納めてねえぞっこらっ!」
「そうだそうだっ!」
3時間も待たされた傭兵達の頭には、完全に血が上り切っていた。
他の傭兵達もウンウンと、しっかりとうなずいている。
「ふむ。だが、お金は払えないね。これは仕事だから。待てと言われれば待つ、それが君たちの仕事だよ」
「あぁっ!? てめえほんとに舐めてんなっ! お前が失敗したんだろうがよっ。俺らにわびを入れろって言ってんだっ!」
「……僕が間違えていようと、払う報酬額の分は働くんだよ。何を馬鹿な、ふふっ」
正論だ。全くの正論。だが……。
「だがそれは、騎士団が言って真価が発揮される」
ジキムートが独り言ちる。
褐色の少女が言った言葉。
それは、騎士団が剣をちらつかせながら傭兵に向かって、『逃げるな』と命令するときに使うべき言葉である。
時と場合、そして身分を間違っている――が。
ジキムートには少し、気になる事があった。
「どうやらあの女、それを分かってるみたいだが」
笑う女傭兵に、ジキムートが目を這わせていく。
「ああんっ!? てめえ何様のつもりだよっ。俺らはてめぇの小間使いじゃねえっ。雇ったのはシャルドネだっ!」
「そうだっ。そもそも俺らは、お前に従う義理はねえんだぞっ! ふざけた事ぬかすんならお前なんぞ、いつだって殺せるんだぜ!?」
「『主人の主人は、主人ではない』。この意味を考えやがれよ、クソ野郎がっ!」
たくさん主人という言葉が並ぶが、傭兵の基礎知識である。
意味内容だが。
傭兵とは、金を直接払ってもらった人間――。
例えば、徳川家康の部下である、本多忠勝に雇われれば、本多忠勝本人に従う。
もし例え、目の前の徳川家康の命令を受けても、聞くことはほぼない。という意味である。
無茶に聞こえるが、案外そうでもないハズだ。
現代なら徳川家康を社長に、本多忠勝を副社長にすれば良い。
さすればドロドロの、骨肉の社内事情に置き換わる。
そのドロドロさは、中世にはぴったりのドロドロさと言えた。
だが……。
「ククッ、その主人の命令ですら危ないのに。何を偉そうに」
ノーティスが笑う。
ジキムートも笑っていた。
「ちょうど良い、お前脱げっ、それで俺たちに奉仕しろよっ!」
「そうだそうだ、さっさとヤッちまおうぜ……」
叫んでやっと、当初の目的にたどり着く男たち。
はじめから最後まで、これが狙いである。
「おらっ、へへ……。楽しませろよっ」
そう言って、女傭兵の鎧の上から強引に、胸を掴むちょび髭っ!
「ほら、騒ぐ……」
「良いぞ」
簡単にオッケーする、その女。
「……っ!?」
その言葉に室内の空気がガラッと変わったっ!
総立ち。
そう、総立ちだっ!
一気に前に詰め寄ろうと、男達の目の色が変わってしまうっ!
カッツカッツ。
「……。あぁ……。これはさすがに、不味いかも知れませんね」
ノーティスが髪留めを触り、険しい顔をしたっ!
「……まずいぞコレ」
ジキムートとノーティスが汗をかく。
彼らは別に、女傭兵がオッケーした事に、気を揉んでいるのではない。
カッツンツン。カッ。
足音だ、足音が聞こえるのだ。
「なんだこの……、嫌な足音は」
焦るジキムートの前で、その女傭兵はサッと、男たちに羽交い締めにされていた。
そして胸を揉みしだかれながら、スカートを下ろされかかっているっ!
すると……。
その女傭兵が笑う。
「ふふっ。ただその前に、僕の〝自称″持ち主の承諾を得られればな」
バタンっっ!
「よぉお前らっ。俺はヴィン・マイコンっ! イカしてスカしてぇ~、そんでもってまかした男だよぉっ!」
扉がきつく、大きく大きく開け放たれと同時、大声が響いたっ!
ガっ!
「うぅ……っ!? 苦しっ!? ちょっ、どけっ! 早くどけっ!」
何人かが扉に挟まれ、犠牲になっている。
とても苦しそうに脱出を試みて、もがいていた。
だが全く、その被害を気に留める者はいない。
なぜならその、突然入ってきた男が逆立ちし、全く逆をむきながら話をしているからだ。
「ん……。この反応。間違ったか」
そう言ってぺったぺったと手で、扉のほうへ戻りながら……。
キィ……バタンっ!
扉が閉まり、出ていった。
「次はコサックダンスをしながら……。いや、ここは奇抜に素っ裸でってのもありか? 裸がありなら脱ぎ捨てながら……。そうっ、それだっ!」
扉の向こうで、声が聞こえる。
そして――。
全員が嫌な予感がしたっ!
「待て、待てまてぇーっ!?」
必死にドア付近の奴が逃げようと、跳躍したその時っ!
バタンっ!
ガツっ!
「いってぇーーっ! うぅ」
コサックダンスをしなが……。
「いってぇっ! あぁーっ! あーーーっ。……あぁあああっ!」
可哀そうに、ちょうど角の部分で〝スネ″を打ったのだろう。
転げまわっている傭兵一人。
「俺が伝説の傭兵っ! ヴィン……」
ゴロゴロゴロ。
「俺……が」
「あぁ~。あぁっ! ・・つぅう。はぁはぁ。いてぇ……。いてぇえよぉっ!」
コサックダンスをよそに、全員が、その転げまわっている傭兵に注目を集めている。
全くその、キレッキレのダンスを見てないっ!
「あぁ……。いっつ、あぁ……。いてええ」
「……」
「あ~あ。すねちゃった」
すごく不機嫌そうな顔で、その――。
〝ワイルド″を絵にかいたような姿。
髭は適当に生え散らかし、ぼさぼさっと黒の髪の毛を立たせている。
適当そうな雰囲気だが、荒々しいイエローアイからは眼光を振りまき、狼のような殺気を放っていた。
図体もデカい。
190はあるだろう、恵まれた背格好。
装備は西部劇にでも出てきそうな、悪役ヒーローと言ったナリ。
印象的に『皮革』の茶色を思わせる、防具は皮だけ。
あとは良くても、下着にチェインアーマーがあるかどうか。その位だろう。
防御は貧弱だ。
珍しいのは、剣を二本もぶら下げている事くらいか。
それが転げまわっている傭兵を見て、面白くなさそうに、そそくさと会議室前方に歩いていく。
「あぁ~あ、クソがっ。何が、いてぇ~だよ。俺がせっかく、小一時間ほど考えたネタだったんだぞっ! 台無しにしやがってよぉ。たった一言に俺の一時間が……。えと、い・て・え。三文字か。たった三文字に負けただと……っ」
ぶつくさぶつくさ何かを言いながら歩くそれを、ジキムートとノーティスが険しい顔つきで、一挙手一投足を見張る。
「おいっレキ、失敗だ。今日はもう俺、仕事する気に……何やってんだ?」
「今から輪姦されようとしているんだよ。いや、強姦かな?」
「へぇ。じゃあ死ねっ」
シュパッ!
ビシャシャッ!
首に剣が刺さる。
女傭兵を羽交い締めにしていた、傭兵の首に、だ。
「……えっ。あ……っ」
血が飛び、誰もが唖然。
しかし……っ!
「ほれほれっ」
スパっスパっ。と首が斬り飛ばされていく。
殺意などない、怒りさえ感じない。
ただただ無表情で、ゴミを処理するその男、ヴィン・マイコンっ!
「おっ、おいっ!? いきなりなんだっ!? 待てよっ、待て待てっ!?」
いきなりの殺戮。
無表情の殺し。
それに動転し、慌てふためき立ち上がる、あの最初に息まいて突っかかったちょび髭っ!
そして……。
「悪かったよ、悪かったっ! そのこ……」
「……」
スパっ。
「ガっ」
膝を斬り、相手をひざまずかせると。
「そこに立ってたら首がハネられない……だろっ」
スパンっ!
ゴトッ。
ゴロゴロと転がる音が、部屋中に響く。
「ひっ、ひぃいっ!?」
転がった先の傭兵達が、腰を抜かして飛びのいたっ!
部屋は血まみれになり、ジキムートが左のマントでそれを避けている。
「おいアイツ。首を飛ばさずにうまい事、血管だけで殺してんな……。最後の以外は」
「ええ。お見事ですね」
2人はいまだ、ヴィン・マイコンが入ってきた瞬間から、今までずっと。
彼からひとときも、目を離さない。
いつでも逃げれるように、体は浮いていた。
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