第4話
第1軍団は既に軍事境界線へと出兵した。僕は又もや、旧王都に向かっている。
少々、僕を使いすぎじゃないですかねぇ。
「アーサー様。王都まであとすこしです。」
馬車の中にはボルトアクションの小銃М1以外に幾つかの擲弾がある。
僕の役目は、東ハルベルツ王位への即位宣言を西ハルベルツ王へ伝えるという事。
つまりは政治的な御為倒し。独立派の貴族共を叩き潰すまで協力しましょうねという契約を結びに行く営業が僕なのである。
「ありがとうフェレス。ウォルバート家の紋章を掲げて。」
「はっ!」
暫くすると王都の門が見える。既に出した書状で西ハルベルツ王ジギスムント陛下らが見える。
「東ハルベルツ王国伯爵アーサー。西ハルベルツ王ジギスムント陛下に書状を届けに来た。」
「アーサー、伯爵とは偉くなった物だな。」
「ジギスムント陛下、僕は他国の伯爵だ。」
「寄越せ。」
書状には相互に王位の承認。相互不可侵。独立派貴族に対する同盟を結び、戦後処理は独立派が有する領土のアルカンブルク、ベロンナ、タルヌフ、セロビオース、カルメンヌの五府の内、沃野であり、一大穀倉地帯のアルカンブルクと商業と鉱山の街ベロンナを我々が残りを西ハルベルツが分割する条約を締結。
「おい、領土は全て寄越せ。」
「巫山戯無いで頂きたい。近衛軍団をこちらに差し向けてもこちらとしては構わないのです。徴兵ならばまだ出来るのでね。バローネ伯も居ますし。」
バローネ伯爵はかつてのジギスムント派の雄。ジギスムント派が独立派貴族から得た勝利は全てバローネが得た物、僕みたいな人間からすればそこを突かない手は無い。
「僕としては組む相手は貴方々では無くても良いんですよ?独立派に独立を見返りに貴方々を攻めてもいい。単独では面倒だからと言う理由だけなのですよ。」
「……。」
「陛下はお疲れのようだ。私が代わりに交渉を行う。構わないな?」
「構いませんよ。オラニエンブルク公爵。」
踵を返したジギスムントに代わりジギスムントの岳父ジギスムント・フォン・オラニエンブルク公爵が現れる。
「全て飲もう。代わりに開戦は3年待って欲しい。武器の充足が足らない。特にミニエーライフルだ。弾薬を足りない。生産していないか?」
「数によりますよ。僕達も自軍への配備が必要ですから。」
実際は8連発のクリップ給弾のボルトアクション方式ライフルを使用しているのだけど。
「現在編制中の師団が3個、6万名分の装備だ。」
「3万名分のまでなら販売出来ますよ。弾薬も60万発分のまでなら。残りは貴国で用意してもらいたい。」
「感謝する。2年に縮められそうだ。済まない、個人的に茶会でも相手してくれないか?1体1で話が聞きたい。」
「勿論。」
案内された別の天幕に一対一で通される。対面の公爵は緊張の面持ち。
「ジギスムント陛下は現在ある種狂気に陥って居られる。この会談も実際は貴殿を殺す想定だった。」
密偵から聞いていた情報だ。だけど顔色1つ変えずそのまま返答する。
「成程。」
「私は真剣に危惧している。ジギスムント陛下が急に何の兆候もなく暴君への坂を転がり落ちていくように思えるのだ。心配なのは第一に私の娘だ。最悪の場合、保護して貰いたい。」
「ジギスムント公、僕達が動いた場合はこちらについて貰いたい。そうすればあなたの娘の命は僕が保証するよ。」
「…わかりました。お願いします」
ウォルバート家の麒麟児 佐々木悠 @Itsuki515
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