学園生活を楽しむ美少女ですが?

 篠沢凛にとって、勉強というものは決して苦手なものではなかった。

 学校の勉強は回りくどくて面倒だが、勉強を真面目にやっている限りは特にトラブルもなく学園生活を送れるからだ。


「ええと……それじゃあ、相園さん、この問題わかりますか?」

「わかりません、美少女ですが」

「あ、は、はい……そうですか……」


 なのでこの相園玲奈という少女の言動はあまりにも理解しがたいものであった。

 自信満々にわかりませんと答えるだけならいざ知らず何故そこに美少女を付け加えるのだろう。

 確かに美少女ではあるかもしれないが今はそれ全く関係ないだろう。


「え、ええとねえ……それじゃあ、どうしよう……」


 先生もものすごく困ってるし、これきっと私に回ってくるんだろうな、と凛は思った。


「そ、それじゃあ、篠沢さん、わかりますか?」

「……はあ」


 その予想は見事に当たり、凛に白羽の矢が立てられる。

 問題は難しいわけではなかったが、先ほどの美少女宣言の後で答えるのは何故か少々気恥ずかしい凛であった。


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 休み時間になると玲奈の周りにはたくさんのクラスメイト達が集まってわいわいと騒ぎ始める。

 転校生特有の質問責めというやつだ。

 凛はやれやれと思いながらもその会話に少しだけ聞き耳を立てる。

 玲奈が周りの質問にどのように返答するのか、ちょっとした興味であった。


「玲奈さん、前はどんな学校にいたの?」

「美少女がいた学校ということに間違いはないですね」


 いやどういう答えだよ、と凛は心の中でツッコミを入れる。


「どんな風に生活していたらそんな風になれるの?」

「美少女らしくあろうと日々努力しています」

「もっと具体的に!」

「…………」


 玲奈の沈黙を周りは固唾をのんで見守った。

 凛もなんとなく、少しだけ、ほんの少しだけ気になり、ごくりと生唾を飲んだ。

 玲奈は悩むその姿すら、さらりと流れる黒髪の隙間から憂いを帯びた瞳をちらりと覗かせる、そんな美少女であった。

 やがて、玲奈は少しだけ頷いて囁くように呟いた。


「……わかりません、美少女ですが」


 凛は盛大にずっこけた。


「いつか、わかった時には皆さんにお教えします、美少女として」


 とにかく、美少女ということだけは譲る気は全くないということはよくわかった。

 しかし……こんな感じで本当に彼女は学校生活をやっていけるのだろうか、と凛は少しだけ考える。

 変に目立つ上に毎回美少女を強調しているようでは周りから敬遠されてしまうのでは?

 凛は何故か、そう少しだけ心配をしてしまっていた。


「よろしくお願いね玲奈さん!」

「すごい楽しみー!」

「こんな美少女とクラスメイトなんて明日から楽しくなりそうー!」


 ところが凛が想像していたよりもずっと玲奈はクラスメイトからの受けがよかった。

 凛は拍子抜けするとともに何故自分がこんないらない心配をしてしまったのかとため息をつく。


「ありがとうございます。皆さんのような優しいクラスメイトと巡り合えて私は幸せ者ですね」

「……こういう時は、言わないんだ」

「幸せ者なうえ……しかも美少女ですね」

「いややっぱり言うんかい」


 そう凛が思わずツッコむと、玲奈は凛の方を見てほんの少しだけ口角を上げた。

 それは彼女なりに微笑んでいるということでよいのだろう。

 玲奈はそのまま優雅な美少女歩きで数人のクラスメイトを引き連れ教室を出て廊下へと歩いて行ってしまった。


「……え、もしかしてツッコミ待ちとかもするの?違いわかんないんだけど?」


 取り残された凛はただひとり、ぐったりと机に突っ伏したのであった。

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