暴風竜
「はあっ!」
気合と共に剣を振り下ろし、一体目の首を斬り落とす。そのまま体を捻り、右側から突激してきた二体目を横に薙ぐ。分断されたその後ろから三体目がブレスを吐こうとするのが見えた。
「グレン!」
「はいよっ!」
避けきれないと判断した俺はグレンに声を掛ける。意図をくみ取ったグレンは自分が相手していたワイバーンを切り伏せると左手をこちらに向け一言。
「〝ファイア〟っ!」
同時に手のひらにこぶし大ほどの炎球が生み出され、まっすぐにブレスを吐こうとするワイバーンへと飛んでいく。
『グルァアア!』
危険を察知したワイバーンはブレス攻撃を中断し咄嗟に身を捻るが、僅かによけきれずその翼に引火する。火を消そうと必死にもがくが、その時には既に俺の攻撃圏内だ。
「今楽にしてやるよ」
そう呟くと同時に緑光に包まれた剣を一閃。鋭さの増した剣は抵抗を受けることなく鱗を斬り裂き、その命を散らせた。
「...ふぅ」
残心を解いて深呼吸をひとつ。辺りを見回すと、あんなに多かったフラップリザード、そしてワイバーンの数は激減していて、残りは何とかなりそうなほどまでになっていた。
「問題はあいつか...」
俺はそう呟くと前方へと目を向ける。そこには、今回の群れの親玉、元凶であるBランク指定、ゲイルドラゴンが悠然と佇んでいた。
「号令に合わせろ! さん、にー、いち!」
「発射!!」
その声と共に放たれる矢、大砲、そして魔法。それらは一直線にドラゴンへと向かっていく。しかし。
『グルゥゥゥァァァ!』
奴が方向を挙げると同時に風が吹き荒れ、矢は飛ばされ、大砲の弾は横に逸れ、魔法はかき消された。
「クソッ! 流石はBランクってか!」
「毒吐いてる暇なんてねぇぞ! やつを引きずり降ろさなけりゃろくに攻撃もできねぇんだからな!」
そんな声が空気を伝って聞こえてくる。
「こりゃ骨が折れるなぁ...」
近付いてきたジャンがそう呟く。俺は頷きを返し、どうしたもんかと頭を回転させる。
「悩む前に何かしらやってみりゃ良いんじゃねぇの?」
そう言ったのはグレンだ。
「だけどなぁ。初心者があの輪に乗り込んでもいいのかどうか...」
「なぁに悩んでんだあんちゃん!」
俺の気持ちをぶち壊すようにジャンがそう言って俺の髪をわしゃわしゃかき乱す。
「戦いにおいて、上も下もねぇよ。強ぇ奴が上に立つ。鉄則だぞ」
ジャンはそう言うと剣先を真っ直ぐにゲイルドラゴンへと向けて叫ぶ。
「あいつをぶっ潰すんだろ!?」
「...あぁ!」
「だったら迷うな。時間が持った居ねぇだろうが!」
ジャンはそう言ってゲイルドラゴンへと駆け出す。脳筋とも言い切れないその行動に思わず苦笑いが零れる。
「グレン」
「ん?」
「やるぞ」
「...おうよ!」
俺の僅かな変化に気が付いたのか、グレンがニヤリと笑いながらそう答える。俺は腰を低くすると、足の裏に集中し、いつもと同じく元素の一つ、風素を収束させる。
「試したことはないけど...何事も挑戦だっ」
操作可能量の限界値に来たことを確認すると、俺はまっすぐゲイルドラゴンを見据える。
「お前を叩き落としてやる」
そう呟くと同時に、俺は風素を解放した。
「バースト!」
ドンッッ!! と、砂埃を立てながら飛び上がった俺の体はみるみる上がっていき、ゲイルドラゴンを抜き去って上を取る。
「空を飛ぶことがお前の特権だと思うなよ!」
叫ぶと同時に今度は剣に集めた風素を一身に振り下ろす。
「らあああああ!」
風の刃はまっすぐ降下するとゲイルドラゴンの左翼をバッサリ斬り落とした。翼の根元から鮮血が飛び散る。
『ガアアアア!!』
ゲイルドラゴンは叫び声をあげながら左側に傾くと、そのまま墜ちていく。そして、地面と激突して地響きをあげると、地上の戦士たちが歓声を上げ、一斉にゲイルドラゴンへと向かっていく。
俺はその後方に危なげなく着地すると、一緒に突撃しようと一歩を踏み出す。しかし、その瞬間に起こった出来事に足を止められた。
『グラァァァァ!』
「な、なんだっ!」
「やべぇ、こいつは...っ!」
「に、逃げろぉ!」
危険を感じ取った彼らが咄嗟に背を向けて戻ろうとする。しかし、もう遅い。
『ガアアアア!!』
『グルゥゥゥ...』
ゲイルドラゴンの眼は怒りに染まり、その顎は獰猛な笑みを形作る。これこそがゲイルドラゴンをBランクとする由縁。〝暴風竜〟の二つ名を持つ風の支配者の見参である。
「クソ...っ」
「体がッ、動かねぇ...!」
辺りには攻撃をもろに喰らって呻き声を上げる屈強な戦士たちが転がっている。その悲惨な光景を見て足が小刻みに震えだす。
これが...Bランク。
「おらあああ!」
ジャンが一直線にゲイルドラゴンへと突撃する。ゲイルドラゴンは風素を槍状に加工して飛ばすが、ジャンは構わず足を動かす。風槍ともいうべき凶器が迫るが、
「――せよ。〝
早口に詠唱をしたクルスが左手を掲げると、彼の後方に出現した五本の光で出来た槍が飛ぶ。それは風槍とぶつかり、見事に相殺する。
「先輩!」
「任せろ!」
阿吽の呼吸でゲイルドラゴンに向かう二人。しかし現実はそう甘くない。
「このクソドラゴンがぁ!」
『ルァァアア!』
「なっ!」
死角に回り、飛び上がって剣を振り上げたジャンだったが、お見通しだとでもいうように目を向けたゲイルドラゴンは、驚くジャンに向かってブレス攻撃を浴びせる。
「先輩っ!」
はるか後方へと吹き飛ばされるジャンの方へと目を向けてしまったクルスを見逃すはずもなく、ゲイルドラゴンは尻尾を振り抜く。
「がッ...はぁッ!」
空気と共に血を吐くクルスもまた勢いよく飛ばされ、ジャンの傍へと着弾した。
「っ...クソ、が...」
「がふっ...」
一瞬にして重傷を負わされたジャンとクルス。その光景に恐怖が沸き上がり、体を蝕む。俺がそうしている間にもゲイルドラゴンが少しずつにじり寄っていく。俺はそれを、ただ見ていることしかできない...
と、そんな俺の視界が突然何かと重なり合った。
立ち尽くす俺。眼前には蹲る者とにじり寄るゲイルドラゴン。その二人はどこか見覚えのある者達だった。
とうとうゲイルドラゴンがその顎を開く。重傷を負う赤い髪の少年を守るように透き通る蒼い髪を持つ少女が両手を広げる。
少女が喰われる、その瞬間。
俺の頭に、声が響いた。
――後悔したくないのなら、一歩を踏み出せ!
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