不穏な空気
「どうしてそうなるのよ...」
「ははっ、まぁいいじゃねぇかよ。俺らにとっちゃなんでもねぇだろ」
「そうだろうけど...」
ソフィアが再び重い溜息を吐く。その姿に苦笑しながら、俺は依頼内容を反芻する。
俺が選んだのは、三つ全てだった。悩んでるうちに全部行ってもなんとかなるんじゃ...という事に気が付いたからだ。
「全部って...まったくもう」
「まぁまぁソフィアさんや。ここは一つ、諦めることも肝心だぜ?」
「グレン、アンタちょっと黙りなさい」
「あぶっ! おい、急に水ぶっ掛けんな!」
ソフィアとグレンの掛け合いをBGMにしながら歩いていたその時。
「...止まれ」
俺の声に反応しすぐに厳戒態勢に入る二人。
「ウォロ」
「あぁ。まずは一つ目だ」
グレンとそう声を掛け合う俺の眼には、こちらに突撃してくるウィンドウルフの群れが映っていた。数はざっと数えて20体ほど。俺達なら余裕で捌ける数だ。
「グレンっ!」
「〝ファイア〟!」
俺がグレンに声を掛けると同時に、彼の手からこぶし大ほどの炎球が生み出され、まっすぐウィンドウルフの群れへと向かっていく。
「爆ぜろッ!!」
グレンがそう叫ぶと同時に凝縮されていた火の粉が四散し、ウィンドウルフの体へと燃え移った。
辺りに燃え広がりそうなものが無いため、二次被害は考えなくて済む。火柱を上げ叫ぶウィンドウルフの群れに、俺とグレンは剣を手に突撃していく。俺達を迎え撃つように、炎の壁から生き残ったウィンドウルフが飛び出してくる。
「いくぞっ!」
「おう!」
気合を入れ、俺は神経を集中させる。同時に、いつもの気配が集まりだし、俺の剣に力を与える。
チャージしている間にもウィンドウルフが攻撃を仕掛けてくるが、ステップで回避する。
そして、俺がチャージを終えるのと、しびれを切らしたウィンドウルフ達が一斉に飛び掛かって来るタイミングが同時になり、ウィンドウルフ達の末路が決定した。
「おらぁ!」
気合と共に横に薙いだ剣から風の刃が飛び出し、ウィンドウルフ達の体が分断される。そして、その死骸は同時に生みだされた爆風によって空高くへと舞い上がり、どこかへと消えていく。
「おいおい。吹っ飛ばしてどうすんだ...」
解放感を味わっていると、後ろからそんな声が聞こえる。振り返ると、まる焦げになったウィンドウルフにとどめを刺しながら呆れた視線を送ってくるグレンの姿があった。
「いや、つい勢いで」
「いや、じゃねぇよ」
「あんた達ねぇ...」
俺とグレンの掛け合いにソフィアがため息を吐く。もはや見慣れた反応だなこれ。
「まぁ、とにかく依頼一つ目は完了ってことだな」
「そうだな。よし、そんじゃせっかくだし素材剥ぐか」
「剥ぐか」
そう言って俺とグレンは短剣片手にそう呟く。ソフィアはもはや反応を返す気にもならなかったらしく、俺達が作業を終えるまで薬草採取に勤しんでいた。
俺達はその後、洞窟に入ってミネラルスネーク、森でホーンラビットを狩りまくった。その結果、
初
「...なんか殺伐としてやがるな」
「そうね。何かあったのかしら」
「ひとまず聞いてみよう」
俺達はいつもより険しい顔をした冒険者たちの間を委縮しながら通り過ぎ、受付カウンターへと近づく。ギルド職員もせわしなく動く中、リズさんがアリサさんと話しているところを見つけた。
「リズさん、アリサさん」
「ウォロ君おかえり。どうだった?」
「はい。上首尾です...それより、どうかしたんですか?」
俺がそう尋ねると、リズさんはアリサさんと視線を交わした後、言い出しにくそうに口を開く。
「実はね。この街に竜の群れが向かってきているそうなのよ」
「「竜?」」
グレンととソフィアの声が重なる。リズさんは一つ頷くと、《ファーリエンス王国》とその周辺が記された地図を取り出しながら言った。
「ここが〈アルバン〉よ。北西の方向に王都が、南に《ヘリツィア王国》があるのがわかるわね?」
《ヘリツィア王国》は、《ファーリエンス王国》の南に位置する王国で、交流が深い国だ。大きな港町を持っているため、物流の中心となっている。
「そして、今回問題なのは二国の西側に広がる〈エレズナ大峡谷〉よ」
そういってリズさんは地図にピンを突き刺す。
「〈エレズナ大峡谷〉...〝超えられぬ壁〟とも称される、険しく隆起した大地とその結果地中深くまで陥没した谷で形成される、巨大な峡谷ね」
ソフィアがそう呟くのを聞いて、俺は昔本で読んだことを少し思い出した。なんでも、その峡谷の地底には〖魔界〗へと続く門があり、そこから凶暴な魔物が這い出てくるとか来ないとか...
「ええ。その認識で合っているわ。今回こちらに向かっている竜たちは、そこから来たものだという可能性が一番高いの。数体程度ならよくあることなんだけれど...」
「流石にざっと見で50体は前代未聞ね。そもそも、そんな量の竜があそこにいたなんてことがまず考えられないけれどね」
アリサさんがそう締めくくる。
「ご、50体って...」
「流石に多いわねそれ」
「...この街に居る冒険者たちでどうにかなるんですか?」
俺の質問に、リズさんは難しい顔をする。
「一応〈アルバン〉を統治するレイダー伯爵と国に応援要請は出したけど...少なくとも2時間はこちらで対応することになるわね」
「でも、ここには腕のいい戦士が結構いるから、そこまで神経質になる必要もないと思うわよ? いざとなれば、私達も出ればいいんだしね」
アリサさんがそう言って力こぶを作る。そう言えば、そもそもの話ギルドの職員になるには冒険者Bランク以上でないといけないんだったか。
すると、遠くから鐘の鳴る音が聞こえてきた。
「おっと。来たようね」
「ウォロ君、グレン君、ソフィアちゃん。自分の身を最優先にね? あなた達は一応、初心者パーティなんだから」
「もちろんです」
「分かってらぁ!」
「はい」
俺達はリズさんにそう返すと、一斉に外へ飛び出す先輩冒険者たちの後を追いかけ外へと飛び出した。
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