冒険者登録

 ソフィアが仲間になって更に歩くこと数時間。俺達はとうとう、目的地である〈アルバン〉にたどり着いた。


 壁門で特にトラブルが起こることもなく街へと入った俺達は、その光景に言葉を失った。


「で、でけぇ...!」

「人がいっぱい居るわね。流石商業都市として栄えているだけのことはあるわ」

「ここが...アルバン」


 幅の広い石畳の道を馬車がひっきりなしに通っている。その両脇には食べ物や服、武器、更にはペットまで、本当に様々な物を売る店が隙間なく建っていた。


 そして、一番圧倒されるのは、この広い敷地を埋め尽くすほどの人、人、人。あまりの多さに少し頭がくらくらしてしまうほど、その熱気はすさまじかった。


「ウォロ、最初にギルドに行くんでしょ?」

「ああ。さて、ギルドは...」

「おっ、あれじゃねぇか?」


 グレンが指差した先にあるのは、街の中心付近にある大きな広場、その中央に位置する巨大な石造りの建物だ。近付いていくほど、その大きさと佇まいに圧倒されていく。


「これが、冒険者ギルド...」

「やっとたどり着いた、ってことね」

「はっ、興奮してきたじゃねぇか」


 冒険者ギルド、アルバン支部。冒険者を夢見る少年少女達が集う場所であり、夢の始まりでもあるこの場所に、俺達は一歩を踏み出す。


「さぁ、行こう」


 俺は二人にそう声を掛けると、大きな木製のドアに手を掛け、ゆっくりと開けた。




 目に飛び込んできた光景は、俺達のあこがれそのものだった。真上には大きなシャンデリア。左右には様々な種類の依頼クエストを記した羊皮紙が張られた巨大な掲示板、そして目の前には受付カウンターがある。


 何より目を引くのが、この建物の中にいる冒険者たちだ。鎧兜を着た戦士、魔法衣を纏った魔術師、屈強な男、華奢な女。種族もヒューマン、エルフ、ドワーフ、ケットシーなどなど。まさに〝冒険者〟を具現化した場所がそこには広がっていた。


「なんだァ? あのガキたちは」

「新入りだろう。ちょっかい掛けるなよ?」

「わぁってるって」


「これはまた可愛いコ達が来たわねぇ」

「...味見しちゃう?」

「やめておきなさい。嫌われるわよ?」


 四方八方から俺達のことを話す声が聞こえてくる。中には背筋がひんやりする物もあるが、際立って目の敵にされた様子はない。


「あ、圧倒されるわね...」

「そんなもんだろ、冒険者ってのは」


 肌をさするソフィアとは対照的に、グレンはどこ吹く風だ。相変わらずの胆力で少し羨ましい。


 三者三様の反応をしながら、俺達は受付カウンターへと歩いて行く。すると、何やら作業していた受付嬢が俺達に気が付いて顔をパッと挙げた。


「こんにちは」

「こんにちは。本日は良くいらっしゃいましたね。ご用件は何でしょうか」


 綺麗な人だ。栗色のショートヘアにすらっとした体。そして特徴的なのは、耳についている翡翠色の宝石が付いたイヤリング。


 と、そんなことを思いながら俺は口を開く。


「冒険者の登録に来ました」




 俺達の応対してくれた人は、リズベット・ローランと名乗った。元冒険者だという彼女は、俺たちを二階の応接室へと案内してくれた。


 出された水を飲みホッと一息ついたところを見計らって、リズさんは口を開く。


「改めて、ウォロさんたちの応対をさせていただく、リズベット・ローランと申します。宜しくね」

「ウォロ・カルゴンです。今日はよろしくお願いします」

「グレン・アルベスだ。宜しく頼むぜ!」

「ソフィア・カーレンと言います。よろしくお願いします」


 それぞれが改めて自己紹介を済ませると、リズさんは早速ギルドの説明に入った。要約するとこうだ。


 本部があるのは《ファーリエンス王国》の北東にある《マルクール共和国》の首都、〈マレジオン〉。そして、各国の王都、もしくは首都に〝中央支部〟が、大きな街や都市に〝都市支部〟、そして各町村に〝出張所〟がある。ここ、アルバン支部は〝都市支部〟に該当する。


 冒険者には全部でS・A+・A・B+・B・C・D・Eの全八つのランクがある。ランクを上げるには指定されたノルマを達成後、試験を受けて合格する必要がある。Cランクまでは都市支部で、Aランクまでは中央支部、そしてその上は本部で、それぞれ試験を受けることが出来る。


ただし、A+ランク、Sランクへの昇段試験を受けるためには、推薦状が必要となるらしく、それがまた大きな功績を残さなければ得られないため、A+ランクはまだしも、Sランクの人物は今現在4人しかいないという。彼らは〝四天王〟と呼ばれ、尊敬を集めているらしい。


「ウォロ君、グレン君、ソフィアさんは皆初めてという事で、最低ランクのEからだけれど、異論はあるかしら」

「ないです」


 代表して俺がそう言うと、リズさんは一つ頷いて用紙を渡してきた。


「それじゃあこの紙に必要事項を記入してちょうだい」


 その言葉を合図に、俺達は一斉に記入し始めた。氏名、年齢、役職、出身地などなど。それらを書き終えると、リズさんは紙を別の役員に渡した。


「これで登録自体は終わりよ。今出て行った彼女が情報を冒険者カードに登録して、皆に返すことで正式に冒険者として活動できるようになるわ。そのカードが身分証明にもなるから、大事に保管してね? もし紛失した場合は、本部か中央支部に来てちょうだい。識別番号と暗号を覚えていれば、再発行が可能だから」

「分かりました」


 そうした説明が終わると、いつの間にか世間話へと内容は移り変わっていった。その大部分を占めてたのは、リズさんの冒険者時代の話。父さんや本で知った話とはまた別のリアルなその話に、俺達は皆興味津々だった。


 こうして盛り上がっていた俺達がハッと我に返ったのは、応接室の扉を叩く音だった。


「おっと。どうやらカードが出来たようね。エントランスへ下りましょうか」


 リズさんのその言葉で、俺達は再びエントランスへと舞い戻ってきた。


「これが発行した冒険者カードよ。さっきも言ったけれど、無くさないように気を付けなさいね?」

「気を付けます」


 リズさんから冒険者カードを受け取る。初めての冒険者カードに俺達は徐々に喜びが込み上げてくる。


「それじゃ、今日はもう遅いから、明日また来なさい。良さげな依頼クエスト、見繕っておくから」

「ありがとうございます!」


 俺達は返事もそこそこにアルバン支部の建物を後にする。そこまでが限界だった。


「俺達は、冒険者になったぞー!」

「よっしゃあ!」

「やったぁ!!」


 三人で喜びを叫ぶ。周りを歩いていた人たちが温かく見守る中、俺達は茜に染まる空の下で、笑顔を咲き誇らせた。


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氏名:ウォロ・カルゴン 年齢:17歳

種族:ヒューマン    役職:軽戦士

冒険者ランク:E


依頼(クエスト)達成件数:0件


識別番号:0003 2393 5361

暗号キー:********

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