一人目
「力試しだ」
俺はそう言うと腰を深く沈めて力をためる。そして一気に地面を蹴ると、砂埃を立てながら疾走し始めた。
「グレン! 屈めぇっ!」
そう叫ぶと、俺の意図が伝わったのか、グレンが身をかがめる。俺はその背中に足を乗せると、走ってきたそのスピードをそのままに空へと舞い上がった。
「集中っ...!」
そう口に出し、剣を両手で握る。感覚を後半に広げると、もはや慣れた気配が剣に収束していくことを感じた。その事を示すかのように剣は少しずつ淡い翠の光を帯び始め、軽い風が辺りを吹き始める。
『グウウゥゥゥゥ...』
異変を感じたのか、魔物が俺へと視線を向ける。困惑の色を浮かべる濁った眼を通して、俺は言い放った。
「おらぁぁぁあああ!!」
そして、一思いに剣を振るう。剣から放たれた風の刃は空気を斬り裂きながら魔物へと一直線に落ちていき、その首を両断した。
『ガァァァッ――』
バンカーレックスの首はそのままずるっと胴体から離れると、地響きを鳴らしながら地面へと落ちた。辺りに舞う砂埃。その中に落ちて言った俺は、バンカーレックスの胴体の上へと無事に着地する。その余波で風が起き、視界が一瞬にして払われる。
「ふぅ...」
何とか討伐できたことに安心し、思わず息を吐き出す俺の下に歩み寄ってくる人影が二つ。
「流石ウォロ。よくその首を切り落としたなぁ」
「グレン。踏み台にして悪かったな」
「大丈夫だ。気にすんなって」
一人はグレンだ。そして、その横にいるのは、透き通る空色の長髪をした同い年くらいの女性。さっき助けた人だろう。
「助けていただいてありがとうございます。お怪我はありませんか?」
「大丈夫です。あなたも無事で何より...ッ」
にこやかにそう返したが、右足首に痛みが走る。どうやら着地した際に少し捻ったようだ。何せ魔物の死体の上だ。仕方がない。
「足を挫いているではないですかっ」
「大丈夫ですよ。お構いなく」
「そういうわけにもいきませんよ!」
彼女はそう言うと俺の下に駆け寄ると屈みこみ、俺の足首に手を当てる。
「〝
その一言で彼女の掌に光が集まり、俺の足首をみるみると癒していく。幻想的な光景に目を奪われそうになるが、そんな事よりも気になることが一つ。
「グレン。今のって...」
「詠唱破棄...確か魔法名だけで発動できるスキルだったか」
スキル〔詠唱破棄〕は、グレンの言った通り魔法名を唱えるだけで魔法の発動を可能とする能力だ。これを会得しているだけで魔法を介した戦いが飛躍的に有利になる。ただ、会得にはかなりの修行を有し、少なくとも同い年くらいの少女が持っていることは常識的に考えてあり得ない。
そんな疑問に思考を巡らせていると、治療が終わったのか彼女が俺の足首から手を放す。軽く飛び跳ねてみると、先程のような痛みは襲ってこない。どうやら完治したようだ。
「治ったみたいだ。ありがとう」
「いえいえ。助けてもらったささやかなお礼ですよ」
そう言って少女がはにかんだ。その笑顔が華憐で、思わず呆けてしまった。
〇 〇 〇
魔物の死骸から記念として牙をへし折った後、俺達は連れ立って再び〈アルバン〉へと向かっていた。
先程出会った少女はソフィア・カーレンと名乗った。話を聞いてみると丁度俺やグレンと同じ17歳で、彼女も冒険者になる為に〈アルバン〉へと向かっていたようだった。その事を伝えると、彼女は安心したように笑った。
それはさておき。問題は〔詠唱破棄〕のスキルを持っているかどうかだ。その事を聞くと、ソフィアの顔に陰りが生じた。流石に聞いてはいけなかったかと後悔していると、彼女はぽつりぽつりと語り始めた。
「私の家系は代々特殊なの。何故かはわからないけど、回復魔法の効果が上がる代わりに攻撃魔法の威力が著しく下がる。だから誰かが一緒じゃないと外を出歩くこともままならないの。魔術師なのに、よ?」
彼女は続ける。
「私が冒険者になるって決めたのには理由があるの。私のお母さんも元冒険者だったのよ」
話を要約すると、どうやら魔術師のくせして攻撃魔法が使えないと馬鹿にされ続けたソフィアの母の屈辱を晴らし、こんな自分たちでも通用するという事を示したかったらしい。
「でも、1人じゃやっぱり無理だったみたい。現実、こうやってウォロ達に助けられているし...」
実際には攻撃系統の魔法が全く使えないわけではないようだ。実際、ソフィアは俺達がたどり着く前に木を魔法で斬り倒していた。しかし、魔術師の魔法としては明らかに劣るものだという。使える属性は水のみ。それも初級魔法数個が限界だとか。
「私には、やっぱ無理だったのかなぁ...って思ったりね」
寂しげに笑う彼女の顔を見た俺は、思わず言い放っていた。
「そんじゃ、俺らと一緒に旅をしないか?」
「えっ...?」
「俺とグレンがいれば、ソフィアが前に出ることはない。俺達も回復魔法の使える魔術師が欲しいってはなしをしてたし」
「ああ。その点で言えば、ソフィアはもったいねぇくらいだな」
俺とグレンの言葉を理解するうちに、ソフィアの顔に明るさが戻っていく。
「私が一緒にいてもいいの? 足手まといになるかもしれないわよ?」
「そうならないように俺達ががんばりゃいいんだよ」
「むしろ俺達の方からお願いしたい。ぜひ俺達のパーティーに入ってくれ!」
二人してそう言うと、ソフィアは少し俯いた後、その顔をパッと咲かせていった。
「これからよろしくね、ウォロ、グレン!」
こうして、非公式ながら俺達はパーティーになったのだった。
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