とある三文画家の憂鬱
阿部善
1940年、ロンドン
私は小さなカフェーで、パンと牛乳、フライドポテトという実に
「何の絵を
私は絵のアイデアが
そんな時、ラジオのニュースが耳に入った。
「オリンピック……。この
思わずドイツ語で声を上げてしまった。
東京オリンピックで、日本の選手が表彰……。いや、ちょっと待て、そんなのは
では、何を描けば良い? 考えて、考えて、考え続けては
私は
何か題材は無いか、そう思って今度は
国会社会主義ドイツ労働者党、反ユダヤ主義や国家主義を掲げ、一時期は世界
彼等が
もしかしたら、私ならば、あの党を
ドイツは今やあの男が全てを
「おお、見付けましたぞ、そこのあなた」
「
私はその男に問う。
「そう言われても、
男は
「そう言うなら、名前くらい
「失礼しました。では改めて。私はフリッツ・オッペンハイマーと
何でそんなことまで知っているのか、
だが、それよりもこの男の名前……。オッペンハイマーというのがどうも
「貴様はユダヤ人か?」
「はい。しかし祖父の代にプロテスタントに
「そう言う問題では無い。
私が身振り手振りで高まる感情を伝え、この男を追い払おうとするも、一向に引かないばかりか、感心するような素振りを見せる始末。一体何なんだ、この男は。
「実に素晴らしい。あなたの
さっきから何だ、このユダ公は!
この男は
「ドイツの人々に対して、ラジオで共産党政権への
こんな甘い呼びかけをされたって、乗らないわ、このユダ公め!
カネ?
「ユダヤ人のくせに恥ずかしげもなく『ドイツ人』協会などを名乗りやがって。貴様は何様なのか? ドイツ人に成り済ますだけでなく、ドイツ人の代表のような
その男が立ち去るまでもなく、私は書店から逃げ出した。バスを乗り継いで、
「これぞ、これぞ我が最高
そう
「いつまで借金
大声の英語が聞こえてくる。
こいつは借金取りだ。
「ヒトラーさん、早く家賃払ってください。家賃を滞納した
私の頭は、この場をどうやり過ごすか、そのことで一杯になっていた。
とある三文画家の憂鬱 阿部善 @Zen_ABE
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