Ep.88 女の戦闘
ガイアが私の裁縫箱につけていた鍵には見覚えがある。ゲームのガイアのシナリオ、そのハッピーエンドルートで必ず出てきた、文字通りの
ただ、この鍵にはゲームには無かった桜模様が刻まれている。だからこれは、この一年の思い出がある今のガイアにしか作れないものだ。
「セレンちゃん!それは……!」
合流地点にやって来たるー君が、私の手にある黒い魔石と白の竜玉に目を見開く。ガイアと同じ騎士団の出世株の一人なだけあって、彼もこれの重要性と秘匿性を何かしら知ってるんだろう。
鍵を開いた先の空間にあったのは、以前ガイアが破壊した黒の竜玉の核となる魔石。5つの竜玉と国を護る結界の関係性を示した図解。それから、残りの3色。赤、青、黄の竜玉を王家から預けられている貴族の家名と屋敷内の見取り図だった。
私がたくさんのヒントを得てようやく辿り着いた答えに、ガイアはもっとずっと早く到着していたのだ。
❨私に話さずに居たのは、負担をかけまいとしてくれてたんだよね……❩
同封されていた手紙には、国家さえ揺るがしかねないこの事態に私を巻き込んで良いのかと言うガイアの葛藤と、それでも、これからも一緒に未来を見たいと言う本心。それから……。
『全てのしがらみを断ち切る事が出来たなら、君に直接伝えたい想いがある』
そう締め括られていた。
(これって、少しは期待しても良いのかな)
そっと手紙の文面をなぞる私を見てるー君が肩を竦める。
「はーっ、あいつもいっっっがいとキザだよな!セレンちゃんもそんな切ない顔しなくたって心配要らないでしょ。あいつは君の事が……っ!」
言いかけたその言葉を、唇に人差し指を当てて止める。
「いいの、その答えはガイアの口からちゃんと聞きたいから」
「……あっそ。それじゃ、これからどうするの?」
何とも言えない表情の真ん前に、他の竜玉を持つ貴族の資料を突き付ける。三家とも見事にナターリエ様親衛隊の実家だった。
「ガイアとお父様のお陰で何故キャンベル公爵が国立魔術研究所の見取り図を持っていたかがわかったわ。それに、その情報を他国に売ろうとしていた理由もね。だからキャンベル公爵とナターリエ様を裁く前に、大切な物は安全地帯に避難させなくちゃ」
『貴方なら、潜入の手がかりもあるんじゃない?』と問えば、るー君は女って恐えなとわざとらしく肩を竦めた。
「……青を持ってる所は宰相ノ屋敷だからガード堅いけど、赤と黃の竜玉の屋敷はどっちも脳筋だからね。忍び込むのは訳ないと思うよ」
「具体的にはどうするの?」
「昔から決まってるでしょ。筋肉で物を考えてる馬鹿な男は美女に弱いの。やり方教わりに行くよ、君に出来るかはわからないけど」
そう鼻を鳴らしたるー君に連れて行かれた先は、王都の有力貴族ですら通えば破産するとさえ言われる程に有名な豪華絢爛な娼館だった。
「……行きつけですか?」
「ち・が・う・か・ら!!情報収集の関係で面識あんの!」
「冗談です。それで、協力者の方はどちらに?」
「あからさまな敬語で開いた心の距離が辛い!!!」
そう嘆くるー君の手で丁寧にノックされた扉が内側から勢いよく開く。飛び出してきたのは、これまた綺羅びやかにお美しい三人のお姉様だった。
「きゃーっ、るーじゃないお久〜っ。あらヤダ、この子が黒の騎士様の姫君ね。純情そうで可愛いわぁ〜っ!!」
「まぁまぁまぁ、本当に可愛らしい。穢れが無いから私達好みに染め……じゃない。色々と美しく開花出来る素質がありそうですわね」
「どれ、近くで顔を見してご覧?なるほど、この
「は、はわわわわわわ……!」
突然三人の美女に囲まれパニックになる私。
上から、天真爛漫そうな金髪美少女のカリーナ様。泣きぼくろが色っぽく切れ長な目が聡明さを伺わせる知的美人のクリスティア様。スレンダーな体つきに端正で凛々しくも華を感じるお顔立ちで、所作もお声も洗練されたまるで某歌劇団の麗人のようなエリザベート様。
このお三方がこの館で常にトップを張る女帝であり、るー君の協力者なのだそうだ。
「あ、あの、夜分に唐突なご訪問をお許し下さい。私はっ……」
「はいはい、話は聞いてるわよ〜。ってわけで調べた感じ、急いだ方が良いかもね。キャンベル公爵家が先手を打って、他の3家に『陛下はもう長くないから』と彼等が持つ国宝を自分に預けるように唆し始めてるわよ」
「…っ!渡しては駄目です!竜玉を壊されてしまいます!!」
「わかってるわよ、だからここに来たんでしょ?」
綺羅びやな美貌を惜しげもなく振りまいて、三人の美女が微笑みを浮かべる。まるで絵画みたいだ。
「古来より、殿方への高価な物のおねだりは美女の十八番ですわ」
「その通り。向こうの邪魔立てをすることはない。ただ、彼等が自ら私達に宝を差し出したくなるようにしてあげれば良い」
「そういう事!良いこと、純粋な仔猫ちゃん。女には女のやり方ってもんがあるのよ」
〜Ep.88 女の
『私達のもとに来たからには、ソレをみっちり教えてア・ゲ・ルv』
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