Ep.89 発想の転換

「「「うーん………、色気センスが無いわねぇ/ですね/ようだね」」」


「すみませんすみません、何かもう本当にすみません…………!」


 『意中の彼にも使えるわよ?』と乗せられて『女の戦闘やり方』……いわゆる色仕掛の手練手管を一晩みっちり教えて貰ったものの、セレスティア・スチュアート、見事に撃沈でございます。

 百戦錬磨のお姉様方に揃って溜息をつかせてしまった居たたまれなさで部屋の隅っこに縮こまる。 


「…………ま、元から存在しないもんは如何に磨こうが光らないよね」

 

「うぅっ……!」


 ぼそっと核心を突いたるー君のひと言が傷口に染みる。悪かったですね色気無しで!所詮私はモブですよ!!!


「参ったわ、まさか何をやらせてもここまでぎこちが無いだなんて……」


 グサっ。


「緊張と恥じらいのせいかな?恋情もまた真剣勝負だ、気恥ずかしさに勝てないようでは見込みがないなぁ」


 グサグサっ。


「まぁそもそも顔立ちは大変愛らしいですがお身体がひんそ……華奢でいらっしゃいますし、わたくし達と同じ技術はそもそも荷が重いのかも知れませんね」


 グサグサグサっ!


「〜〜〜っ、わぁぁぁんっ!そこまで言わなくてもいいじゃないですか私だって頑張ったのに!!」  


「あーぁ、泣いちゃった」


 フリフリつきの花柄クッションに顔を埋めて思い切り拗ねる。ふんだ、もう知らない!


「セレンちゃーん、機嫌直しなって。そんなんじゃ可愛い顔が台無しだよ?」


「そんな使いまわしの軽薄な言葉には聞く耳を持ちません」


 ご機嫌取りに甘い声音で囁かれたるー君の台詞をバッサリ一蹴。少し離れた先でお姉様方が吹き出す声がした。


「この女、こっちが下手に出てりゃ調子乗って……!ったくいつまで拗ねてんの、時間無いんだから起きろ!!」


「キャーッ!何するんですか変態!前々から思ってたけどるー君の言動ってかなり色々際どいんだからね!」


「変態……ッ!失礼だな、俺はっ「伊達男気取ってるけどこう見えて女性と最後までいったことは一度も無いのよね」〜〜っ余計な口挟まないでくれる!?」


「ちょっ、二人して何話してるの!?と言うか痛いです……!」


 話の途中でるー君にガッと両耳を押さえられたせいで最後のやり取りが聞き取れなかった。なんか既視感デジャヴ……。


「俺はそもそも本気でセレンちゃんに色仕掛けを仕込む為にここに連れてきたんじゃないのできる訳ないでしょこのちんちくりんに!大体ナターリエ嬢の魅了にかかってる奴等が相手な時点で普通に色仕掛けなんか無理だから!!……その魔法を無効にしない限りね」


「ーっ!」


 なるほど、ようやくピンと来た。

 魅了は洗脳系の魔法だ。解除するには相手の意識に隙がないと難しいのがお約束。


「だから、そこの姐さん達にそれぞれ三人を誘き出して貰って隙きを作る。いくら理性を支配されてても奴等も男、本能には完全には逆らえないだろうから」


「そのタイミングで私が彼等にかかった魅了を解くのね……!」


 昨日、お父様から無効化能力の原理や発動条件の記されたノートも貰った。今なら行けるかも。でも……


「協力して貰っていざ失敗したら、お姉様達にもご迷惑が……いたっ!」


「そんな卑屈な考えは要らなくてよセレスティア。私達を誰だとお思い?この夜の街に咲き誇る大輪の花に惑わせられない男は居なくてよ?」


 三人並んで優美に笑うその姿は、めまいがする程美しかった。若干1名は私の真横であくびしてますが……少なくとも普通の男性には効果覿面こうかてきめんの破壊力だ。これなら如何に魅了にかかった攻略対象おマヌケさん達だって少しは揺らぐ筈!


「で、奴等と顔を合わせる場は俺が設けるにしてもだ。問題はその隙を作った場にどうバレずに……かつ怪しまれずにセレンちゃんを潜り込ませるかなんだよね。流石に面は割れてるだろうし、ガイアスが君にかけた防衛用の認識阻害魔法の効力も既に殆ど切れてしまっているしね」


「侍女の制服とかじゃ無理かな?」 


「三家とも公爵家に比べてしまうと家格が半端だからね。使用人が多くない分従者達の結束が強いんだ、見知らぬ顔があったら流石に気づかれるさ」


 うんざりした口ぶりからして、もしやるー君一度その方法試して失敗してるな?

 でも困ったな。使用人が駄目となると来賓枠?ソレこそ無理だ、コネもないし身元を偽装出来ない以上絶対バレる。どうしたらいいかしら……。


「三人の中で一番チョロ……、素直なのは赤の竜玉を賜っているバリストン家だけどあの家のせがれに至っては騎士団の宿舎暮らしで屋敷にすら居ないしねー……。参っちゃったなぁ」


 バリストン家次男、レオ・バリストン。ゲームでも一番好感度の上がりやすかった素直で愚直なお兄さん枠だ。私は詳しくないけど、ヒロインであるアイちゃん曰く『頼られたい症候群かってくらいめっちゃ世話焼き』だそうだから、近づけさえすれば確かに一番関わりを持ちやすそうではあるけれど。

 ゲームでも確かにヒロインにはもちろん、所属騎士団の新人を手厚くサポートしてたいい先輩描写が……。


「……っ!そうだ、これだわ!」


「えっ、何が!?」


 びくっと肩を揺らしたるー君とお姉様方の視線が集まる。 


「レオ様の所属騎士団の制服一式ってすぐに用意出来そう?」


「あ、あぁ。俺等とは所属が違うけど白竜騎士団うちは全騎士団のほぼ頂点だからね。下の騎士団の制服一着もらうくらい訳ないけど……何する気?」


 訝しげな顔のるー君に、私はにんまり笑みを浮かべた。


「ふふ、良いこと思いついちゃった!」


「うわあいい笑顔。セレンちゃん、まさか………」


「そのまさかよ。女の武器が無いことを逆に武器にしたらいいわ!」


 私の高らかな宣言にお姉様方は大爆笑し、るー君は無言で制服の調達に出ていった。












 同日、夕刻のとある騎士団の宿舎には、忙しなく給仕にいそしむ華奢な少年騎士の姿があった。

 前も見えないほどの皿を積み上げたトレーを抱えヨロヨロしている姿を見かね、獅子色の髪の先輩騎士・レオがその少年騎士からトレーを取り上げる。


「おいお前、前が見えないまま動くのは危ないぞ。積み上げるときは限度ってもんを弁えるように。とは言え頑張り屋は好きだぜ、見ない顔だが、新人か?」


 然りげ無くトレーを厨房まで運んでくれたレオに感謝を述べた後、ピンク色の髪を無造作に背でまとめた少年騎士は力強く敬礼のポーズを取った。


「はい!此度の騒ぎによる王都の警備強化の為移動して参りました。セシルと申します!よろしくお願い致します!!」


「そうか。人が増えるのはいい事だな。俺はレオだ、よろしく頼む。困ったら一人で無理せず呼べよ」


 気のいい返事と共にぽんと頭を撫でてからレオは自室に帰っていった。それを見えなくなるまで見送り、少年騎士……もとい、少年に扮装したセレスティアはバレずに潜入出来たことに、人生で初めて真っ平らな胸に感謝するのだった。

 


     〜Ep.89 発想の転換〜


  『※一応サラシは巻いています』



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