第2話前編

しんみりとした空間。料理のほのかな匂いとアルコールの入った瓶が乾いた空気を生み出す。

騒がしい店よりかは幾分かマシだが、かえって何か話さないと行けない気がしてくる。店の前で合流した俺と同じく招かれた男は合コンに慣れていないのか興味がないのか興味なさそうにぼうっとしている。かっちり目のブリティッシュスーツをきている吉田とは対照的に、その男はネイビーのイタリアンスーツを着ている。


「おい、しっかりしてくれよ、お前が開いてほしいって言ったんだろ。こっち、職場の同僚の前田。こっちが佐藤、大学の友達」


まるで中学生男子が友人の兄と出くわした時のように気まずそうに会釈をする。


「女のコたちはいつくるの?」

「もう少し。向こうの幹事が仕事長引いてたみたいで今向かってるってさ。あ、前田頼む」


吉田と気があうということはそれほど悪い奴ではないらしいと横目で見つつ、渡されたメニューに目を落とす。


−マリネ

 カルパッチョ

 サラダ

 ピザ

 オムレツ

 ローストビーフ

 最後にパスタか。


「大学生のデートか?なんだよこのコースは」

別に酒に詳しいわけでもない。だが、こいつは毎回俺に酒を選ばせる。そもそも俺はウイスキーが一番好きだ。空気を壊したくない限りはこういう場面ではワインを頼むべきなのだろう。わからないなりに上司などから聞いた知識で考える。


「佐藤さん、お酒量飲みたい?」

「いや、自分はそんなに飲まなくて大丈夫です。あ、でも量は必要かも」


佐藤はニヤついているが不思議と不快な思いはさせないニヤつき顔だった。憎めないタイプのいたずらっ子ってとこだろう。羨ましいことだ。


「女の子たちってお酒好きなの?」

「いや、普通くらいじゃないか?」

「ああ、そう。すいません」


無難でハズさない選択。飲みすぎてもNG。重いのは好きな奴が飲めばいい。軽めで飲みやすいもの。とはいえ足りなすぎてもいけない。


「乾杯用のスパークリング1本と、メイン来るまでの白、白はソーヴィニヨン・ブランの軽い奴で、メインが来る少し前に赤、これはピノ・ノワールでボトル合計3本お願いしたいんですが大丈夫ですか?多分飲み足りないって言われるんで、追加もします。あと頼んでおいて悪いんですが、好みわからない人も多いので軽めな奴多めでお願いします。赤だけはやや重くても大丈夫です。」


佐藤が途端に目を輝かせてこっちに視線を映す。


「ワイン好きなんです?」


とりあえず知ってる知識と言葉の中でそれっぽく注文しただけなので申し訳なくなる。明言せずに微笑んで流す。


「仕事何してるんですか?佐藤さんは。いいスーツですよね。吊るしではなさそう」


すると女の店員がグラスを持ってくるとともに主役たちが登場する。場の空気もかわりホッとする。


「ごめん圭介!遅くなった!」


「ああ、いいよいいよ気にしないで。ごめんね男どもだけどっかり座ってて、女の子たちも座って。飲みものはそこの前田が適当に頼んでくれたからもうくると思うよ」


そんな話をしている最中をしているとグラスを並べ終わった。手際は悪くない店のようだ。3人のヒロインたちは俺たちの姿をちらりと見てから席を選び始めた。仕事ができそうな長い黒髪の女、どこか小動物っぽさを感じさせるボブで茶髪の女、そして待たせたことを相当気にしているせっかちそうな女の3人が今夜のヒロインのようだ。俺の目の前には白いニットのワンピースを着た小動物の女が座る。


そこから合コンは平和に始まった。

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