第3話 繰り返す悪夢
2回目の生は地球の日本という国に生まれた。
ここはとても平和なので、あまり鍛えなくてものんびり生きて行ける。
命の危険はそうそうない。
それなのに、俺は小さい頃から警戒心がとても強かった。カフェなど建物に入るときはいつも部屋全体が見渡せる位置に座りたいし、逃げ道は確実に確保しておきたかった。
エレベーターは極力乗らないが、やむをえず乗る時は背後に回られないように壁を背にしていた。
寝るときだって必ず部屋の鍵をかけたし、いざという時には窓から飛び降りるシミュレーションをいつもしていたんだ。
そんな俺の態度に両親はいつも不思議そうにしていた。
姉はいつも、おまえはスパイかっ!てツッコミを入れてくる。
そうだよな。よく考えたら俺のこの行動は中二病の患者そのものだしな。少し恥ずかしくなる。
でも、このそわそわした気持ちは理屈じゃないんだ。
いや、この言い分もちょっとアレかな.......
念のため、俺の右目には何も封印されていないのでうずいたりはしない。
子供の頃からよく同じ夢を見るんだが、俺が危機感を感じるのはその夢の背景が戦場だからかもしれない。
そこで俺は誰かを探していた。
前に進もうにも敵が多くて仕方がない。
少しでも気を散らすと殺されてしまう。
しばらくすると目的の人物を見つけて駆ける。
その人はゆっくりと身体が傾き倒れてゆく。
そのシーンだけがやたらスローで、俺は泥沼にはまったかのように重い足を一生懸命動かす。
側に行きたいのになかなか行けない。
ようやく手が届きそうなときにその人は消えてしまう。俺は気づいたら悲鳴をあげて目がさめる。
幼少期はぼんやりとしていた夢が、年々鮮明になってくる。
俺は実際にもかなりのボリュームで悲鳴をあげているようで、両親に心配されて病院に連れて行かれたりもしたけれど原因は分からなかった。
ある時などは俺の叫び声を聞いた隣人が児童相談所へ通報したらしく、虐待を疑われたようだ。
家族には本当に申し訳ないと思っている。
そんなだから俺にはあまり友人と呼べる人がいなかったし、気味が悪がられて周りには遠巻きにされていた。
俺としては人が寄ってこないのは好都合だしな。
ヒソヒソと陰口を言われるのも気にならなかった。
成長期になって身長がぐんと伸びた。
体格も逞しくなるにつれて周りに女が寄り付くようになった。
何故だか家族以外の女性に嫌悪感を感じるんだ。
そういった経緯もあり、高校は男子校に進学した。
高校でもある種の人に言い寄られるなどの事件もあったが、おおむね順調だ。
そう、何も問題はない。
それなのに俺はいつも虚しさを感じていた。
自分中の核になる部分を無くしてしまったかのようなそんな感覚だ。
そんな日々を段々とやり過ごしていたところにある人物が目に入る。
駅の反対側のホームで女子高生が2人楽しそうに会話をしている。そのうちの一人が風で髪を煽ら舞い上がる。顔がよく見えた瞬間
息が止まる。
周りの喧騒も駅員のアナウンスも人々さえ全てが遠のいて、俺は五感の全てが彼女に向かって集中していた。
見つけた
そう思った瞬間、過去の全てを思い出していた。
頭の中にフラッシュを焚かれたかのように膨大な情報が流れ込んでくる。いや浮き出てくると言ったほうが正しいか。
シーノだっ!!
そう確信した瞬間走り出していた。向かい側のホームへ向かうべく階段を駆け下りながら、まもなく電車が来ますとアナウンスが聞こえていた。
間に合え
間に合えっ!!
ホームに着くといつの間にか帰宅ラッシュがきてたらしく、人混みで思うように素早く進めない。
シーノがいた辺りまで来ると、周りを見回す。
どこだ
電車がホームに着くと、見つけられない焦りで額には汗が滲んでいた。
その時、腹の辺りが急に熱を持った。
居たっ!
シーノが乗った車両に素早くからだを滑り込ませると同時に扉が閉まった。
ほっと一息つくと改めてシーノを見る。少し離れた所からジリジリと近くに寄っていく。
彼女は友人との会話に夢中で、とても楽しそうに笑っていた。
動いている
笑っている
ー生きている
胸がギュッと締め付けつけられるようだ。
〝喜び〟とはこういう感情なのか。
今世において初めて歓喜という情動を知った瞬間だった。その感情は頭で理解して知っているのと、体感するのとではわけが違う。
こんなにも激しく心を揺さぶられるものなんだな。
停車駅に着いて友人に手を振った彼女は、何気なくこちらへ顔を上げた。
目が合った瞬間に彼女の目は見開かれ、急に俺の手を引いて電車を降りた。
いきなりな彼女の行動に何がなんだか分からずにいた。
ーもしかしたらシーノも過去の記憶が?
期待と、もしも過去の記憶があるのならまた離れていってしうのではないかという不安の感情がない交ぜになったが、彼女の次の言葉でどうやら俺を覚えているのではなさそうだとわかった。
ほっとしたような、残念なような..............
「大丈夫ですか?」
「え?」
「具合が悪そうだから」
俺は左手で胸元の服を握りしめ目から大量の涙を流していた。
たしかにこれでは周りから具合が悪く見えるか、ヤバイやつだな。
止めなきゃと思いながらも涙は流れ続ける。
目を何度もこする俺に、どうやら具合が悪いわけではないようだと思い至ったのか彼女は優しく手を引いて駅のホームのベンチに座らせてくれた。
隣に腰掛けた彼女はそっとハンカチを渡して静かに側にいてくれた。
それがまた嬉しくて、涙は止まるどころか流れる量が増した。
やっと落ち着いた俺はずっと彼女の手を握っている事に気づき顔から火が出そうなほど恥ずかしくなった。
初対面で手を握られて号泣されるとか完全にこれ引くだろっ!!
後々になってわかる事だがこの時彼女は、自分を見て号泣しだした上に顔をガン見されていたことから、きっと大切な誰かを亡くしてしまってその相手の顔が自分と似ているのだろうと思っていたらしい。
それを聞いた時は驚愕した。
当たらずと言えども遠からずといったところか。
ただ亡くした相手が彼女自身だという事と、悲しいのではなく、また巡り会えて嬉しかったから泣いていたとは彼女が知る由もないのだが。
それから、ハンカチを洗って返すと言い、なんとか連絡先を交換できた。
お礼と迷惑をかけたお詫びに!と、一緒に出かける約束をこぎつけた。
その後、迷惑にならない程度にアタックをし、彼女と恋人になる事ができた。
幸せだった。
彼女もとても幸せそうだった。
今世での彼女の名前は楠志乃という名前で、たまに間違えてシーノと呼ぶと、欧米かっ!と突っ込まれた。
欧米発音に聞こえるらしい。
それにしても、うちの姉と気が合いそうだ。
志乃が女子高に通っている事から、学校にいる間は変な虫がつく心配ないなとほっとした。
ただ、毎日迎えに行くのに校門前で待つのはちょっと恥ずかしくて落ち着かなかった。
それでも、迎えに行かないという選択肢はないんだけどな。
冷静になって前世を振り返ってみると、いかに自分が志乃に依存していたかを思い知る。
いや、今も依存してるし執着をしているのは分かっているんだが、その比ではない。
はっきり言って、重い。
そして、コミュ障だ。
最悪じゃないか.......頭を抱えたくなる。
今度は寄りかかるだけではなくて、頼ってもらえるようになりたい。
前世では子供の頃の育ちが影響していたと思う。
ほとんど他者と会話する機会がなく、貶されて育ったため少し歪んでいた。
だが、幸いな事に今世では姉も両親も愛してくれているし、大切に育てられた。
相変わらず家族と志乃以外の女性への嫌悪感と、その他への警戒心はあるものの、記憶を取り戻してからはその理由に納得しているので気にならなくなった。
今世では頼れる男を目標に、前世でのダメ男っぷりの挽回に励んだ。
志乃はシーノの頃よりも活発で表情もクルクル変わっていてとても可愛い。
シーノの頃もきっと本質はこんな感じだったんだろうな。思えば子供の頃は今世ほどではないが活発な少女だった。だが厳しい貴族としての教育と、俺とのことで心を押し殺させてしまった。
今、志乃が伸び伸びと出来てること嬉しく思う。
志乃には弟がいる。
忙しい両親に代わり可愛がっているのだと言う。
とても仲が良いようだ。話す内容は弟の龍の話が大半で、たまにモヤモヤしたが顔には出さないように十分気をつけた。
しょうもない事でヤキモチを焼いていると思われたくないしな。
流行りのパンケーキを食べにいったり、バッテイングセンターやちょっと苦手だけど志乃の希望でカラオケに行ったりもした。
目を輝かせてケーキを見るところや、ハムスターのように口を膨らませてモグモグ食べる志乃が可愛くてつい何度も志乃の口に食べ物を運んでしまって、怒られたりもした。
些細なことで驚いたり拗ねたり喜んだりと、前世では見れなかった姿をたくさん見せてくれる。
それが嬉しくて愛しくて仕方がなかった。
全てが順調だった。
ーあの日までは
そろそろ志乃の誕生日が近い事からプレゼントを色々考えていたがなかなか決まらなかったので、姉に相談していた。
「それなら私が選んであげるよ!」
「マジで?!そうしてくれると助かるよ。なかなか決まらなくて焦ってたんだ」
「任せておいてっ!そーいうの得意だから」
ふふん!と偉そうに胸を張る姉に、本当に大丈夫かなと心配になる。
女嫌いの俺に彼女が出来たと知ると、我が家は大騒ぎだった。母はお赤飯だー!と騒ぎ出し父は嬉し泣きをし、姉はその日から弟の彼女を一目見ようと俺の後をつけて来るようになったが毎回上手く撒いていた。
あんなバレバレの尾行で気付かれないと思っているのだろうか。
姉の奇行が目立つ事から、ご近所で変な評判がたつ前にとしぶしぶ家に志乃を連れて行くこととなった。
2人は思いのほか意気投合して、よく俺を忘れて話し込んでいた。それが面白くなくて、あまり頻繁にうちに連れて行くのはやめようと決心した。
だけど、志乃の楽しそうにはしゃぐ姿がみれるのも捨てがたい。
その日、授業が終わってから姉と待ち合わせをしていた。
毎日会っていた志乃と、たった1日一緒に帰れないだけですでに辛い。
「おまたせっ!」
やっと来たか。と思い顔を上げると、
腕にからみついて来た人物に眉をひそめる。
そこにいたのは知らない女だった。
着ていた制服から、姉と同じ高校という事だけは分かった、
「誰だ」
言いながら腕を振り払う。
「あなたのお姉ちゃんに頼まれたのよ〜。代わりに弟の買い物に付き合ってあげてって」
「はっ!?」
じゃあ行こっか、とまた腕を掴もうとする手を避ける。
「信じられないな。」
だって姉は俺が女嫌いなのを知っている。
「嘘じゃないなら聞いてみたらー?」
姉に連絡を入れようとケータイを開くと、メールが来ていた。
『愛しい我が弟よっ!
安心して!私よりその子の方がセンスいいから!
女嫌いを無事に克服したから大丈夫だよね♪
英語の課題を借りちゃったのよね〜
すまん!』
おいっ!
ふざけんなっ!!
つまりは英語の課題を借りるかわりに弟を売ったと。
「すまないが。借りは本人から返して貰ってくれ。俺は帰る」
姉は俺が彼女が出来たことで女嫌いを克服したと思っていたのか。実際は志・乃・以・外・の・女・が嫌いなのだ。
きっと姉は目先の餌につられてホイホイ安請け合いしたのだろう。その光景が目に浮かぶようだ。
なんだって志乃との放課後を我慢してまで他の女といないといけないんだ。これならサプライズにはならないが志乃本人と誕生日プレゼント買いに行った方がいい。
「ええ〜、硬〜い。ねぇ、待って!私あなたの事、前に駅で見かけてから気になってたんだ〜。でもあなたのお姉さんから女嫌いだからって会わせてもらえなかったの。でも克服したんでしょー?」
スタスタ早歩きする俺の横をペラペラ喋りながらついてくる。
こういう人間には本当に関わりたくない。
触れようとすれば手を振り払われ、無視されたのが気に食わなかったのか女は強硬手段に出た。
いきなり首に手を回して顔を近づけてきた。
いきなりなことにビックリしたが、唇が当たる前にとっさに顔を右にふって反らせた。
女の唇が頬に当たりそうになったところでビリっ!と音がした。静電気が走ったようで女は驚いて硬直した。
その一瞬の隙を逃さずに女の腕を振りほどいた。
おんなが硬直する前に一瞬だけ腹の辺りが暖かくなったような気がする。
後ろの方からドサドサっと音が聞こえた。
振り返ると、そこには唖然とした顔の志乃が立っていた。落とした荷物も気にかけず志乃は踵を返して駆け出した。
「志乃っ!!」
またあの顔をさせてしまった。
また誤解をさせてしまった。
くそっ!
己を嫌悪しながらも反射的に追いかける。
歩道橋の階段に差し掛かる所で志乃の身体が一瞬浮いた気がした。
そのままゆっくり状態が下へ傾いていく。
何度も何度も繰り返し夢で見た前世の光景と重なる。
手を伸ばすも距離があり過ぎてとうてい届かない。
ー今世もまた君を失った。
俺にまた志乃のいない生き地獄を歩めというのか。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
それから俺は気がついたら3歳くらいの子どもになっていた。
記憶が戻ったことによって、最愛の人を失う瞬間を追体験させられた俺は、今の子どもの状態では身も心も負担が大きかったようで2週間ほど熱を出して魘された。
ようやく落ち着いてものを考えられるようになった
ーまた転生したのか
今回は記憶が戻るのが早かったな。
2度目の生では、志乃を失った後の記憶がない。
俺はどうやって生きてどうやって死んでいったのだろうか。
そして重要なのは、
ー今世でもまた志乃に会えるのだろうか。
ただそれだけだ。
だが同時にとても不安も大きい。
また失ってしまったら?
あの地獄のような光景をまた見なければいけないとしたら.........
きっと俺の自我が崩壊する。
そう確信していた。
同時に、今世でもきっと志乃に会えるという予感もあった。
最重要事項は、
ー彼女を死なせないこと
俺の気持ちは二の次だ。
例えそれで俺が彼女と結ばれる事が無かったとしても。
幸せになってもらいたい
笑っていて欲しい
その為にはどうしたらいいのか。
次に彼女に死の危機が訪れるとしたら.....
今度こそ救ってみせる。
その為の力は全て身につけよう。
今世での俺の生き方決まった。
3度目の生はまたしても異世界だった。
1度目とも2度目とも違う。
中世ヨーロッパのような様式だが、文明はとても進んでいる。国民は当たり前のように生活魔法を使って暮らし、便利な魔道具も沢山普及している。
前世で言う所の電化製品が魔道具にあたる。
魔法においては、細かい作業にはより繊細な制御が、攻撃魔法にはより強い魔力を必要とするためそれぞれいろんな分野の専門職がいた。
今世の名前はジン・ユーグレ。
公爵家の長男として生まれた。
貴族の交友はや教育が少し面倒だとおもったが、何かあったときに身分もきっと彼女の助けになれるだろう。
ありがたい事に今世の俺は魔力量がズバ抜けて多い。
幼児の間は魔力コントロールを中心に練習した。
ひたすら繊細な魔法制御を練習し続ける様子に両親は優秀だと喜んでいたが、侍女や家政婦たちは気味が悪いと極力近寄ってこなかったため、乳母がいる時間以外は一人で心置きなく練習に励む事ができた。
一人での練習に限界を感じた頃に父のマーシャルに頼み込んで魔法と剣術の家庭教師をつけてもらうようお願いした。
まだ早いのではと渋る父を説得してくれたのは、意外にも母のエリザベスだった。
魔力コントロールくらいならいいけれど、見ていない所で危ない魔法や剣術の稽古をやられるよりは良いのではとの事だ。
だいぶブランクはあるが前前世では騎士だったので剣術の方はメキメキと上達し、教師を絶賛させた。
魔法の方は最初こそ苦戦したが、適性がなかったり魔法が無い所へ転生していたことから、その憧れは誰よりも強かった。
あの時に自分に魔法が使えればと何度思ったことか。
もう二度と後悔しない為に、今やれる事は全てやって力を身につけた。
15歳になり魔法学校へ入学が決まった。
だが、もうすでに学校で学ぶことはなく授業はとても退屈なものとなった。
構われるのは嫌だし、とくに友人を欲しいとも思わなかったが、将来公爵家を継いだときのために使えそうな人間とはそこそこの付き合いを持った。
本当に心を許せる人間はいなかったので、常に薄い結界を張って歩いていたら、いつの間にか《氷の結界王子》という不名誉な字名を付けられていた。
クラスメイトでこの国の第一王子ヘリオスがこの名を口にするのだ。すごく嫌だ。
学園でいつか会えるかもしれないという期待も虚しく、卒業するまで彼女は現れなかった。
すでに王宮魔術師でも使えるのは2人しかいない特大魔法も難なく使えるようになっていたので、王宮魔術師への勧誘が来ていたが俺は騎士になる方を選んだ。
魔法は楽しいが半分の割合で女がいる。
騎士団の中にいる方が身体も鈍らないし色々と都合がいい。
それに、魔法と剣術を組み合わせる戦い方を考えるのも楽しかった。
20歳を過ぎても彼女に出会えていない事から焦りが生じていた。
きっと今世でも会えると確信していたのだが、段々と自信がなくなってきた。
どこが気に入ったのか分からないが、ヘリオス殿下がよく騎士団の詰所へ俺に会いにくる。
たわいもない話をして帰って行く日もあれば、熱心に王子付きの騎士になる事の利点を話しては、俺がなんの興味も示さないことに肩を下げて帰って行く。
ショボーンとたれた耳と尻尾の幻覚見えた気がする。
ある日、何故かキレ気味に
「お前は何か欲しいものはないのか?!」
と聞かれた。
「ありますよ」
と答えると、ヘリオス殿下はキラキラした目でそれはなんだ!とサムズアップしてくる。
結界は相変わらず張ってあるので物理でも魔術でも俺に触れることはできないが、ウザいものはウザい。
「離れてもらえませんか」
この国の王子にたいしての扱いではないのだが、当の本人が許しているので問題ないだろう。
「だからそれはなんなのだっ!!」
早くお前の欲しいものを言え!とグイグイ迫ってくる。
本当に暑苦しい。
これは言うまで帰らないな......
「探している人がいます」
そう言うと、殿下は大きな目を溢れそうになるほど見開いた。
「なんとっ!!人間嫌いのおまえがかっ!」
「そんなに驚くことですか」
「驚くなんてものではない!!」
それでそれで?と楽しそうに寄ってきて結界に弾かれていた。
おいおい、俺不敬罪で捕まらないよな。殿下が自分から体当たりしてきたんだからな〜!
「それでどんな人物なのだっ!」
痛そうにしながらも、興味の方が上回ったらしい。気を取り直して聞いてきた。
「女性なのですが」
「女だとっ!!!」
被せるように叫ぶ。本当にうるさいなぁも〜
「女嫌いのおまえがかっ?!!どこの誰なのだ」
「分かりません」
「..........は?」
「名前も年齢も分からないのです。もしかしたらまだ生まれてすらいないのかもしれません」
騒がしかったヘリオス殿下が急に静かになった。
「おまえは私を揶揄っているのか」
と打って変わって厳しい眼光を向けてきた。
「いいえ。殿下がお知りになりたいと仰るのでお話ししたまでのこと。信じないのでしたら結構ですよ。それでは失礼してもよろしいでしょうか。まだ仕事がありますので」
今まで前世の話は誰にもしたことはなかった。
頭がおかしいと思われるのが目に見えているから。
だが、実際に疑いの目で見られるのは傷つくな。
傷つく?
俺はいつの間にか殿下に多少は心を許していたんだな。
「ま、待てジン!悪かった。からかわれたのかと思ってつい強い口調になってしまった。おまえはそのような事は言う奴ではなかったな」
振り返ると。
またしても、叱られて尻尾を丸めてこちらを上目遣いに伺う犬がいた。
「怒ってませんよ。傷ついただけです」
と言ってみると、殿下はピャっ!と飛び上がった。
その様子が少し前世の志乃と重なって笑ってしまった。
その様子を殿下は驚愕した目で見つめていた。
「.....笑った......ジンが笑っている!!」
「なんですか。俺だって笑う時くらいあります。」
「いいや!この5年間でおまえが笑ったのは初めてだ!なんと!!ジンの笑顔が見られるとは!!」
なにやら興奮しているこの国の第一王子に、完全に冷静さを取り戻した。
そうか、殿下は志乃に少しだけ似ているところがあるのか。だからつい近くにいることを許してしまうんだな。
興奮冷めやらぬといった様子ではしゃぐ殿下の姿を見て少しだけ癒された気がした。
殿下になら話してもいいかもしれないな。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後書き
ここまで読んでくださった方々に感謝を!
ブックマークもありがとうございます〜!
たくさん付いてて驚愕しました。
手がプルプルです(笑)
初めて感想を頂きました。感激です〜!
中には厳しい意見もありましたが、完結まで暖かい目で見守ってくださると嬉しいです。
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