第116話 書籍化 記念SS  可愛い来訪者

書籍化&表紙公開を記念してショートストーリーを投稿します。

※こちらは本編とは関係ありません。

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「旦那様、見て下さい! 可愛いですよ!」

 屋敷の敷地内に動物が侵入した、とツバキから言われて様子を見に行くと、庭の木陰に小さな子猫が二匹迷い込んでいた。

 まだ生後数週間程度の子猫だ。白い毛色と青白い毛色の子猫二匹が寄り添うように木の幹で眠っていた。

 それを見たシオンが「はわわ」と手を伸ばし、起こしてしまうと思い手を引き戻し、でも触りたいと手を伸ばし、でも、だけど、と途方に暮れていた。


「うん、可愛いね」

 主にシオンが。子猫も可愛いけど、それを見てオロオロしているシオンの方が可愛い。俺の後ろで見ているツバキも同意見なはずだ。

「みゃー」

「はわぁ、起きちゃいました。でも可愛いです」

 シオンが子猫の前で膝を地面に付けて手をワキワキしていると、白い毛色の子猫はシオンの手が気になったのか覚束ない足取りでシオンの膝に乗り、ゴロンと寝転がるとシオンの手をペシペシ猫パンチしている。

 それを見たシオンがまた幸せそうに目を蕩けさせている。

 …………。別に羨ましくないからね? 俺もシオンの膝に頭を置いてみたいとか思っていないからね?


「主様、もう一匹がこちらに来ましたよ」

 ツバキに言われて木の根本を見ると青白い毛色の子猫がトテトテと俺の方に近寄って来ていた。

 芝の上に座り子猫に手を差し出すと、頭をこすりつけ甘えてくる。毛並みはあまりいいとは言えないけどぷにぷにしていて柔らかい。ころんっと芝に転がった子猫のお腹を撫で顎下を撫でまわす。幸せそうに目を閉じている子猫は何ともいえない愛らしさがある。

「旦那様ズルいです。何でそんなに触らせてくれるのですか?」

 シオンの方を見るとシオンが子猫に手を伸ばすと猫パンチが飛ぶため、シオンは子猫を触れずにいるみたいだ。……最初の対応で遊び道具と勘違いされたのかな?


「こっちの子猫を触る?」

「いいのですか?」

 膝に乗せた子猫を落とさないように裾を持ち上げて運んでくるシオン。

 裾を上げる――つまり普段より裾が上がるわけで太ももの見える位置がかなりきわどい。

 見てはダメだ、と思い視線を逸らし子猫を撫でる。するとすぐさまシオンが隣に来て白い子猫を降ろして青白い子猫に手を伸ばす。そして「はわぁぁ」と感嘆の息を吐きながら子猫を撫でている。

 青白い毛色の子猫がなすがままに撫でられているのを見て、白い子猫が隣に寝ころび一緒に撫でろと催促しているようだ。シオンは両手で子猫を撫で幸せそうにしている。

 俺とツバキはその様子を静かに眺めて見守ることにする。



「にゃおー」


 しばらく経ち、ツバキに膝枕をしてもらいながらシオンを見ていると、柵の向こう側から大きな猫の鳴き声が聞こえてきた。親猫が迎えに来たみたいだ。子猫二匹はシオンの手から身を躱して親猫の方へ走って行った。

「……お母さんが来たのでしたらしょうがないですね」

「あら? まだ撫で足りないのですか?」

「いいえ。とても満足しました」

 子猫が去って行くのを見て悲しそうな顔をしたシオンが、すぐに満足そうな笑顔に変わった。子猫が去るのは寂しいみたいだけど十分に満足はしたみたいだ。

 子猫二匹がまた遊びに来てくれるのを心待ちにしておこう。

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