第82話 お疲れ様3
「――はぁぁぁぁ、生き返るぅぅぅ」
湯舟に肩まで浸かり久しぶりのお風呂に思わず声が漏れ出るなー。
着替えた後も
まぁ簡単に言うと着替えて浴室に入り、掛け湯の大切さをご高説しようとしているとスッパのミーシアが乱入してきてスンスンが捕獲、自分の予備を着せて戻って来た。そして何故か湯着を着たメイプルまで一緒に来るという謎現象。使用人は俺の後に入るんじゃなかったの?
そしてメイプルさん、意外と着瘦せするタイプなのね。湯着の間から覗く谷間が素晴らしい。乳猫に格上げしよう。
「わあー! わあぁ! すごいすごい!」
「うにゃ! ミーにゃん、お湯が飛ぶにゃ! 止めるにゃ!」
広い湯舟に興奮したミーシアがはしゃいでいる。被害を受けているのはメイプルだけだから問題ないだろう。湯舟の外で待機しているスンスンの表情が少し怖いけど。
「ふぅぅ、広いお風呂は気持ちが良い物ですわねぇ」
「はぃ。これは気持ちがいいですぅ」
ツバキとシオンは俺の隣で蕩けていた。うん、気持ちは分かる。ただツバキ様、湯着を着ているとは言えそんなに無防備に体を晒していたら零れそうですよー。……おっと、平常心平常心。俺は芸術が分かる男だ。女体は見て楽しむものであり欲望を掻き立てるものではない。
幸い皆さん美のヴィーナスのように素晴らしい美しさがあるから芸術作品を見ている気分で接する事ができるからね。――ミーシアが起こした波紋でツバキの湯着の胸元がヒラヒラとしていて――もう、もう一押し、あ、あとちょっと、あ、あと、あ、あ。
「……ヤマヤマ、見たいならそう言えば見せてくれると思う」
「…………何のことだろう?」
俺は紳士。女性をそんなやましい目で見る事はない。
そしてフィーネよ、見えそうで見えない事に意味があるのだよ。簡単に見せてくれるものに価値はないのだ。
「旦那様のエッチ」
「ふふふ、熱い視線を注がれるのも良い物ですわね」
…………。例えバレていても見えていないから問題ないだろう。うん。
「お兄ちゃん! お風呂凄いの!」
「ミーシアさんー、はしたないですよー」
笑顔で近づいて来るミーシアは先ほどまでの動きが大きかったのか湯着が少しはだけていたが、スンスンがサッとミーシアの背後に移動して着直させていた。……保母さん?
「ミーシア、お風呂はゆっくり浸かるものだぞ。そんなに暴れていると直ぐにのぼせるぞ? あとスンスンも入っていいよ? そんな直ぐに温度が下がったりしないだろ?」
「そう、ですねぇ。それではお言葉に甘えてー」
…………。うん、まぁ素直に入ってくれるのは良いことだ。スンスンはすぐに仕事優先にするからね。――ただ俺の目の前に座る事はないんじゃないかな? 足が閉じれなくなったよ? 結構気まずいよ? このお風呂結構広いんだよ? そっちの端の方とか背中を預けれるよ?
「……私のポジション取られた。……スンスン意外と抜け目ない」
「そこはシアの場所だったの!」
「なるほどー、確かに良い物ですねぇー。気持ちいいですー」
…………。スンスンって意外と図太い性格だね。まぁこう見えて一番年上だからね。フィーネは人間の年齢に換算すると十六歳ぐらいだろうし。……でも人間の街で四十年ぐらい生活していたって言っていたから五十歳越えか。
「……私は永遠の十五歳」
「シルフィお姉ちゃん、いきなりどうしたの?」
「……無粋な気配が漂っていただけ。きっと私の気のせい。ね、ヤマヤマ」
「そだねー。……フィーネは綺麗だし気にしなくても良いと思うけどね」
「……年寄りと言われて喜ぶ女はいない。女心を理解して欲しい」
そんなことを俺に言われてもな。大体ミーシア以外は俺より年上だろ。……スンスンが年上には見えないけど。俺より背が低い数少ないオアシスだからね。……でも俺の目の前に座るのはどうなんだろう。湯着を着ているとはいえ、濡れて張り付いているから身体のラインがハッキリしているって分かっているのかな。まぁスンスンなら別に気にならないけど。
……スンスンも綺麗な顔立ちだよねぇ。将来は美人になりそうだ。既に大人だからこれ以上美人にはならないのか。……それにしても。
「……ヤマヤマがスンスンに見とれている。由々しき事態」
「あーいや、スンスンも良く見ると髪の毛が跳ねてるなって」
「――――」
「……。……ヤマヤマ、流石にそれはヒドイ」
「旦那様、いま、も、って言いましたよね? それは誰の事を言っているのでしょうか?」
……あら? ツバキとミーシア以外の女性陣がスーと離れて行った。どうやら禁忌呪文を唱えてしまったようだ。
でも目の前に座られていたから嫌でも目に入るし。別にボサボサだね! とか言ったわけじゃないんだよ? シオンとフィーネが昼間言っていたからついつい目が行っただけだから。別にそれでみんなの魅力が落ちるわけじゃないよ?
「シアの場所が開いたの!」
「ミーシア、お風呂でくっつくのはダメ、絶対。他の人に怒られる前に離れてくれ」
「でも皆向こう側に行ったよ?」
「…………それでも離れてね。隣に居ていいから。そうじゃないとツバキに離れさせるよ?」
「ッ! 分かったの! 隣で大人しくしてるの!」
ツバキの視線を受けたミーシアが視線を躱す様に俺の隣にちょこんと座った。そしてそれを見たシオンから何か言いたげな眼差しが。いや、離れて行ったのそっちだからね?
「主様、髪は女の命ですわよ?」
「ツバキは離れないじゃん。それに
「……そのちょっとが命取り。ヤマヤマに直接指摘されたら立ち直れない」
「そうです。ですからあまりこちらを見ないようにしてください」
……それはそれで俺が傷つくよ? …………。ふむ。髪のダメージか。
本当は一緒に入るのがツバキとシオンだけなら薬湯風にポーションを湯舟に投入する事も考えていたけど他の皆が来たからね。流石に控えましたよ。
でもシオンにこんなことで離れられるのはちょっとイヤだし、ツバキも気にしていない風を装いながらも髪の毛を撫でてる。たぶん無意識なんだろう。
本当に気にする必要なんてないけど言葉で言っても意味はないだろうなー。
……なので少しヤラカソウカナ。
この世界にシャンプーやトリートメントなんて物は当然存在しないようだ。フィーネがシオンと話していたのは香油を使ったお手入れ方法みたいだけど詳しい事は説明されても俺では分からない。シオンとフィーネは熱く語り合っていたけどね。
以前、髪の毛は死んだ細胞説と生きて栄養を得て進化する説を美容室で聞いた事があったな。――いや、どっちだよって言いたいが。
――というわけで実験の時間です。
「ツバキさん、ちょっと髪の毛貸して?」
「…………。返してくださいね?」
「いや、切ったりしないからね!? ちょっと……、ちょっと……、……ちょっと、実験がしたい、だけ」
他に言いようが浮かばない……。髪の毛のお手入れをしたい? うん、ツバキの長い髪を触るのは心惹かれるからそっちの方が良かったかも。
「「「…………」」」
女性陣からの視線が熱い。というかツバキが不安がる表情を浮かべている。止めてそんな目で見ないで!? ……これは絶対に失敗できない。
スンスン達もいるので桶にお湯を入れて一旦脱衣所へ。流石に目の前で出すわけにもいかないからね。
そして取り出すはテッテテー、Bランクぽーしょん。直接かけるのは何か違うと思うのでお湯に溶く事にしてみた。とりあえず最初だし先ずは半分ぐらい入れてみるか。どぼどぼグルグル、はい完成! 「ぽーしょんシャンプー(仮)」と名付けよう。栄養シャンプーが良い? 香りは極秘。改良が必要です。
改めて浴室に入ると湯舟から上がって正座をしているツバキとそれを遠くで見つめる女性陣。…………なにこれ、刑執行? 切腹でもするの?
「主様、覚悟はできましたわ。ひと思いにお願いしますわ」
「何の覚悟だよ。別に髪切ったりしないからね? ツバキのその長い髪、俺好きだからね?」
「……髪伸ばそう」
「私も伸ばします」
「私も伸ばした方がいいでしょうかー」
「シアも伸ばすー!」
「にゃう?」
…………。離れた外野がうるさい。まぁいいや。早く楽にしてあげよう。
「それじゃちょっと髪借りるね。……おぉ、意外とずっしり。うん、綺麗な髪だね」
「ありがとうございます」
流石にこのタイミングで枝毛とか言わないよ? 今のツバキに冗談は通じない気がするし。ササっとやっちゃおう。
まずは、毛先を浸してみるか。…………。変化なし。ぽーしょんシャンプー(仮)入りの桶に数秒浸してみたけど少なくとも目に見える変化はない。というか毛先だけじゃよくわからん。ウーン。ちょっと一束分を分けて全体的に馴染ませてみようか。
「ツバキ、もし変な事になったら責任取るから」
「ッ!」
例えツバキの髪が一束分色が変わったりしても俺はツバキから離れたりしない。髪が生え変わるまでツバキの如何なる要望も聞き届けよう。
意を決して桶からぽーしょんシャンプー(仮)を掬ってツバキの髪に塗り込むように馴染ませる。浴室の端の方でフィーネが騒いでいるけど気にしない。
「……お、おぉ? おぉぉ?」
「あ、主様、不安になる声を出さないで下さいな」
「あぁごめん。でもほら、見て」
「――ツヤが、それにサラサラですわね。他の髪と全然違いますわ」
うん、他の髪は少しゴワゴワしているけどぽーしょんシャンプー(仮)を馴染ませたところだけトリートメントをしたみたいにツルツルサラサラだ。
実験は成功かな? ――髪は回復する。これで将来ハゲても希望が持てそうだ。ただし異世界に限る。
「…………。主様、ここだけサラサラではおかしいと思いませんか?」
「――はい。全部やります」
いやいいけどね。ツバキのその笑顔が見れたなら満足ですよ。あとから髪の毛をふわぁってして遊ばせてもらうからね。
「…………。あのぉ、旦那様?」
「……ヤマヤマにお願いがある」
シオンとフィーネが何時の間にか近づいて来ていた。上目遣いでお願いされても知りません。俺にはツバキの髪と戯れるという使命があるのだ。
…………。ま、その後にシオンとフィーネの分までやりましたけどね。
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