第38話 楽しく笑顔で楽して快適に
ギルドへ向かう道すがら今日売る予定のポーションを数え予定金額を計算すると笑みが零れる。
ダダンガさんが来る前に屋敷でFポーション32本とEランクポーション16本を作成した。それと昨日の夜に宿屋で作ったFランクポーションが10本あるから昨日より稼げるだろう。
ポーションは昨日市場で買ったバックに割れない様に全部入れてシオンがしっかりと持っている。ちなみにツバキは胸を俺の頭に置いて俺を両手でしっかりと抱きしめている。
「………………。私ももっと大きければ」
シオンがバックをギュッと抱きしめながら呟いていた。
「大丈夫ですわよ。私の妹ですもの。直ぐに大きくなりますわ」
シオンの呟きを聞きツバキが胸を揺らしながら答えるがそれはどっち? 胸? 身長?
「…………。旦那様は若い女性と若くない女性どちらが好みですか?」
ちょっと待とうかシオンさん。若くない女性って表現がおかしいよね? 年齢層が人によって結構幅があると思うんだけど?
「あらあら言いますわね。主様? 柔らかいのと硬いのどちらがお好みですかしら?」
ツバキが俺の頭に胸を押しつけその柔らかさを強調するかのように小刻みに揺らしながら聞いて来る。
「お姉さま? 硬いとは何のことでしょうか? 小さくとも私の胸はしっかりと柔らかいですよ! 旦那様! 確かめて下さい!」
「ちょっと待て! お前らこんな所でそんな喧嘩するな! 周りの視線を気にしろ!」
現在市場通りのど真ん中にいる。人通りは結構あり、俺達の声に周りの人達は面白いものでも見るかのように足を止め見物していた。
それに気付いたシオンは自分の発言を思い出し赤くなって俯いていた。ツバキは相変わらず胸を弾ませているけど。
「はっはっは! お兄さん最高だねぇ! 良かったらその子達にどうだい? せっかく綺麗処を連れているんだ、美味しい物を食べさせて健康でいて貰いたいだろ?」
威勢のいい声に視線を向けると露店売りの片隅にバンダナを巻いた若いお姉さんが屋台を出していた。食べ物屋台らしく大鍋から湯気と良い匂いが漂っていた。
「この匂いはシチューですか?」
社畜として働く前は良く自分で作って食べていたな。社畜になってからはそんな時間は取れないから距離を置いていたけど、久しぶりに嗅ぐこの匂いは食欲がそそられる。そう言えば朝食食べていないな。
社畜時代は朝飯は抜いていたから気にならなかったけどツバキとシオンがいるんだから今後はちゃんと準備しないといけないな。
「おっと、お兄さん食べた事あるのかい? 竜人族を連れているし東洋国の人かい?」
またそれか。他種族に良くするイコール東洋国って構図はおかしいだろ。
…………。うん? 良く見るとこの人、獣人か? バンダナで頭が隠れているから耳は見えないけど、背後に細長い尻尾がゆらゆらしている。
「あちゃ~、バレちまったかい? 尻尾まで隠すと詐欺師扱いされるからね。でもこのシチューは本当に美味しいんだよ?」
…………。獣人であることを故意に隠したら詐欺になるのか。そして獣人の作った料理を食べない人間族が多いってことね。
うーん。初めて獣人を見たけど人間と変わらない。モフモフでもフサフサでもない。
お姉さんの尻尾はシュンとして細いし猫人かな? 後は耳に期待だが流石にバンダナ取るわけにはいかないし今後に期待しよう。
「そうみたいですね。とりあえず三人分貰えますか?」
「え? 三人分で良いのかい? 二人分じゃなくて?」
「もちろん。俺だけ飯抜きになるような事はした覚えはないですから」
「はっは、了解。すぐに用意するよ!」
屋台に置いている木の器に並々とシチューを注いで渡してくれた。器で食べる屋台はその場で食べて器は屋台に返すそうだ。椅子などは用意されていないので立ったまま食べる。
流石にツバキも俺から離れてシチューを食べている。俺の頭をテーブル代わりにすることはないようだ。
「これは美味しいですわね。私達は初めて食べましたけど主様は以前も食べた事があるのですか?」
「うん。結構前にね。でも自分で作るより美味しいかも。肉がもっと入っていたら満点だったな」
「お兄さん、それは酷いよー。私だって沢山入れたいけど、お肉入れたら予算オーバーするんだよ? 今日はたまたま知り合いから安くで仕入れたから入ってるけど普段はそれも無しだよ?」
そうなのか。肉は高いのか。…………。昨日の宿屋は普通にステーキが出ていたな。柔らかくて美味しかったけどあれってかなり高級だったのか。
「旦那様はこういった庶民の味と高級レストランの料理とどちらがお好きですか?」
「うーん。甲乙付け難いな。料理は食材や調理にもよるけど一緒に食べる相手でも美味さが変わるからね。シオンとツバキと一緒に食べるなら一人で食べる高級レストランより、屋台の方が美味しいかな」
昨日食べた夕食でしみじみ思ったよ。一人でボロアパートの一室で食べる料理とは何もかもが違うって。異世界でも一人細々と暮らして行こうって思っていたのに今では二人により良い生活をさせてあげたいって思っているからな。
ま、面倒事はお断りだけどね。
「ひゅーひゅー、お兄さん言うねぇー。まさかあたしら亜人に対してそこまで言う人間がいるとは思わなかったわ。本当に東洋国から来たんじゃないの? お兄さんが東洋国の人間じゃないなら東洋国の人間ってどれだけなんだろうねぇ」
東洋国は亜人の楽園と言われるほど人の垣根が少ない国だと噂されているそうだ。ただ思いつきで行けるほど近くもなく夢見るだけしか出来ないそうだが。…………。楽園を夢見るほど疲弊しているってことだよな。
シチューは想像以上に美味しかった。具が多く一杯で十分に腹が膨れる。ツバキ達も絶賛しているし間違いないだろう。
「美味しかった。ありがとう。って御代払ってなかった。幾らです?」
「まいど。そうだね、中銅貨8枚でいいよ」
三で割れないな。実際は9枚か? 変に気を使われてしまったな。確か昨日市場で貰ったお釣りの残りがあったよな?
ギルドカードで払える所はカードで払っているから残金が幾ら残っているのか分からないんだよな。商業ギルドで貰った革袋に銀貨で払ったお釣りは全部入れてたけど――これが大銅貨かな?
今後は小銭の支払いはシオンに任せよう。大銅貨を一枚取り出し、革袋をシオンに渡して屋台のお姉さんに大銅貨を渡す。
「お釣りはいいです。美味しかったですから。また食べに来きますね」
「いいのかい? ……ごめんね、変に気を使わせてしまったね。次来た時は大盛りで用意するよ!」
大盛りか。今のでも結構腹にきてるんだけど。昨日の宿の食事も多かったし太らない様に運動もしないといけないな。
「主様は沢山食べて早く大きくならないといけませんわね」
「大きくなったら胸を置けないぞ?」
「そうなったら腕を組んで歩きますわ。両手に花ですわよ?」
ツバキとシオンが左右から護衛するわけか。…………それもいいね。でも何で早く大きくなる必要があるんだ?
「旦那様、腕を組むなら私がやります! お姉さまでは無理でしょうけど私なら余り背丈も変わらないからできます」
「ならシオンが腕を組んで私はこのままですわね」
シオンが俺の腕に抱き着き、ツバキはそのままいつものように頭に胸を置いて身体を抱きしめる。…………。なんだかパワーアップした。
「あははは! お兄さんモテモテだね! 羨ましい限りだよ」
「……。もう片方空いてますよ?」
「あはは! 私もそこに入れてくれるのかい? でも流石に竜人族に混ざって男の取り合いは出来ないねぇ」
お姉さんはひらひらと手の平を振って笑っていた。まぁこの状態を笑わない人は居ないだろうな。いや、この国の人間は亜人に抱き着かれているおかしなヤツだと思うのか。嘆かわしい限りだ。…………。…………。うん? この国なら他種族ハーレムが築けるんじゃないのか?
「旦那様? 何やら邪な考えをしておりませんか?」
「イイエ、しておりませんが」
「そうですか? それなら良かったです」
シオンの目が黒い内は無理そうですね。…………ま、俺にハーレムは無理だけどね。女心は難しいし、たくさんの女性を相手取るのは気疲れしそうだ。
ハーレム主人公は漫画やアニメで見るから良いのであって、自分が体験するのは遠慮したい。
…………二人の美女に囲まれて言っていいセリフじゃなかったな。
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