第18話 勅令
「それじゃヤマト君。私はここで失礼するよ」
「はい。今日は色々とありがとうございます。また何かあったら相談させてください」
奴隷商のある西区から中央区まで戻って来たところでメルビンさんは領主館に行く為、ここで別れることになった。オルガノさんとは奴隷商で既に別れいる。不動産を任せている貴族や商人に話をしに行ってくれるそうだ。
「さて、それじゃ最初に宿を探そうか」
「主様がお泊りの宿ではダメなんですの?」
「あぁ、僕は今日この街に来たんだよ。だからまだ宿も見つけていないんだ」
この世界に来たのが今日なんだけどね。そういや、夜中から動きっぱなしだけど全然身体が疲れないな。ポーション全部飲みとかしたからどれが効いているのか分かんないけど凄い効果だ。
「今日初めて街に来て、いきなり三十億Gもの借金を負って更に美女二人を買う為に三億Gの商談をまとめたのですわね」
「……私達のせいで申し訳ございません。ですがしっかりと働いてお役に立ちます!」
「あらシオン? 病弱な貴女がお役に立つ。あぁ、ベッドでの御奉仕であれば貴女にピッタリですわね」
「お姉さま? 本当に怒りますヨ? 旦那様のお立場を考えてお話下さいませ!」
「あら? 大丈夫ですわよ。貴女の旦那様は他種族に対して寛容なお考え、子作りは無理でも奉仕は喜んでくれますわ」
「なぜお姉さまが断言するのですか!?」
「なぜって、ほら?」
むにゅむにゅ
俺をほったらかして姉妹喧嘩を始めたと思ったら今度はツバキが俺の顔を両手で引き寄せて自分の胸に押し付けきた。ちょー柔らかい。それにかなり良い匂いが。――じゃなくて。
「こんなところで何してんだよ」
「お嫌ですか?」
「イヤではない。むしろ嬉しい。だけど人の目があるだろ?」
「シオン、貴女の旦那様はこういうお人よ。貴女もしっかりと仕えなさい」
俺のことは無視ですか。……シオンが俯いて震えているんだけど。何か怖いんですけど。ツバキさんちゃんと責任もってどうにかして!
「あら? ほら主様、旦那様の出番ですわよ」
「え、ちょッ!? うわ!」
ツバキに足払いされて背中を押されたせいでシオンの方に倒れ込みコケると思って思わずシオンの身体に抱き着いてしまった。
シオンは流石は竜人というか勢いがついた俺をその場でしっかりと支えて受け止めてくれたけど顔が真っ赤だった。
まつ毛の数が数えれそうなほど顔が近く、その綺麗な青い瞳やぷっくりとした唇に目が奪われ鼓動が早くなる。
「お二人さん? こんな人目のある公道でそんな見つめあっていたら迷惑ですわよ?」
「ッ!?」
「わ、ゴメン!」
ツバキに言われて慌てて離れる。周りにいた人は軽く見ていたけど、そこまで気にした様子はないみたいだ。今の俺は子供だしシオンも俺と同じぐらいだから子供がじゃれていたぐらいにしか思われなかったみたいだ。
ただ当事者はそう簡単なものではなく、シオンは顔から湯気が出そうなぐらい顔を真っ赤にして放心していた。
「あぁ、その、シオンごめん。いきなり抱き着いちゃって」
「へ? いえいえ! 旦那様は全く悪くありません! 悪いのは全てあの酒乱姉です!」
「しゅ、酒乱姉?」
「ハッ! いえ、何でもありません!」
「ヒドイ言われようですわね。せっかく妹の幸せを願って身を削る思いをしてお膳立てしたというのに」
お膳立てって、そりゃ俺からすればラッキーハプニングで最高だったけど、さ、って!?
「ツバキ! どうしたんだその足!?」
文句の一つでも言おうかとツバキを見ると平然とした顔で立っているけど右足首が血塗れになっていた。良く見ると左手首にも同様の怪我を負っているみたいだ。懐に手を入れてDランクポーションを生み出す。まだ制限数に達していなかったみたいだ。
ツバキとシオンには両手両足と首に魔道具の枷が装着してあった。この魔道具は奴隷に付けられる安全装置なのだが、人間であれば一つで十分なところ竜人族と言う事で計五個装着されていた。今回ツバキが怪我をしているのはその魔道具が付いている右足首と左手首だった。
俺に足払いをした右足と俺を突き飛ばした左手の魔道具が反応したみたいだ。恐らく俺に触れる前に発動した魔道具の静止を無視したから寄り強い力が働いたのだろう。怪我の一部は骨が見えるほど肉が抉れている。
「これぐらいの傷どうというこはありませんわよ」
「いいから黙ってコレを使えッ!」
「ッ」
俺が差し出したポーションを見て要らないと言うツバキに怒りを込めて言うと驚いた顔をした後ポーションを受け取り傷口に掛けていく。傷は見る見る内に塞がり完治したようだ。
骨が見えるほどの怪我がDランクポーションで治るのか。Dランクポーションが貴重だっと言う意味が分かるな。だからDランクポーションが作れるセルガの横暴がまかり通っているのか。
「お姉さま、あまり無茶をしないでくださいませ」
「ごめんなさい。主様、申し訳ございませんでしたわ。私の軽率な行いで貴重なポーションを一つ使わせてしまいました。この罰は何なりとお受けします」
別にポーションを数本使われるぐらいなら大して問題ない。シオンに使う分のポーションを確保する必要があるから無駄遣いされると収入が下がるけどそれは借金の支払いに影響しない範囲なら問題ない。
ただ許せないのは怪我をすることを恐れていないことだ。怪我をした事実より俺のポーションを使ったことに謝罪している。それが許せない。
「ならば罰を与える」
「ッ、旦那様、どうかお許しを! 私が使うポーションから」
「シオンお黙りなさい」
「ですが!」
「――ツバキ、罰として今後怪我を負う事を禁じる。不測の事態、誰かを守っての負傷は構わない。だが、回避出来得る怪我を負う事を俺は許さない。これは罰にして命令だ!」
奴隷に強制力を持つ命令を言う事はできない。命令をしたとしてそれを守るか破るかは本人次第。だからこれは俺の自己満足にすぎない。
「シオンにも言う。回避可能な怪我をしないこと。シオンには命令じゃなくお願いだ。俺は二人が傷つくところを見たくない」
「ふ、ふふ、ふふふ。――主様、竜人族ツバキ、その勅令、しかとこの身に刻み込みます! 今後このような失態を犯さぬと約束致します」
「わ、わたしも! 怪我しません!」
シオンの場合は多少怪我しても定期的にポーションを飲むから全部治りそうだけどね。それでも怪我をしない方がいい。
「なら今回の件に付いてこれ以上言う事はないよ。俺も役得だったからね」
「シオンの抱き心地はいかがでした?」
「最高かな?」
「ちょ、お姉さま! 旦那様まで!」
「ほら行くよ。まだやる事多いんだし、宿屋ぐらいさっさとみつけよう」
「行きますわよ? シオン?」
「もぉ! 二人して!」
再び顔を赤くするシオンの手をツバキと引きながら宿を探して歩き出す。
とりあえず宿を見つけたら次は着替えと食事だな。明日家が手に入るなら荷物になる物は明日以降に買いに行こうかな。
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