第12話 上下左右全部守って

ギルドを出たもののこれからどうするかな。とりあえず当面の資金は出来た。明日また来るかは銀貨の残り枚数で判断しよう。最低でも十日は生活できるだろう。なら無理して働く必要ないしな。…………ちゃんとポーション作って販売したんだから働いているんですよ? って誰に言い訳してんだろうな。


さて、それじゃ今後の目標を用意するか。まずはキチガイをぶん殴る。じゃなくて、ぶん殴れるように自衛の強化だな。護衛を雇うか? ポーション作りまくれば雇えそうな気もするけどな。この場合は冒険者か? 傭兵? 退役軍人? うーん。どれもありそうで、どれも怖いな。

今の俺の外見はただの子供だし、何も知らず、後ろ盾もない金を持っている子供が護衛を雇ったらそのまま護衛に襲われそうだ。うん、ここは伝手に頼ってみるか。



「あれ? ヤマト君どうしたんだい?」


やって来ました、入り口の門へ。だって俺の伝手ってメルビンさんしかないし、メルビンさんは良い人みたいだからな。

門の所でソワソワしながら兵士さんの顔見てると最初に会ったゲイルさんが来てくれてメルビンさんを呼んでくれた。


「お仕事中に申し訳ありません。実は相談したい事が合ってお言葉に甘えて来ました。お仕事は何時頃に終わりますか?」

「仕事は構わないよ。町民の手助けをするのが兵士の役割だからね。ここでは何だから応接室に行こうか」


メルビンさんに案内されて門の詰め所の近くにある一室に来た。ソファーとテーブルが備えてあって奥には調理場らしいものもあるみたいだ。

ソファーを勧められて俺が座るとテーブルにお茶を二つ置いて反対側のソファーにメルビンさんも座った。


「それで相談事って何かな? もしかして商業ギルドで何かあったかい?」

「えっと、はい、実は――」


商業ギルドで男に絡まれランクのせいで満足に薬草も買えないことを伝えた。勿論セルガの名前は出さない。アレは俺がどうにかしたいし、一兵士のメルビンさんには貴族の相手は荷が重すぎるからな。


「そんなことが、申し訳ない。私の方から商業ギルドには抗議しとくよ。そんな事態になっているとは思わなかったよ」

「いえ、抗議とはしなくても大丈夫です。ちゃんとポーションも買い取って貰いましたし、余り大袈裟に騒いで今後の買取でいやーな顔とかされたらこの街で生活できなくなりますし」


それに兵士のメルビンさんがちょっと抗議しても商業ギルドが改善してくれるとは思えないしな。あのホールでのやり取りを見るにギルド事体が容認しているのは目に見えているからな。下手に騒いで買取金額を下げられても嫌だし、それこそ買取拒否とかされたら今の俺じゃ金も稼げないから西区のお仲間になっちゃうよ?


「そんな不誠実な職員がいるならそれこそ粛清するべきだよ! ヤマト君は優し過ぎる。そんな態度ならポーションを売らないってぐらい言っていいんだよ?」

いやいや、それ俺が死ぬパターンだから! 俺副業でポーション作ってるわけじゃないからね? これ一応本業だから。それに向こうのルールでやりあって見返してやりたいって思っているからね。幸いポーションは何の苦労も要らないものだし俺の方が勝算は高いからね。


「いえ、やっぱり自分の力でどうにかしたいですからね。メルビンさんの気持ちは嬉しいですけど、僕もこの街で生きる以上は覚悟を持って向き合いたいんです」

「――男の子だね。よし、なら困ったことが何でも言ってくれ! 全力で力になるよ! ってさっきも言ったことだったね」

「お気持ちは嬉しいです。それに一つメルビンさんに協力して欲しいことがあります」

「なんだい? なんでも言ってくれ」

「実は先ほど言った通り、変な男に絡まれる心配があります。これからランクを上げて行くにつれて妨害とか実力行使とかされたら困るので自衛の為の護衛が欲しいんです。何かいい伝手とかありませんか?」


メルビンさんなら怪我をして前線を退いた兵士とかにも伝手があるんじゃないかと期待してます。メルビンさんの見立てなら信頼できそうだしね。


「護衛か。本当なら兵士を貸し出したい所だけど、一個人に貸し出すには話が大きくなり過ぎるよな」

「メルビンさん! そんな大事にはしたく無いですからね!? ほんの一人二人の護衛が欲しいだけです! 退役した兵士とか伝手はありませんか?」

この人は何を言い始めているんだ? 俺のメルビン株が少し下落したぞ?


「退役って、護衛は老人には向かないよ? それに家庭持ちも前線から退いてまで他人の為に命を賭けるか怪しいからな」

…………そうか。ポーションがある世界だから負傷しての退役ってあんまりないのか。ポーションでも治らない怪我をしたなら別だろうけど、そんな人が護衛できるわけないか。


「傭兵とか冒険者っているんですか?」

「いるけどおススメできない。お金で裏切る可能性があるからね。大金を渡すとドンドン調子に乗って払えないならここまでだ、とか有り得る話だからね。余程信頼ができる傭兵団か冒険者チームなら良いだろうけど、そういった者達は短期間ならまだしも長期間の護衛には付いてくれないからね。商隊の護衛に二十日間とかなら問題ないんだけど、個人の御守りは嫌っていう人達が大半だね」


そ、そんな。なら護衛は諦めるしかないのか? …………でも確かに背中どころが上下左右全部守ってもらう必要があるわけだから怪しい人、信頼できない人に守ってもらうのは不安だよな。あー、どうしよう。いきなり手詰まりかー。


「そうだ。ヤマト君、今幾ら出せる?」

「…………ギルドでポーションを売った金額が銀貨三十枚ありますけど」

「え? 銀貨三十枚? …………いや、でも、…………うーん」


あれ? なんか悩み始めた? 銀貨三十枚以上持ってるって思ってたのか? もしかしてDランクポーションを売らなかったからか? でもセルガが作れるレベルだから極端に高いとは思えないけどな。


「…………ヤマト君。護衛にピッタリな職種があるんだ。ただお金が掛かる」

「ポーションを売って賄える給金なら問題ありませんけど」

「そうか。うん。まずは見てから考えようか。行こう」

サッと席を立ち玄関に向かうメルビンさんに続いて立ち上がる。


「え? あ、はい。えっとその職業って何ですか?」

「――奴隷だよ」

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