第15話

 さわさわと衣擦れの音がする。

 人の息ぎれ、お喋り、楽団が音楽を奏で、テーブルには色とりどりの料理。使用人たちが、シャンパンやワインがつがれたグラスを持って、お客さんに勧めている。


 昔から、あまりパーティーが好きではなかった。

 小さい頃は、自室に押し込められるし、大きくなってからも、色々な決まりごとの中の嘘の世界にうんざりしていた。身内だけのパーティーにしたって、気を許せるのは、1人もいない。


「マルセルさん、アリスさん。おめでとうございます。」

「ありがとうございます。」

「どうも、ありがとうございます。」

「本当に、可愛らしいお嬢さんですこと。バシュレというのはお父様の方の名字ですの?

 まぁ、何にしても。エルヴェシウス子爵家と縁が出来れば……」

 さっきから、何人目だろう同じような会話が続いていい加減うんざりしている。

 アリスの方の親せき、エルヴェシウス子爵家の方々の挨拶だって同じようなもんだし……。

 ため息をつきながら、ちらっとアリスの方を見た。

 アリスは、背筋をピンと伸ばし、優雅に笑ってお客さん達の相手をしていた。


 大したもんだ……。


 付け焼刃で教育を受けたと云うのに、まるで深層のお嬢様という風情だ。

 元々、子爵家のお嬢様なんだから、母親が家を飛び出さなかったらそう言う風に躾けられて、どこかにお嫁に出されていたんだろう。……俺の所に来たけど。

 俺との打ち合わせで、アリスは、かなり大人しい風に演じてもらっている。

 実際は、学校で体育なんかも活発にこなしてるのだけど、そういう風に見られると危ないので、運動の一つもやっていない風にみせる事にした。


 ドレスの中には、発信機と盗聴器の魔道具が付いている。


「疲れただろう?」

「大丈夫ですわ、マルセルさん」

 一通りの挨拶を終えて、俺はアリスの手をとり壁際に設置されている簡易夜食室に案内した。

 レースのカーテンで仕切られていて丸いテーブルと椅子が付いていて、カップルで食事が出来るようになっている。

「お腹すいたろう?何か取ってくるから持っててくれる?」

「はい。」

 アリスは、はにかむように笑った。

 俺は、パーティーに紛れ込んでるルフォールに目配せしつつ、飲み物と何かつまむ物を調達しに行った。

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