第10話

 ここはホテルの最上階のスイートルーム。

 広いベッドに、アリスを降ろす。

「う……ん」

 少し身じろぎしたので、起きるかと思ったら、すっかり、安心して寝入ってしまったようだった。

 大人っぽい格好をしているせいか、うっすらお化粧をして、幼く見える瞳を閉じている所為か、どう見ても子どもに見えない。


 いや……婚約パーティーを開くと決めた時から、もしかしたら、その前から、本当は子どもだと思って居なかったのかもしれない。


 俺は、アリスを寝かしたベッドに腰をおろす。

「アリス…」

 耳元でささやいても、無反応。

 本当に寝入ってるんだ。

 普段の、顔を真っ赤にしてこっちを一生懸命見る瞳が可愛くて、ついつい耳元でささやく癖が付いてしまった。

「いいの?

 俺のそばで、安心して眠ってると、襲っちゃうよ。」

 首にかかっている髪の毛を指で払いながら言う。

「う~~ん。にゃっ」

 くすぐったそうに、首をすくめた。

「にゃ…って」

 ぷっ…ついつい、吹き出してしまった。

「………と…とっ。笑ったら起きるな…」

「う~~~ん」

 って言って、アリスは寝返りをうってむこうを向いてしまった。

 せめて、18歳になってからかな。一応、結婚できる歳だし。

 って、後3年もあるのか…。


 そんな事を、考えてると携帯電話が鳴った。

 アリスが起きてしまうので、慌てて携帯電話に出る。

「……はい」

 起こしてしまわなかったかと、ベッドを見ると、すやすやと規則正しい寝息が聞こえた。

 知らずに、安堵のため息が出たようだ。

『どうかしましたか?』

「いや…なんでもない。

 それより、何かあったか?………ああ、分かった…」

 相手は、ルフォールだ。

 俺は、受け答えをしながら、ベッドルームを後にした。


 あれから結局、俺はアリスをホテルに1人残して会社に行き、家に戻って適当にアリスの服を選んで持ってきた。

 ほとんど徹夜の早朝、アリスが寝てるベッドに倒れるように入り、眠り込んでしまっても、文句は言わないで欲しい。


 気配を感じて目を覚ますと、先に起きたアリスが真っ赤な顔をしてベッドの上で固まってた。

「おはよう…」

 さすがに、2時間ちょっとしか寝てないとこっちもボーっとしてしまう。

 しかも、なにも警戒しなくて良い相手なら、なおさらだ。

 俺は、ベッドにうつぶせたまま、顔だけアリスの方を向けて朝の挨拶をした。

「お…おはようございますっ。

 あの、私……すみません。レストランで椅子立ったところから、あの……き…記憶が無くて……その……。

 せっかく買ってもらった服も…」

 ああ……やっぱりぐちゃぐちゃだ。

「別に、いいよ。そんなの家の使用人に任せれば何とかなるだろ。

 着替え取りに戻って持ってきてるから、それ持ってシャワー浴びてきたら?」

「でも……」

 不安そうな顔してこっちを見てる。

「ごめん……。仕事して家に帰って……寝たの5時ごろなんだ……。

 もう少し寝かせてくれる?」


 ごめん……笑ってやれなくて……もう、眠くて限界……。

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