第7話
久しぶりに、自分の生まれた屋敷に戻ってきた。
豪邸と云う程ではないが、家族と使用人を住まわせても、パーティーをするには充分な広さがある。
父が生きていた頃には、何かと云うとパーティーを開いて今はひっそりとしているこの屋敷も、ずいぶんにぎやかだったと記憶している。
俺は今、使用人の女性に客間に通されていた。
母が、入ってくる。
「あら、マルセルさん。1人なの?」
「彼女はまだ夏休みに入ってませんから……」
「客間で待っているって聞いたから、アリスさんも一緒だと思ってたのに……」
ずいぶん他人行儀なのね……ため息交じりに小声でつけたした。
母は、使用人に下がるように言って、優雅に俺の前のソファーに座る。
「…本題に入って良いですか?」
「アリスさんの事ね。……調べたんでしょ?」
「調べると云う程の事でもなかったですが……。お母さんの秘書のルフォールが知っていたので……」
「ルフォールに聞いたのなら、付け加える事は、なさそうね」
「どうして彼女を護ろうと思ったのかは、分かりませんが……。彼女を取り込んでも何のメリットも無いでしょう?
貴族の出と云うだけで、遺産だって…まぁ、大した額ではありますが、あちらの会社の経営権は親せきの方にあるようですし…」
「友達だったのよ。アリスさんのお母様、ナタリーとは……。
すごく仲の良かったお友達だったの。私が困っている時は、いつも助けてくれたわ。
だから、駆け落ちの時は、手を貸したし…今回の事も」
どこか懐かしそうに、切なそうに母は言った。
「だけど、あんな狭いアパートメントに男と2人きりにして、危ないと思わなかったんですか?」
「危ないの?」
……危ないです。口に出しては、言わないけど。
「マルセルさん、ロリコンじゃ無かったと思ったけど…。
でも、そうね。襲っても良かったんじゃない?」
「はぁ~っ!?」
何、言ってるんだ?
「ーで、こんな分かり切ってる事実を確認しに来たわけじゃないんでしょ?」
まだ、くすくす笑ってる。
「そろそろ、婚約パーティを開こうかと思いまして、その許可と準備をしてもらおうと思いましてね。
婚約って言っても、今のままじゃ、当人同士しか知らないわけですし…」
「そうねぇ~。私は、構わないけど……いいの?」
「かまいませんよ」
「………そうじゃなくて」
マルセルさん…あなた、本当にアリスを愛してるの?
母は、言いかけた言葉を飲み込み、少しため息をついて言った。
「アリスさんも、了承してる事なんでしょうね」
「もちろんです。
今回の婚約パーティーの意味も、そして断る事が出来る事も話しました」
「そう……。
それで、パーティーが終わったら、アリスさんはこちらの屋敷に住まわせるの?」
俺は、言葉に詰まった。
少し、顔が赤くなってるかも…。
「………いえ。
彼女が、俺のそばが良いというので……」
本当は、夏休みから、こっちの屋敷に住まわせないと、彼女の準備が進まないのは分かっているけど……。
「あら……でも、マルセルさんはダメなんじゃないの?」
目が笑ってる。意地悪だなぁ~大概に……。
「確かに…。俺は、他人と同居するなんて、まっぴらだと思ってます。
それは、今でも変わりません。」
母の目が、何かを見極めるようになってきてる。
「だけど…、彼女は……アリスは、他人じゃありませんから……」
鋭かった目が、きょとんと変わったのが見えた。
「え?マルセルさん?それって………」
焦ってる焦ってる。
俺は、心の中で笑ってしまった。
「パーティの件は、お願いしましたよ。日にちが決まったら知らせて下さい」
焦っている母を、尻目に立ちあがって、ドアに向かう。
ふと、思い立って振り返り
「ああ、ルフォールをパーティの日まで、借りても良いですか?」
「ええ…構わないけど……マルセルさん?」
「じゃぁ、また……」
今度こそ、ドアを開けて部屋を出て行った。
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