第6怪 悲鳴

部署に入ると、部長が机に向かってパソコンを打っていた。


私は部長の前に行き、小さく挨拶をする

「おはようございます」


「おはよう李華ちゃん」

すると、部長はすぐさま天狐の顔を見て、笑顔を見せた。

疑問に思ったのか、私に質問を投げかけた


「所でその子は誰だい?」


「えっと.....従姉妹です。職場見学をしたいと言うので連れてきました。勝手にすみません!」


「そうかそうか!全然良いよ!たっぷりと見学して行ってくれよ!」


私は部長にお礼を言い、席に戻ろうとすると天狐が手を越しに当てて叩きつける様に言い放つ。

「何じゃ狭い職場じゃのぅ。暑苦しいわ。よくこんな場所に居れるのぉ?」


「しっ!思ってても言わない!」

口が滑った!と思った時にはもう遅く、部長が私の顔を苦笑いで見ていた。


「.......は、ははは社長居なくて良かった.......」


「ごめんなさい部長!」

深々と頭を下げると、部長は柔らかな口調で

「いやいや子供は正直が一番だ。ははは」と許してくれた。


そして部長は自分の机に向かう。

私は天狐にキッとした表情で叱る


「次からは絶対言わない事!てか最初に余計な事は言わないでって言ったでしょ!?」


「はて、そんな事言ったか?」

天狐はシラを切った。

しかし、もう怒る気も無くなり席に座ると、後ろから声が聞こえてきた。


「オハヨー李華ちゃん!あれ、その子誰?可愛い〜!耳それアクセサリーつけてるの?」


美里だった。

そうだった美里には見えるんだった.....


「む?お主見えるのか?」


「は、ははは、美里ちゃんちょっと来て!」


「え?うん。」


私は美里を隣の席に呼び、耳打ちをする。


「あの子は妖怪なの。色々あって今日一日だけ、一緒に住んでるの。」


「えぇ!そうなの?」


「周りには言わないで!姿は見えてるけど耳と尻尾は見えてないから!」


「分かった。出来る事なら李華ちゃんに協力するね!」


「ありがとう美里ちゃん!」


美里にお礼を言うと、美里は私の肩に手をポンッと置き、自分の席に戻って行った。


わざわざ呼ばなくても美里の席は真向かいなので、デスクに身を乗り出して耳打ちすれば良かったのだけれど、やはり周りの目があるので態々呼んだのだ。


「1人にするでない。変な奴らが物珍しそうに来たではないか。ちゃんと従姉妹って言っておいたぞ有難く思うことじゃな」


天狐は鼻息をフンと出し、してやったりの顔でこちらを見てきた。

元はと言えば天狐ちゃんが付いてきたのが悪い気がするが、腹の中に収め、何も言わない事にした。


―――やがて昼休みになり、私は天狐と二人で昼食をとりに外に出た。

美里はと言うと、お弁当を持参していたとの事だったので付いては来なかった。


お店を探していたが、昼時なので、会社員や休日を過ごして遊んでいると思わしき人達がわんさかと行列をなしていた。


あまりにも混んでいたので私達はハンバーガー店に向かい、チーズバーガー二つとオレンジジュースを注文した。


チーズバーガーを初めて見たであろう天狐は最初は戸惑っていたが、口に入れた瞬間目を輝かせ、うっとりとした表情で食べていた。


私も最初食べた時はこんな感じだったな〜としみじみと思う。


今じゃ偶に、ハンバーガー店に寄って食べるので、美味しいとはあまり思わなくなってきた。


しかし、天狐と雑談を混じえながら食べるハンバーガーは一人で食べる時よりもより美味しく感じた。


―――食べ終わり、外に出ると何処からか悲鳴が聞こえてきた。

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