第22話 体験外泊

少年は体験外泊の日を迎えた。

朝食後、身支度を整えると夫妻が運転する車に同乗して礼場へ向かう。

車内ではアイスブレイクがてら世間話を挟む。

やはり神職に就いているだけあって、人の話を聞き出す能力に長けている。

普段、隙を見せない少年ですら饒舌になってしまっていた。


礼場へ到着した。

建物はレンガ造り3階建。明治モダンを感じさせた。

「実に文化的な建物ですね。」


「外国発祥の宗教ですから、どこもこのような雰囲気です。」

夫人は落ち着いた口調ながら、どこか得意げに話す。


3階の礼拝場に通された。内装の一部となっているパイプオルガン、神を模した像、礼拝用のベンチ。それらは西洋建築の様相をしており、まるで日本国内とは思えない。

ここで朝と夕に祈りを捧げるキマリになっているそうだ。


その後、少年が住む候補である、下宿者用の集合住宅に案内された。

礼場から徒歩5分の近場だ。そこは一般的な2階建てのアパートだが、本来ならアパート名が掲示される表札に教団名と宿舎番号が附番されている。どうやら各礼場ごとにこのような居住施設を設けているらしい。

一般的に教団法人が運営する学校の学生か、礼場で修業をしている独身者が住んでいるそうだ。

室内は至って普通の1ルーム。1口コンロのミニキッチンにセパレートタイプの水回り、部屋は6畳のフローリング。家具、家具類は備え付けられている。


「食事の際に礼場へお越しになってもらって、それ以外はこの部屋を使ってください。

洗濯などは一保で教わっているから問題は無いでしょう?」


「ええ、身の回りの事は一通りこなせます。」


普段、忙しい夫妻は手のかかる里子は預かれないが、少年のような自律した人間であれば預かる事ができるらしく、そういった意味で体験外泊の場を設けたと後日児相職員から聴かされた。


一通りの説明を受け終えると、夫人は少年の頭に目をやり提案した。

「かなり髪が長いようだけど短くはしないんですか?」


「施設を脱走してから今日までそうのような機会がなかったものでして。」


「それはいけません。近くに理髪店がありますから是非、切りましょう。」

夫人は少年にお店のチラシと散髪代を渡すと少年を送り出した。


実に二か月半ぶりの散髪を少年は受けた。

肩までかかる長髪が一転して短くなった。少年の風体に涼しさが蘇る。


致せり尽くせりの体験外泊を終えると、夫妻から転学試験の日時案内と学校パンフレットを受け取り、一保の管理生活へ戻った。

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