introduction
A・G2016
(イーストサイド ディシプリン 運命・変革)
main character〈アイラ・メイヤ〉
澪の妹を惨殺したのは、国際警察機構のクィーン・クィーンという女だった。
「彼女は任務に忠実だっただけさ」
と、比右は部下の行為を正当化するが、それについて部外者の俺の介入は好まないというスタンスを見せつけて相手にはしてくれなかった。
そのためか、ふさぐ澪をみても何ともないようで、澪の方も、親戚ですら彼女の死を嘆かないのだから、と一人になりたがっていた。
「もうすぐ恋人と旅行するのだろう。
気晴らしでもしてきたらいい」
「・・・そんな気分じゃない」
「そっか」
俺は、そっと彼女の肩に手をかけていた。
「なぐさめなんかいらないわ」
「そんな気はない。
気休めができるほど、器用に俺はできてないんだ」
「・・・」
「・・・」
「あたし、許せないの。
あなたも、彼女も」
・・・
「事情を知らないヤツらにどーーーーーーーーーーーーのこーーーーーーーーーーーーーーーーーのってムカツクーーーーーーーーーーーーーんだけどさーーーーーーーーーー。
まっ、いっっっっっっっっか」
「普通に話してくれよ」
「そっ、残念だわ」
「いいから」
「まっ、知らぬは当人ばかりなりってね。
澪の妹、さくらっていうのね。
名前なんかどっでもいっけどさ。
さくら、澪の恋人とつるんで非合法な薬品や、クローニングで製造された臓器なんかを売買してたのよね。でさ、国際警察機構は、その芽をつむいだってことよ」
「よく解らないが」
「まっ、遅いか早いかの違いね。
さくらが持っている臓器のリーク先の情報を手に入れるために殺したの。
彼女が拒否したからよ。
二人が関わっていたのがJudgeで幹部クラスにあるスクルド・カッシュって外道なんだけど、甘くはない男なんだよね。だからぁ、どっちにしろ当事者の二人は無事ではいられないわ。
しかも、男は身の危険を感じてスクルド・カッシュに保護を求めた。
見当違いもいいところだわ。
彼、頭はいいけれど、利口じゃないわね。
いま、郊外の港で取引があるって、紫苑さんが飼ってる情報屋のクレス・ファウから聞いて行くんだけど、来る?」
「いいのか?」
「一人に漏らすも、二人に漏らすも一緒だから・・・」
「どういうことだ?」
「あたし、澪にも、それ言ったから」
・・・あいかわらず、こいつの思考はまるでよめない。
一回、脳髄を解剖して診断結果を書類にして掲示してほしいもんだ。
もっとも、俺はんなもん見たくはないけど・・・
俺は苛立ちをおさえて呆れていった。
「おまえ、なに考えていやがんだ」
・・・
あたしの恋人と争っている男は片桐脩と言った。
ふたりは距離をおいて話していたが、その内容は、あたしには解らないものだった。
脩は、あたしに警戒などしていなかった。
バカね、あなた・・・
そんなお人好しだから、すぐ人に騙される。
裏切られて傷つくのよ。
あたしは、クィーン・クィーンという女から手渡された銃のトリガーに手をやった。
・・・
「かならず二回トリガーをひくんだよ。
胴体を狙うと、当たる確率はグンとあがるわ。
ムリに足とかをピンポイントで狙うと無駄玉になるわ。
気をつけてね」
・・・
そして、撃った。
「・・・当たった」
・・・
傷口をおさえて跪く男。
・・・
あんたって、あたしにはその程度の男なのよ・・・
でも、そのとき裏切られていたのは、あたしの方で、彼は、あたしを裏切りJudgeという犯罪組織に寝返り、あたしをダシに脩を呼びよせ、脩を殺すために、あたしを利用していたんだ。
それを知っていた脩は、あたしのために、たったひとりで犯罪組織の群れのなかに入っていった・・・
だけど脩は、あたしの銃弾に傷つけられてしまっていた。
あたしはクィーン・クィーンと懇意な彼を、犯罪者である彼を偏見で首謀者だと勘違いしてしまっていたから・・・
「くれぐれも、あんたが狙うのは自分の愛している男なのよ。
でないと、運命は変わらない」
「どういうこと?」
「変革を願っているのは、あんただけじゃないってことさ」
・・・
本当なら、死んでいたわね。
あたしも、あなたも。
あのとき、天使が舞い降りていなければ・・・
・・・
「天使?」
「バカ、逃げるぞ」
・・・
あたしは彼女を知っていた。
しかし、あたしが知っていた彼女は、彼女の一部で、そのときの彼女のこと、いま思い出すだけでも身の毛がよだつ・・・
「あいつは、目の前にあるすべてを破壊しつくさなければ気がすまないんだ」
脩は、あたしの腕をひいて逃げていた。
血を吐き、内蔵が崩れ落ちようとも、かえりみない。
あたしを守って、逃げだした。
さびれた教会に辿りつくまで・・・
脩は、あたしをその懺悔室にかくまうと、自分は建物の入り口で彼女の殺戮の状況を見守っていたが、彼女はすぐ傍まで迫ってきていた。
何十ともいえるJudgeの手練れを殺し尽くしてしまった彼女は、ゆっくりと脩の元へと歩みよる。
その彼女に、脩は声をかけていった。
「まだ拭いきれないのか。
その記憶を」
「あたしの中にいる。
あやねが殺意を衝動にまねくのさ」
「もういいだろ。
あんたとは殺りあいたくない」
「あー、そーかい」
彼が、懐からピストルを・・・
「みるかい?
あたしのスピリット」
引き抜くことができなかった。
「・・・」
彼が懐に手をいれた瞬間、彼女の膝が彼の肘を蹴飛ばして、その脚力で押しこむと、そのまま足をのばして彼の腹部に重心をもっていき彼の腹を足蹴にする。
脩を教会の壁におしつけると、彼女は、その頭部に銃を当てていた。
「あいかわらず、化け物なみの強さだな」
「強い?
それは認識がおかしいわね。
これは的確というものよ」
「そーか」
「何ものにも的確であろうとするあたしの意志に、あんたも逆らってみるのかい?」
「俺を殺すのか。
あんたの中の理性を衝動が蹴散らしてしまっているからか」
「かもね」
「よせよ。
此処には少女が眠っている。
思い通りにならない現実に苦しみながらも、夢と未来に希望を抱いて、運命を切り開いた少女のことだ。
あんたには見逃してほしいんだ」
「あー、そーかい」
ダンッ。
彼女はトリガーをひいていた。
「運がいいね。
タマぎれさ。
また次の機会に期待するさ」
「あいかわらずジョークかマジか解らん女だぜ」
「まっ、親友の頼みを聞いただけだったからさ。
あんたらは予想していたけれど、イレギュラーに変わらないから許したげるよ」
「そもそも、あんたのせいだがな」
「クィーンかい?」
「まっ、いいさ。
助けてくれんならさ」
「次はないさ。
憶えときなよ」
・・・
そのとき、あたしは教会の扉を少し開いて二人をみていた。
いてもたっても、いられなかったから・・・
だからだろうか。
無謀にもあたしは、彼女を追って彼女のもとへ。
そして、彼に背を向けていた彼女に向かって絶叫するように・・・
「なんでよー。
なんで、こんなことすんのよー。
あんたの行為に意味なんてないじゃない」
そういった。
「あー、そーかい」
「澪、やめろ」
あたしは一人とりのこされている心地だった。
だからこそ、その憤りを誰かにぶつけなければ気がすまない。
「あたしが何も知らないから?」
「あたしだって何も知らないさ。
任務をこなしてるだけの傀儡にすぎないさ」
「それだけ・・・
任務のため?
そんなことのために人を殺したの」
「まっ、そういうことさ」
「・・・」
「・・・」
「天使なんて上っ面だけね。
あなた、とんでもない悪魔だわ」
「さんきゅす。
それって、すんごいホメ言葉だわ」
彼女はカルマをクチに銜えると、そういって吸っていた。
でも、間違っていたのはあたしなの。
本当に、それは解っていたの。
だから、その贖罪なの。
過ちを犯した人は皆、罪を償わなければならないの。
あたし・・・
見誤っていたのよ。
「澪、やめろ・・・」
誰が一番わるい奴なのかも解らないけど・・・
でも、あたしが良い奴でないのは確かなんだ。
自分自身でさえ善悪の判断もできずに・・・
これ以上・・・他人を・・・
関係のない人まで傷つけてしまうくらいなら・・・
ダンッ。
あたしは耳の横に銃弾を撃ち込んで自分の頭を・・・
「澪!!!」
運命は変わらない。
たとえどんなに望んでも、実行に、うつすことができなくて、結果に反映させることができなかった・・・あたしには・・・
「澪・・・どうして?」
・・・なんで?
悲しむことなんかないのに・・・
あたし、今、光にとりこまれている。
あたしの中に・・・
あたしではない別の意志を感じているの。
だから・・・
・・・
「あなたの想い。
あたしが引き継いであげようか?」
「だれ?」
「名前なんて何でもいいけど・・・
アイラ・メイヤと呼んでちょうだい」
「あなたが意志を?」
「そうよ。
あなたの運命は決まってしまった。
運命は時間を繰りかえさない。
あなたが運命を諦めてしまったから・・・
でも、あなたにはできることがまだ、あるの。
あなたを必要としてくれていた他の誰かのために、あなたがそれを望むなら、あなたにはできることがあるんだよ」
「どういうこと?」
「あたしは人の記憶をかきかえることができる。だから死んだ筈のあなたになって、あたしが新しい未来をつくるんだ。
悲しい顔ね。
信じられない?
まっ、あたしは聖人じゃないし全知全能のアレでもないから確証はないけど・・・
だけど、約束はできるんだ。
だからしておく。
あなたの不利益になることは決してしない・と」
「それって、あたしに選択する権利はあるの?」
「いいえ、ないわね。
でも、信じてちょうだい」
「わかってる。
あたし、信じるわ。
それしかないということを・・・
あたし自身が認識してしまったから」
・・・
「澪、大丈夫か?」
「ええ、平気よ」
「そうか、なんか疲れてんだな俺。
おまえが頭を撃ちぬこうと・・・」
「錯覚ね。
あなた疲れてるわ。
気にしないで」
「ああ」
「それよりも、あの女は?」
「比右か?
もう行っちまった」
「せっかちなのね」
「いいや、あいつは・・・」
「地上に舞い降りた最後の天使・か。
ヴァイオレット研究所で創られた最後のモルモットって意味なんだよね。
だけど、天使?
天使と呼ぶには気高くも神々しくもないわね。
しょせん色ボケの人間なのよ。
あの女は・・・」
「そんなことないさ」
「あるわよ。
天使なんて上っ面だけね。
あいつは、くだらない悪魔なのよ」
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