(記録)善良な異端者
「日本の科学を牽引してきたのは善良なマッドサイエンティストだった。」
web上のどこかでその言葉を読んだ時、心のどこかで共感したのを覚えている。
私がマッドサイエンティストだったのかというと、なり損ないだった。
マッドサイエンティストになる前に、研究を評価するべきだと考え、大学を去ったからだ。
主流と対立する異端者ではあったが、研究は続けなかった。
私がやろうとしたことは、遺伝子組み換えを連鎖的に複数導入して、
塩に強い植物を創り出すことだった。
この考えは、1980年代くらいまでは主流だったが、
遺伝子組み換え技術の発達によって、むしろ淘汰され、
私の在学中は、オーストラリアのTesterらが推奨しているにすぎなかった。
それまでの経緯など知る由もなく、
生命科学の基礎研究がつまらないと思った私は、農学寄りの研究室に行き、
「自分で勝手に研究させてください」と言って、独学で研究を始めた。
ただ、世の中をひっくり返すような、誰よりもすごいことがしたかった。
当時のモチベーションは、
「使えない土地が使えるようになれば、大金持ちになれる。」
「うまくいかなくても、教授になれる」
「Na+とK+の違いが水分子の流動性を決めることが、細胞がNa+に弱い根本的な原因に違いない」
という、利己的で、化学のお爺ちゃん先生がちょっと話した言葉を鵜呑みにしただけの、
無知の塊だった。
それでも、先生からチャンスと時間を与えられ、研究室に引きこもるように、
黙々と独創的な研究を続けた。
そして、「塩に強い植物体が行っている塩の輸送経路を、目的の植物で再現しなければ、塩に強い植物なんてできるわけがない」という、
ある種、あたり前の結論に至ったのだ。
お金がなかったので、遺伝子組み換え技術はほとんど触れなかった。
できることから始めると、分析技術の方が大事だった。
故に、マッドサイエンティストにはなれなかった。
遺伝子組み換え技術は、研究にはよく用いられている技術だが、
現代の科学技術では、植物の構造を加味して複数組み合わせて制御することはほとんどできない。
世界中の大学がやっていることは、遺伝子組み換えによって細胞レベルで塩に強くし、
その原因となる遺伝子やタンパク質を同定し、機能を調べ、発表するということであって、
構造体レベルの生命体を進化させるような研究は、
遺伝子組み換えにおける交配後代の安定を考えると100年単位の時間がかかり、
分析技術の限界だけでなく、
遺伝子組み換え自体への否定的な意見もあって、
そんな失敗がわかっている研究に資金を託すことなんてありえない状況だったのだ。
100年先の基礎研究なんて、やるだけ無駄だと思うかもしれない。
しかし、オーストラリアでは300年後に作成すると署名して、Testerらが挑戦し、
日本ではあちこちの研究室で、私が否定した主流の研究を続けていた。
あながち、私がおかしかったわけではないとだけ、記載しておく。
大学を去り、社会問題を整理して研究を評価することが、今の私の夢に代わった。
そうしなければ、塩に強い植物を創るような、
発見したものを組み合わせていく研究が続けれられないからだ。
大学では「いつかどこかで何かの役にたつのだよ!」とだけ繰り返し、
コネやプレゼンばかりよくて研究費を受け取り、点数稼ぎのような基礎研究しかしていない人が評価される。
そんな誰かから研究費を奪い去るための研究が、私が次にやろうとしたことだった。
何もできずに歳をとったな。
かつてのような、そんな過激なことは考えていない。
ただ、これからは人工知能がある。
善良でまともな一人の異端者として、夢を追いかけることにしている。
異端者に綴る @shishi-tori
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