第5話 小さくて大きな刀
――俺は65535。でも基本的には75で、思春期でも100……。
「あらあら、その程度しか……。ん、待てよ、ということは…」
チラリとユリコに目を向けると、彼女は目をそらすように俯いた。
「おい、だからお前、いい加減にしろ」
剣に手を掛けながら白石は殺気のこもった声で言う。
「いえ、いいんです。この数字は隠しようのない、事実ですから」
――『ヘンタイで何が悪い、その言葉に、勇気づけられた』
そう言ってくれた言葉の重みが増す。そして、彼女の父親の発言も……。
「ま、俺の数字の隣に居りゃ、75も120も誤差みたいなもんだけどな」
「お前、調子に乗るなよ。その数字が大きすぎて、処理方法を考えるために王都へ連れて行ってるんだからな」
「はい……」
頭上には鳥が舞い、白銀の大地が陽の光をキラキラと反射する。前までいた都会じゃ決して味わうことの出来なかった大自然も、頭を支配する『処理方法』の四文字の前では霞んでしまう。
……一体俺はどうなってしまうんだ。仮に変態だとして、それは罪だというのか?
悶々と思考を巡らせながら歩いていると、突然前を行く白石にぶつかってしまった。
「っと、ごめん。てか突然立ち止まるなよ!」
「シッ、静かに。チッ…ここまで出ているか」
声は険しく、白石は魂抜剣を抜く。
彼女の背中から首を出すと、そこには軽自動車並の大きさの、半透明の物体が二個揺れていた。
「これって……もしかしてスライムってやつ……?」
「ああそうだ、どこからともなく現れ、人間に害をなすモンスター。コイツに密着されると……」
「されると……?」
ゴクリ、と唾を飲む。白石の身体も、小さく震えている。
「……変態の数値が上昇してしまうんだ」
「へ?」
「笑い事ではない!変態になるなんて、そんなの人として死んだも同然じゃないか!おい、来るぞ!!」
彼女は剣を構えると、飛びかかってきたスライムの勢いをそのままに真っ二つに切り裂く。
いや、変態になるって、そんなモンスターあるかよ……。
そんなことも考える間もなく、後ろから悲鳴が聞こえてきた。
「…!ユリコさん……!?」
振り返るとそこには、水色の巨大ゼリー絡まれるユリコの姿があった。
べっちょりとユリコの身体に密着したその魔物は、ヌルヌルとユリコの衣服の隙間に侵入して……。
……ゴクリ。
なるほど、こういうモンスターか。それはそれでアリだな……。
そう考える自らの邪念を、頭を振って振り払う。
いや、そんなゲスいこと考えてる場合じゃないだろ、女の子が襲われてるんだぞ!
「うおおおおおおおおユリコさんから離れろおおおおお!」
不自由な両手で何とかユリコに密着するスライムを引き剥がすや、ユリコは手に握りしめた小刀をぶんぶんと振り回す。細切れに切断されたスライムが、手の中で溶け、蒸発していった。
……いやその小刀、人体に物理的な害がないのは分かるけど、やっぱり怖いんだよね。何度か俺の腕、切られてたし。……まあ、でも。まずは。
「大丈夫ですか!?ユリコさん!」
まずはユリコの安全が第一だ。腕の中のスライムが溶けきると、ユリコの元へ駆け寄る。
「あっ、数字が……」
ユリコの頭上を見やると、その数字が125に増えていた。
「いえ、私はいいんです。それよりも姫様のところへ!0の彼女に、傷をつける訳には……!」
そう言われて白石の方に視線を向ける。
「姫様!」
ユリコが悲鳴のような声を上げるよりも早く、俺は白石の元へ走り出した。
あの馬鹿、気づいてないけどもう一匹、お前を狙ってるスライムがいるじゃないか…!
そのまま白石を弾き飛ばすと、白石とスライムの間に割って入る。
「おいお前、何を……・。お、お前!」
後ろから白石の、叫び声が聞こえる。だが俺は、飛びかかってくるスライムを見据えたまま、目を逸らさない。
宙を舞う半透明の影が、こちらに近づいてくる。
一秒一秒が、長く感じられた。
べちょり。
下半身に、衝撃と不快感が走る。
股間に、ドロドロとしたスライムが張り付いていた。
布に染み込む、生温かく粘性の高いベットリとした液体。この不快感を、俺は何度寝起きに味わってきたことだろう。
「馬鹿!お前、私をかばって……」
「いいから姫さん、早くしろ!その剣は、俺に刺しても痛くはないんだろ!?さっさと俺ごとこのスライムを貫け!!」
わかった、白石はそう短く答えると、素早く的確に、その手の中の剣を俺を挟んだ向こう側のスライムに突き刺した。
――そう、的確に。
「!?うっわ、うおおおおおおおおおおお!!!!!」
白石が低い位置から突き刺した魂抜剣は、俺の谷間を貫通し、股の間から姿を現わすと、スライムを深く突き刺していったのだった……。
スカートを覗いたら異世界でした ずまずみ @eastern_ink
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