第27話 襲撃
「
「落ち着いて下さい、
彼女の報告に、俺は胸をなでおろす。
これ以上知人が目の前で消えていくことに、俺は耐えられそうにない。
「恐らくは、力の使い過ぎでしょう」
「力の?」
「ええ、身に覚えはありませんか?」
彼女にそう言われて、俺はあの白昼夢を思い出す。
星々が煌めく宇宙の深淵のようなあの場所で、俺は光に導かれるまま漂っていた。
「彼女が超能力者だという事は話しましたよね」
聞いている。
「彼女の力は予言だけではありません。いや、むしろそれは副次的な能力と言ってもいいでしょう」
「副次的?」
「はい、彼女の真の力は精神観応能力です」
「精神感応……」
「はい、英語ではテレパシーとも言いますね。言語などによらず、直接人の心に語り掛ける能力です。
ですが、彼女が感じ取れるのは人の心だけに限らない。世界のありとあらゆるものと心を通い合わせることが出来る。それが彼女の真の能力です」
「ありとあらゆるもの?」
言葉では理解できるが、想像なんて出来やしない。
ちっぽけな人間の脳では、そんな情報はとてもじゃないが処理できないだろう。
「そうですね。その負荷は我々の想像の埒外です。彼女の力を抑えられる手段を模索していますが、残念ながらうまい結果は出せていません」
彼女はそう言って首を横に振る。
やはり、あれは
★
「ふぅ」と、
司令官の許可なく
死人のような顔色をして少女を抱きかかえて来た少年にかける言葉としては、あれがベストだったはずだと彼女は判断した。
だが、彼女は少年に伝えていない事がある。
『少女の寿命はそう長いものでは無い』
少女にもたらされた力は、ただの人間が抱えるにはあまりにも大きすぎた力だった。
「あるいは、あの少年こそが、カギとなるかと思えたのですが……」
少女は生まれついての超能力だ、それが異世界においてスキルを授かった人間との最大の違いだった。
「うっ……う……」
少女が小さなうめき声を上げる。
彼女は少女を起こさないように、優しく毛布を整えようとした。
その時、弱い瞬きを繰り返し、少女の目がゆっくりと開いた。
「
「来る」
「え?」
「来る」
そう言って、少女は彼女の手を弱々しく握ったのだった。
★
けたたましい警報音が無機質な廊下に鳴り響く。
「なっ!?」
一体何が起こったのか。病室から自室に帰る途中だった俺は周囲を見渡した。
『緊急警報、緊急警報、当基地は所属不明の部隊より襲撃を受けています、これは演習ではありません、繰り返しますこれは演習ではありません』
スピーカーからは狂ったように同じ言葉が繰り返される。
地下基地は蜂の巣をつついたようにバタバタと人が入り乱れる。
「敵襲ってどういう事なんですか!」
俺は道行く人を捕まえて怒鳴りつけるようにそう尋ねた。
「君は
彼は吐き捨てるようにそう語ると、サブマシンガンを揺らしながら慌ただしく俺の前から去って行った。
「奴らに……見つかった!?」
ゾワリと背筋に冷たいものが走る。
見つかった? このタイミングで見つかった?
思い出すのはあの世界での出来事。
奴らの群れに追いかけられ、一度は洞窟に逃げれたものの、結局奴らの襲撃に会い全てを失ったあの時の事。
「俺が! 俺がッ!」
全ては俺の所為なのだ、俺が関わるものは皆消えて行ってしまうのだ。
「いや、違う!」
俯いた顔を上げる。
「今度は、今度こそは! もう誰も失わせるものか!」
俺は拳を握りしめ、銃声がする方向へ走り出した。
★
「くそっ! 駄目だ! やはりゴム弾ではらちが明かない!」
「諦めるな! 非戦闘員の避難が済むまで時間を稼ぐんだ!」
「実働員はまだかッ!」
「早くしろ! 隔壁が閉まるぞ!」
メインゲートに近づくにつれ怒号が増してくる。
やはり戦況は大分不利なようだ。
それも当然、敵は協議会の帰還者だ、超常の力を振るう連中に、護身用の非致死性兵器では分が悪いなんて話では無い。
「にしても早い、早すぎる!」
この基地は
特に、メインゲートの特殊合金製の壁は、筋力Aクラスの敵が来ても時間は稼げるって言っていたのに。
「俺が来ました! 皆さんは退避してください!」
人波を飛び越え、曲がり角を幾つも曲がり、メインゲートにたどり着いた俺が見たのは、スプーンでえぐり取られたように、ぽかりと穴の開いた隔壁だった。
「はっ、どんなに立派な防壁だろうと、僕のスキルの前では意味なんて無いさ」
「お前は……」
その人を小ばかにしたような声、その腐ったドブ川のような瞳。
忘れようにも忘れられない男がそこに立っていた。
「
「久しぶりだなぁ、
奴は背後に大勢の人間――おそらくは帰還者、をつれて、ニヤニヤと笑いながらそう言った。
「君には随分と世話になったよ」
「また千切り飛ばされたくなかったら、大人しく引っ込んだ方が身のためだぜ?」
俺はそう言い、いつでも飛びかかれるように、腰わずかに落とす。
「ふふふ。僕をあの時の僕だと思わない方が身のためだよ?」
俺の挑発に対して、奴は同じセリフで返してくる。
奴の自信はいったいなんだ?
奴は魔法頼りのスキル系統の持ち主、俺との相性は最悪の筈だ。
「ふふふ。コイツの相手は僕がするよ、みんなはお宝の確保をよろしくね」
奴はそう言って腕を上げる。それと同時に、奴の背後にいた人間たちが一斉に動き出した。
「そうはさせるか!」
「君の相手は僕だって言ったろ!」
「なっ!?」
俺が背後の奴らに気を取られた瞬間だ、奴は瞬きの間に俺の眼前に現れて、その勢いのまま俺を殴りつけて来た。
「がッ!」
俺は奴の一撃を顔面にまともに食らい、派手に吹っ飛んだあげく、壁に叩きつけられる。
「ははっ! まったく野蛮だよね!」
奴は狂ったようにそう笑いながら、壁を背にした俺に追撃を叩き込んでくる。
強い! 速い! 一体なんだ!?
ホテルで戦った奴には一歩及ばないまでも、少なくとも俺と同等以上の力を持っている。
あの時――学校で戦った時は、魔法攻撃こそは優れていたものの、肉体的な力はそれほどでも無かった筈だ。
だけど!
大ぶりの奴の拳を外に弾き、がら空きの顔面にカウンターを打ち込む。
いくら肉体的なステータスが急上昇していても、戦い方は素人のそれだ。あの時の
「つッ!」
俺の拳を受けた奴は、大きく態勢をのけぞらせる。やはり耐久性も大幅に向上している。以前の奴なら、遥か彼方まで吹っ飛んでいた筈だ。
「ふん、まったく。やっぱり肉弾戦なんて泥臭い事は性に合わないね」
奴はそう言うと、右手をこちらへ突き出した。
魔法系のスキルか? だが、それが俺に効かないのは奴が最も知っているはずだ。
俺がそう思った時、奴の右手が左右に割れ、その中から銀色に輝く巨大な砲身が姿を現した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます